なぜそのプロジェクトを実施するのか?プロジェクトの目的を明確にする手法を解説
明確な目的はプロジェクトの原動力
今回は『Harvard Business Review Project Management Handbook: How to Launch, Lead, and Sponsor Successful Projects』の記述をもとに、プロジェクトの目的の大切さと、目的を明確にする手法を解説していきます[1]Antonio Nieto-Rodriguez, Harvard Business Review Project Management Handbook: How to Launch, Lead, and Sponsor Successful Projects Harvard Business Review Press, 2021.以下、『Project Management … Continue reading。
目的はプロジェクトの存在理由
『Project Management Handbook』では、プロジェクトの目的を以下のように定義しています[2]『Project Management Handbook』、75頁。。
A project’s purpose is its fundamental reason for being.
An effective purpose reflects the importance people attach to the project’s work―it taps their idealistic motivations―and gets at the deeper reasons for a project’s existence beyond just making money.プロジェクトの目的は、プロジェクトが存在する根本的な理由です。
効果的な目的は、プロジェクトに従事する人の重要性を反映し、理想主義的な動機を引き出し、単にお金を稼ぐ以上のプロジェクトの深い存在理由を得られます。
ビジネス書の名著『ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則』でも「単なるカネ儲けを超えた企業の根本的な存在理由」として、企業が掲げる目的を位置付けています[3]ジム コリンズ;ジェリー ポラス(著)、山岡洋一(翻訳)『ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則』日経BP社、1995年、124頁。。『Project Management Handbook』もこれにならい、プロジェクトの目的を、プロジェクトが存在する根本的な理由としています。
プロジェクトを始める2つの理由
プロジェクトの目的の理解を深めるために、プロジェクトを始める2つの理由について解説していきます。
プロジェクトを始める理由には、大きく2つの種類があります。
- 問題を解決する
- 機会をつかむ
問題を解決する
プロジェクトを始める理由の1つが「問題を解決する」ことです。
「Webサイトがスマートフォンに対応していない」「人材管理ができていない」というように、何かしらの問題を解決するためにプロジェクトは開始されます。
機会をつかむ
プロジェクトを始めるもう1つの理由は「機会をつかむ」ことです。
「同業他社が気づいていない市場に製品を送り出す」「新設された補助金を使う」というように、チャンスをものにして、発展するためにプロジェクトは開始されます。
2つの質問
以上のように、プロジェクトは「問題を解決する」「機会をつかむ」のいずれか、もしくは両方の目的を達成するために開始されます。これらの理由は、以下の質問の回答でもあります。
- このプロジェクトはどのような問題を解決するのか?
- どのような機会をつかむことができるのか?
これらの質問に答えることで、プロジェクトの目的を明らかにすることができます。
プロジェクトの目的を明確にする手法
ここからは、プロジェクトの目的を明確にするために役立つ手法を紹介していきます。
「なぜ」を繰り返す
プロジェクトの目的を明確にする最も簡単な方法は、「なぜ」を繰り返すことです。
トヨタ生産方式の1つに「なぜなぜ分析」という手法があります[4]なぜなぜ分析 – Wikipedia(2023年1月20日閲覧)。これは「なぜ」を繰り返すことで、問題の本質を明らかにしていくものです。
同様に、プロジェクトの目的に対しても「なぜ」を繰り返すことで、プロジェクトの参加者にとって理解しやすい目的にすることができます。
たとえば、「人材管理システムを導入するプロジェクト」が発足したとします。プロジェクトの参加者に「人材管理システムを導入するプロジェクトです」と説明するだけでは、プロジェクトの目的が不明確で、参加者の意欲を引き出すことができません。
そこで「なぜ人材管理システムを導入するのか?」を考え、プロジェクトの参加者と共有します。
「なぜ人材管理システムを導入するのか?」の答えが「社員のモチベーションアップのため」であれば、さらに「なぜ社員のモチベーションアップが必要なのか?」というように、「なぜ」を繰り返していくと、プロジェクトの目的が明確になり、プロジェクトの参加者もなぜこのプロジェクトを実施しなければならないのかが容易に理解できるようになるため、貢献意欲を引き出すことができます。
SMART
SMARTとはSpecific(具体的)、Measurable(測定可能)、Action-oriented(行動指向)、Relevant(適切さ)、Time-based(時間ベース)の5つの英語の頭文字をとったものです[5]『Project Management Handbook』、79頁。。
目標や目的を考える時に、SMARTを構成している5つの点に注目すれば、よりよいものになるというアイデアです。
プロジェクトの目的であれば、以下の点に注目します。
- Specific(具体的):誰に何を提供するのか?
- Measurable(測定可能):どの程度のものを生み出すのか?
- Action-oriented(行動指向):プロジェクトの目的を達成に必要な行動は何か?
- Relevant(適切さ):プロジェクトは実施するのにふさわしいか?
- Time-based(時間ベース):いつ目的は達成されるのか?
SMARTについては、下記の記事もご参照ください。
10X思考(10X Thinking)/ムーンショット思考
10X思考(10X Thinking)とは、現状の10倍以上の成果を出すような、高い目標を掲げようとする考えです。
このアイデアはGoogleで誕生しました。GoogleではOKRという目標管理システムを導入しており、積極的に高い目標(ムーンショット)を目指すことを推奨しています。
10X思考はこのムーンショットと同様の考え方で、10倍の目標を立てることを意味しています。
たとえば、プロジェクトの目的であれば、「売上を10倍にする」「アクセス数を10倍にする」というように考えていきます。
OKRについては、下記の記事もご参照ください。
ストーリーを語る
ストーリーを語るというのは、プロジェクトの目的を参加者と共有する時の方法です。
たとえば「人材管理システムをなぜ導入するのか?」という話になった際に、「このシステムを導入すれば自己評価がしやすくなって、モチベーションアップにつながる」という説明だけだと、イメージがわかない人も多いでしょう。
そこで「たとえばわが社で働いている新卒の香椎さんは、入社できてうれしいけれども、会社の方針がいまいち理解できていないし、自身がどのように貢献できているのかもわからず、モチベーションが高まらずにいる。そうした時に、このシステムを見れば、会社の戦略がTOPページに掲載されているし、自身のスキルや、上司とのミーティングで決めた今季の目標が一覧化されていて、自分がどのような点で貢献できるかが一目でわかる」というように、ストーリー仕立てで「なぜ必要なのか?」を話すことで、参加者のプロジェクトへの目的を深めることができます。
さいごに
今回はプロジェクトの目的の大切さと、目的を明確にする手法を解説してきました。
プロジェクト・マネジャーとしてプロジェクトを任されたら、今回紹介した手法を使って目的を明確にし、プロジェクトの参加者と共有することから始めることをおススメします。
注
↑1 | Antonio Nieto-Rodriguez, Harvard Business Review Project Management Handbook: How to Launch, Lead, and Sponsor Successful Projects Harvard Business Review Press, 2021. 以下、『Project Management Handbook』と略記。 |
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↑2 | 『Project Management Handbook』、75頁。 |
↑3 | ジム コリンズ;ジェリー ポラス(著)、山岡洋一(翻訳)『ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則』日経BP社、1995年、124頁。 |
↑4 | なぜなぜ分析 – Wikipedia(2023年1月20日閲覧) |
↑5 | 『Project Management Handbook』、79頁。 |