ステークホルダー関与度評価マトリックスとは何か?PMBOKの用語を解説
ステークホルダー関与度評価マトリックスとは
ステークホルダー関与度評価マトリックス(The stakeholder engagement assessment matrix)とはステークホルダーと関与度をマトリックス状に視覚化したデータの表現方法です。
主にコミュニケーション・マネジメントの計画のプロセスやステークホルダー・エンゲージメントの計画のプロセスで使われるデータ表現です。
PMBOKでは「ステークホルダーの現在の関与度と望ましい関与度を比較したマトリックス」と定義されています[1]PMBOK第6版、716頁。。
ステークホルダー関与度評価マトリックスを作成するメリット
ステークホルダー関与度評価マトリックスを作成するメリットはコミュニケーションギャップを早期に発見できるところにあります。
これから詳しく見ていくように、ステークホルダー関与度評価マトリックスでは、現在のステークホルダーの状況と、望ましいステークホルダーの状況を記述していきます。
状態の差はそのままコミュニケーションギャップを表しています。
このように、ステークホルダー関与度評価マトリックスはステークホルダーとプロジェクト・チームとのコミュニケーションギャップを明確にし、その対策を講じるために必要な資料です。
ステークホルダー関与度評価マトリックスの作り方
ステークホルダー関与度評価マトリックスの用語
ステークホルダー関与度評価マトリックスは縦に各ステークホルダーの名前を、横に関与度をとって作成します。
関与度は不認識、抵抗、中立、支援型、指導の5つに分けられます。それぞれの関与度が意味するものは以下の通りです。
不認識 | プロジェクトの存在も与えている影響にも気が付いていない。 |
---|---|
抵抗 | プロジェクトの存在にも、与えている影響にも気が付いている。 しかし、プロジェクトの作業や成果を支持していない。 |
中立 | プロジェクトの存在にも、与えている影響にも気が付いているが、支持も抵抗もしていない。 |
支援型 | プロジェクトの存在にも、与えている影響にも気が付いており、作業と成果を支持している。 |
指導 | プロジェクトの存在にも、与えている影響にも気が付いており、プロジェクトの成功に対して積極的に取り組んでいる。 |
これら5つの関与度と各ステークホルダーで表を作り、各セルには“C"と“D"の2つの英単語を記入していきます。
Cは“the current level"から、Dは“the desire level"に由来し、それぞれ直訳すると「現在のレベル」、「望まれるレベル」になります。
つまり、CとDの2つの文字が意味するところは以下の通りです。
C | ステークホルダーの現在の関与度。 |
---|---|
D | プロジェクトの達成のため、ステークホルダーに望まれる関与度。 |
ステークホルダー関与度評価マトリックスを作るために必要なもの
ステークホルダー関与度評価マトリックスに必要なのは、ステークホルダーとその情報です。
ステークホルダー登録簿があれば、ステークホルダーが一覧化され、彼らの態度も記されていることがあるので、非常に便利です。
もしステークホルダー登録簿がない場合は、ステークホルダーを一覧化し、彼らがプロジェクトに対してどのような態度をとっているかをまとめておく必要があります。
ステークホルダー関与度評価マトリックスを作っていく
ステークホルダーが一覧化され、プロジェクトへの態度も整理されたら、下の表のように、縦にステークホルダーを、横に関与度をとってマトリックスを作成し、CとDの文字を記入していきます。
ステークホルダー | 不認識 | 抵抗 | 中立 | 支援型 | 指導 |
---|---|---|---|---|---|
阿部(A社社長) | C | D | |||
佐藤(A社情報システム部部長) | C | D | |||
吉田(A社営業部部長) | C | D | |||
石川(A社情報広報部部長) | C・D |
CとDの評価については、主観で勝手につけていいものではなく、プロジェクト・チームでよく話し合い、決定していく必要があります。
しかし、ステークホルダー関与度評価マトリックスを作成する上で必要な協議というものは先ほどのステークホルダーの一覧化とC・Dの評価程度です。
このようにステークホルダー関与度評価マトリックスというのは、作成すること自体は難しいものではありません。
ステークホルダー関与度評価マトリックスで重要なことは、各ステークホルダーをどのようにしてDの位置の関与度にもっていくかを考えることです。
ステークホルダーへの対処を考える
今回はステークホルダー関与度評価マトリックスの作成方法を紹介していきました。
先ほど述べたように、ステークホルダー関与度評価マトリックスは作るだけでは意味がなく、ステークホルダーを望ましい関与度であるDの位置にもっていくことが重要です。
理想の状態は、ステークホルダー関与度評価マトリックスを作った際にCとDの文字が同じセルの中に入っていることです。
この理想の状態の実現に向けて、「社長はこのプロジェクトの存在にも影響にも気が付いていないから、時間をとっていただいて、プレゼンをしよう」とか、「プロジェクトに抵抗的な態度をとっている営業部長にせめて中立になってもらうよう、気にしている予算の推移についてはすぐに情報が引き出せるようにしておこう」などの施策を考えていきます。
そしてその施策をコミュニケーション・マネジメント計画書やステークホルダー・エンゲージメント計画書に記載し、プロジェクトの成功確率を高めることがステークホルダー関与度評価マトリックスの目的であると言えるでしょう。
注
↑1 | PMBOK第6版、716頁。 |
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