軍隊の指揮官はどのようにして意思決定をしているのか?指揮官は孤独である理由を解説

2020年12月21日

近年注目されている軍隊組織

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最近では軍隊、特にアメリカ海兵隊に関する書物が多く出版され、状況に応じて行動する組織に注目が集まっています。
状況に応じて行動するという点はアジャイル開発の理想にも共通するものがあり、軍隊組織を学ぶことは、プロジェクトマネジメントにも応用できそうです。
今回は『自衛隊幹部学校戦略教官が教える 〈米軍式〉最強の意思決定』をもとに指揮官の意思決定のプロセスを見ていきましょう[1]中村好寿『自衛隊幹部学校戦略教官が教える 〈米軍式〉最強の意思決定』パンダ・パブリッシング、2018年。以下、『最強の意思決定』と略記。

指揮官の意思決定の特徴

軍隊における指揮官の意思決定の特徴は以下の通りです。

  1. 指揮官の責任が明確である点
  2. 幕僚組織が考え、指揮官が決断を下す点

ここからは、これら2点の特徴について解説していきます。

指揮官の責任

一般的に利用されている意思決定の手法と言えば「多数決」です。
多数決は組織やチームの意思決定を行う際に、最も賛成票を獲得した案を選ぶというもので、一見すると公正で、優れた案が採用されそうです。
しかし、多数決では「みんなで決めたことだから」という風に、責任の所在が明らかになりません。
また、期待される効果に対する数的根拠に乏しい案が、雰囲気だけに流されて採用されてしまうこともあります。

こうしたデメリットを持ち合わせているため、軍隊では多数決を用いず、指揮官が決断を下し、責任もとるという構造が出来上がっています。
指揮官には雰囲気に流されず、最も効果的と思われる案を採用することが求められ、発生した問題の責任は指揮官が負うようになっています。

幕僚組織の存在

指揮官が最終的な決定を下すからと言って、全ての物事を指揮官が自分で調べ、考えているわけではありません。
軍隊では指揮官をブレーンと言うべき幕僚組織が支えています。
幕僚組織は高い専門的知識・技能を有し、論理的思考力や完結明確な表現力、総合判断力、想像力に富んだ人材で構成されています[2]『最強の意思決定』20頁。
様々な情報をまとめ、それらを作戦案にまとめるのが幕僚組織の役割です。
つまり、幕僚組織が考える役割を、指揮官が決断を下す役割を担っています

指揮官は孤独

以上のように、軍隊では考える役割を担う幕僚組織のサポートのもと、指揮官が意思決定をする役割を担います。
この軍隊の意思決定のプロセスは権限が指揮官に集中しているため、状況にあわせた迅速な対応を可能にします。
一方で、あまりにも責任の所在が明確であるため、指揮官にはその重圧がのしかかることになります。
これが「指揮官は孤独だ」と言われる所以で、指揮官はどれだけ周囲と相談したとしても、「最終的な判断はあなたがして下さい」と言われてしまいます。
軍人は人の命を預かる仕事をするので、その重圧たるや想像ができません。

時には孤独にならなければならない場面がある

今回は軍隊の意思決定のプロセスを見てきました。
この軍隊の意思決定のプロセスをビジネスに応用するのであれば、「意思決定をする人」、「作戦案を考える人」を分け、多数決に因らない意思決定をしていくということになるでしょう。
例えば、大きな経営戦略を考える場面で、あるいはプロジェクトマネジメントの場面で、この軍隊の意思決定は採用することができます。
その結果、経営者やプロジェクト・マネジャーには重圧がのしかかり、一人で意思決定を下さねばならないという孤独に耐えねばなりません。
しかしそれを恐れて責任の所在も、効果の判断もあやふやな多数決に頼るのではなく、時にビジネスの指揮官たる経営者やプロジェクト・マネジャーは孤独になる必要があるのではないでしょうか。

1中村好寿『自衛隊幹部学校戦略教官が教える 〈米軍式〉最強の意思決定』パンダ・パブリッシング、2018年。以下、『最強の意思決定』と略記。
2『最強の意思決定』20頁。