フラーの戦いの原則 ~現代の戦闘思想に影響を与えた軍事理論家の業績~
はじめに
ジョン・フレデリック・チャールズ・フラー(John Frederick Charles Fuller, 1878年9月1日 – 1966年2月10日)は、第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけて活躍したイギリスの軍人であり、戦術家・戦略家としても高い評価を受けています。彼は戦車の開発と運用に関する先駆的な研究を行い、機動戦の理論を提唱しました。
彼の戦いの原則は、現代の戦闘思想に多大な影響を与えたといわれており、ビジネスにおいてもそのアイデアを活用することができます。
今回は、フラーの戦いの原則について、その内容と意義を概説します。
フラーの戦いの原則とは
フラーは、戦車を中心とした機動戦の理論を展開しました。彼は、戦車の特性を生かすためには、目的、攻勢、物量、戦力節約、運動、奇襲、警戒、簡明、協調の9つの原則に従う必要があると主張しました[1]https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%A6%E3%81%84%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%89%87(2024年6月3日確認)。
この9つの原則は改良され、以下のように整理されています。
目的
目的の原則とは軍事作戦が達成するべき目的を明確に方向付ける原則です。
戦いの中では個人的な欲望や上司の介入などで、目的がブレそうになることがあります。その中でも当初の目的を見つめ、何をすべきなのかを一貫する必要があります。
攻勢
攻勢の原則とは戦いの主導権を獲得、維持、発展させる原則です。
主導権は相手より先に動くこと、そして機先を制することで得られます。
物量
物量の原則とは戦闘力を決定的な地点と時点に集中させる原則です。そのため、集中の原則とも言い換えることができます。
戦いにおいては、相手の弱点に戦力を集中して取り組み、自軍の優位を築くことが大切です。
戦力節約
戦力節約の原則とは本質的な戦闘力を無駄なく配置させる原則です。
いたずらに遊ばせている戦力はないか確認する必要があります。
機動
機動の原則とは戦闘力の柔軟な適用を通じて敵を不利な地点に位置させる原則です。機動の原則を徹底するには、戦闘の計画と実行において、柔軟性と創造性を持つことが必要です。
実際の戦術では、事前に綿密に準備や分析を行い、目標や状況に応じて最適な行動や手段を選択し、実行する計画戦術と、事前に計画を立てることなく、状況や相手の動きに応じて即座に行動や手段を変更する動きのある戦術がありますが、動きのある戦術をいかに駆使できるかがポイントになります。
これら2つの戦術については、下記の記事もご参照ください。
指揮統一
指揮統一の原則とは全ての目的が一人の責任ある指揮官のもとで統合されている原則です。
この指揮統一の原則のため、軍隊では意思決定者が複数人になることはありません。戦いにおいては、一人の指揮官に指揮権と責任が集中しています。
警戒
警戒の原則とは敵が想定外に前進行動することを決して許さないという原則です。
どのような状況にあっても、油断をしてはならないという戒めです。
奇襲
奇襲の原則とは敵が予想していないある時点または地点において敵を打撃する原則です。
相手も訓練された軍隊であれば、弱点に戦力を集中して戦おうとしても、何かしらの対策がとられてしまい、思うように主導権を握ることができません。
そのため、敵の予想を超えた戦いをしかける必要があります。
奇襲を成功させるには、動きのある戦術の中で、相手の隙を見つけ、それを逃さないという臨機応変な対応が必要になります。
簡明
簡明の原則とは行動の計画を簡潔かつ明快に準備しておく原則です。
フラーの戦いの原則の意義
フラーの戦いの原則は、戦車の運用に関する画期的な指針であるとともに、一般的な戦闘思想にも応用できる普遍的な原則であるといえます。
彼の理論は、第二次世界大戦におけるドイツの電撃戦やイスラエルの防衛戦に影響を与えたとされています。また、現代の非対称戦やネットワーク戦においても、彼の原則は有効であると考えられています。
フラーの戦いの原則は、戦闘の本質と目的を明確にし、戦闘の効率と効果を高めるための重要な教訓です。
そして、この原則は経営戦略やプロジェクトの計画などでも利用することができます。
参考
- 松村劭『戦術と指揮 命令の与え方・集団の動かし方』PHP研究所、2006年
注
↑1 | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%A6%E3%81%84%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%89%87(2024年6月3日確認) |
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