令和5年10月から始まるインボイス制度をわかりやすく解説 ~仕入税額控除と免税事業者の話を中心に~

2023年1月20日

今回は仕入税額控除と免税事業者の話を中心にインボイス制度について解説していきます。

そもそもインボイス制度とは何か?

インボイス制度は仕入税額控除に関する制度

令和5年10月1日からインボイス制度(正式名称「適格請求書等保存方式」)が開始されます。
「インボイス」という聞きなれない言葉が使われているので、イメージがつきにくくなってしまいますが、この制度は仕入れの際に支払った消費税(仕入税額)の控除に関する制度だととらえたほうがわかりやすいでしょう。

仕入税額控除について、詳しくは後ほど解説していきます。

インボイス制度が始まると仕入税額控除はどうなるのか?

インボイス制度が始まると、仕入税額を控除しようとする場合は、仕入れた事業者からインボイスを交付してもらう必要があります。
では、インボイスとは何なのでしょうか?
これも特別なものではなく、これまで使っていた請求書に適格請求書発行事業者の登録番号を記載したものです。

適格請求書発行事業者になるには、税務署に登録申請をする必要があります。そして、無事登録ができれば適格請求書発行事業者としての登録番号が通知されるので、これを請求書に記載します。

この登録番号が記載された請求書(インボイス)がなければ仕入税額控除ができず、受け取ったインボイスの控えは7年間保存しましょうというのがインボイス制度の概要です。

なぜインボイス制度に反対する人が多いのか?

ここまではインボイス制度の概要をお話ししてきました。
インボイス制度とは、仕入税額控除に関する新制度であり、令和5年10月1日から仕入税額控除をする際は適格請求書発行事業者の登録番号が記載されたインボイスが必要になります。

このインボイス制度には反対する方も多くいます。たしかに新制度への対応は面倒ではありますが、問題はそこだけではありません。
インボイス制度に反対している人が気にしているのは、主に下記の点です。

  • 取引先から適格請求書発行事業者になることを要求される可能性が高い
  • 適格請求書発行事業者になると消費税を納めなければならない
  • その結果、消費税を免除されていた人も適格請求書発行事業者にならなければならず、課税事業者になってしまう

この問題を詳しく知るために、ここからは仕入税額控除免税事業者について解説していきます。

仕入税額控除のキホン

私たちがコンビニやスーパーマーケットでものを買うと、ものの値段に消費税が上乗せされます。
たとえば、1,000円のペンを買った場合、消費税10%が加算され、1,100円を支払います。
では、企業や個人事業主はどうなるのでしょうか?
ここからは材料店のAさん、カバンなどの雑貨を作っているBさん、そして雑貨店を営むCさんを例に消費税の仕組みを整理していきます。

事業間の消費税からは仕入税額が控除できる

仕入税額控除のイメージ画像

たとえばAさんがBさんに1,000円(税込み1,100円)の材料を、BさんがCさんに2,000円(税込み2,200円)のカバンを売り、そのカバンをCさんの雑貨店でお客さんが3,000円(3,300円)で買ったとします。
Aさんは消費税として100円、Bさんは200円、Cさんは300円を受け取っていますが、3人はそれぞれ消費税として何円納めないといけないのでしょうか?
それぞれ消費税として受け取った金額を納めるように見えますがそうではありません。
事業間の売買は、仕入の際に支払った消費税分は控除することができます

つまり、BさんはAさんに消費税として100円、CさんはBさんに200円を支払っているので、この金額分は納める必要はありません。
その結果、納める消費税は以下のようになります。

それぞれの事業者が納める消費税
  • Aさん:Bさんから受け取った100円
  • Bさん:Cさんから受け取った200円からAさんに支払った100円を引いた残100円
  • Cさん:お客さんから受け取った300円からBさんに支払った200円を引いた残100円

このように事業間の取引では、仕入の際に支払った消費税は自身が受け取った消費税から差し引くことができます。
これが仕入税額控除です。

最終的な消費者に製品やサービスを届ける人だけが消費税を納付しているのではなく、取引先と共同で消費税を納めているというイメージです。

インボイス制度が始まるとどうなるのか?

では、この仕入税額控除はインボイス制度が始まるとどうなるのでしょうか?
前述のとおり、インボイス制度が始まると仕入税額控除のためにインボイスが必要になります。
つまり、BさんがCさんにカバンを売って受け取った200円から、Aさんに支払った消費税100円を控除しようとした場合、BさんはAさんからインボイスを交付してもらう必要があります。

困るのは自分ではない(?)

もしあなたが個人事業主だとして、自分がインボイス制度に登録、つまり適格請求書発行事業者に登録しなかったらどうなるのでしょうか?
実は困るのは自分ではありません。頭を抱えてしまうのはあなたから消費税を含めて製品やサービスを購入した事業者です。

たとえばBさんが適格請求書発行事業者に登録せず、インボイスを発行できなかったとしましょう。
そうするとBさんからカバンを仕入れたCさんは、Bさんに支払った消費税を控除することができません。
そのため、Cさんは消費税300円を自分一人で負担しなければならなくなります。

なぜ適格請求書発行事業者に登録しないのか?

このような事情から、自身の事業のサプライチェーンのどこかでインボイスが必要になると、ドミノ形式でインボイスが求められるようになることが予想されます。
なぜなら、インボイスがなければ仕入税額控除ができず、余計に消費税を納めなければならないからです。自分の仕入税額控除をするために仕入先にインボイスを求め、新しい仕入先を開拓する際も適格請求書発行事業者であるかどうかが判断基準になるでしょう。

では、少々手間であっても全ての事業者が適格請求書発行事業者になれば万事問題はないのでしょうか?
ここで問題になるのが課税売上高1,000万円以下の免税事業者の存在です。

消費税の免税事業者

インボイス制度開始後も免税事業者であり続けられる

事業をしていても、全ての事業者が消費税を払う義務があるわけではありません。
課税売上高が1,000万円以下の事業者は消費税を納めなくてもよいとされています。こうした事業者は免税事業者と呼ばれますが、インボイス制度が開始されても、課税売上高1,000万円以下であれば免税事業者であり続けることができます

適格請求書発行事業者になると課税売上高が1,000万円以下であっても消費税を納めなくてはならなくなるため、自身の売上と相談し、登録するかどうかを判断する必要があります。

否応なしに適格請求書発行事業者であることを求められる(?)

しかし、これまで見てきたように、インボイス制度が始まると自身の仕入税額控除をするために、取引先にインボイスを求めるようになると予想されます。
その結果、まだまだ売上が大きくなく、免税事業者であり続けたい事業者が、適格請求書発行事業者になることを求められるということもあるでしょう。

この点がインボイス制度で問題視されているところです。

自分自身が適格請求書発行事業者になるかどうかは、販売先の事業者次第になるため、インボイス制度開始前に確認することをおススメします。

様々な支援措置が予定されている

以上のように、インボイス制度は仕入税額控除にインボイスが必要であることから、免税事業者が適格請求書発行事業者になることを求められ、その結果負担が増えてしまうことが問題視されています。

「免税事業者がかわいそう」という意見もあれば、「もともと納めるお金なのだから」という意見もあり、さらにこの免税制度を悪用する事業者もいるため、インボイス制度には賛否両論あります。

しかし、現在は免税事業者が適格請求書発行事業者になる上で少しでも負担を減らせるよう、支援措置が講じられています。
たとえば現在は免税事業者が適格請求書発行事業者になった場合は、納める消費税を2割にまで減額する支援措置が予定されています。

また適格請求書発行事業者になった事業者への補助金も複数あるため、こうした制度を利用し、インボイス制度開始に向けて体制を整えるとよいでしょう。

インボイス制度の詳しい情報

インボイス制度は特設サイトが開設されています。

また、特例措置については財務省のページをご参照ください。