OKRとは何か?導入の仕方や特長をMBO・KPIとの違いを含めて解説
Googleをはじめ世界的企業が採用する目標管理手法、OKRとは
OKR(Objectives and Key Results)とは、組織にて設定する目標と、目標に対して成果を結びつけることで方向性を明確にする目標管理の手法です。「目標」を意味する「Objectives」と「主要な結果」を意味する「Key Results」を組み合わせた言葉として「OKR」と呼ばれています。
「Objectives」は数値では表せない定性的な目標であり、従業員が認識しやすいシンプルなものである必要があります。また、従業員のモチベーションが向上するような挑戦的な内容とし、1ヶ月~3ヶ月程で達成できる内容であると定義されています。
「Key Results」は「Objectives」と異なり数値的に表される定量的な目標となります。1つの「Objectives」に対して3つ程度設定することが適切とされており、少し高めの目標が設定され、60%~70%の達成度で成功と判断します。
OKRは1970年代にアメリカのインテル社の社長であるアンディ・グローブが生み出し、GoogleやMeta(旧Facebook)といったシリコンバレーの有名企業が取り入れていることで近年注目を集めています。
主な特徴として、1つの目標に対して複数の主要な結果が付随する形で成り立っており、従業員すべてが同じ方向を向きつつ、明確な優先順位を持って進行していくことが挙げられます。
OKRの目的
OKRを導入する目的として、組織全体の目標と業務個別の目標の関連付けを行うことで、より高い目標を達成するための計画、手順を明確化することが挙げられます。設定される目標としては定量的な軸を設定することが一般的ですが、OKRにおける目標では組織全体の目標として「トップシェアを目指す」といった定性的な内容が設定されることもあります。
組織全体が認識しやすい統一された目標が設定されると、業務としてやるべきこと、やらなければいけないことが明確化され、組織全体の目標に関連付けられた個別の定量的な目標が設定されるため、効率的に進めることができます。
OKRはどのような手法か? ~OKRの全体像~
なぜOKRは世界で活躍する企業を魅了していっているのでしょうか?
詳しい説明の前に、まずはOKRの全体像を押さえておきましょう。
ここでは、OKRを「目標」と読み替えると、理解しやすいかもしれません。
OKRは、基本的に1年や半年、四半期(3ヶ月)などの期間で設定され、管理されます。
たとえば、四半期の初めに組織としてのOKR(組織OKR)を定めたとします。組織のOKRに紐づける形で、部署単位のOKR(部署OKR)を設定し、部署OKRの配下に個人単位のOKR(個人OKR)を設定します。
これを図示すると、参考画像1のようになります。
OKRを運用し、週1回などの頻度で目標の達成率を確認します。
達成状況を見て必要なアクションと不要なアクションを見極め、常に必要なアクションだけを進めていきます。
個人はそれぞれの目標を達成するために行動しますが、組織OKRが部署OKRを通じて個人OKRと紐づいているので、個人の目標達成が組織の成長に繋がります。
OKRを実践しよう ~OKRを活用した目標管理~
OKRは設定した組織全体の目標に対して、達成までの進捗を明確に評価できる手法ですが、正しく活用しなければ適切な成果評価が行えません。OKRの運用にはいくつかの手順が存在しますが、大きく分類して以下の手順で進めていきます。
- 組織全体の目標(Objectives)の設定
- 主要な成果(Key Results)の設定
- OKRの共有とフィードバック
- 成果の評価
ここからOKRの手順について具体的に説明していきます。
組織全体の目標(Objectives)の設定
まず、Objective(目標)であるO(目標)を定めます。
目標は、達成したい成果やこうなりたいという姿を表しています。
例えば、「大ヒットゲームを開発する」「新しい事務支援ソフトを成功させる」「愛知県豊田市で抜群の知名度を誇るクリーニング店になる」などが目標になります。
OKRでは、以下のルールに基づき目標を設定します。
定性的なもの
掲げる目標は社員が達成したいと思えるようなメッセージ性のある文章にしましょう。
魅力的でワクワクしたものであれば、社員は全力で目標に向かってくれます。
野心的なもの
OKRの目標には「ルーフショット」と「ムーンショット」というものがあります。
「ルーフショット」とは「屋根にボールを飛ばす」レベルの難しさの難易度を意味し、「ルーフショット」は「月にボールを飛ばす」レベルの難易度を示しています。
OKRでは「ムーンショット」の目標が奨励され、月を目指すような野心的な目標が大切であるとされています。
野心的な目標を達成するためには、多くの工夫が必要になります。
高い目標を設定することで、社員も組織も大きく成長できます。
OKRを導入しているGoogleの創業者ラリー・ペイジは、「たとえ常識にとらわれない野心的な目標を掲げて失敗しても、何か素晴らしいことをなし遂げたことになる」と述べています。
組織から個人まで一貫性があるもの
組織、部署、個人の目標が紐づけられている必要があります。
それにより、組織全体の方向性が統一され、社員一丸となって目標に向かえます。
主要な成果(Key Results)の設定
Oが決まれば、Key Result(主要成果)であるKRを設定し、組織全体として定めた定性的な目標に対し、具体的な行動指針として定量的な目標を設定します。「Key Results」が多すぎると方向性にブレが生じてしまうため、1つの「Objectives」に対して2つ~3つ程度の「Key Results」を設定します。実施期間としても1ヶ月~3ヶ月程度で設定を行い、達成可能な難易度で成果の設定を行います。
ここからはKRを設定する際のルールを解説していきます。
定量的なもの
メッセージ性を重視する目標(O)に対して、KRは数値化できるような、定量的なものを設定します。数値化されていることで、客観的に達成状況を判断できます。
実績が計測できると、成功・失敗の基準も明確になります。
困難であるが達成可能なもの
先ほどの「ムーンショット」の説明でもお話ししたように、OKRでは難しい目標・目的感覚的に達成率60~70%程度の水準が望ましいです。
目標に結びついている
いかにすばらしいKRを設定したとしても、目標の達成に繋がるものでなければ、本末転倒です。
かならず設定したKRが目標に関係あるかどうかを確認しておきましょう。
重要なものに集中する
1つのOにつき3つ~5つのKRを設定しましょう。
本当に重要なものにだけ組織や個人の力を振り分ける必要があります。
OKRの共有とフィードバック
OKRでは実施期間として1ヶ月~3ヶ月といった短期間のサイクルで進めていくため、進捗確認とフィードバックを行い目標とのズレが発生していないかを把握することが重要です。
進捗確認として有効となるのが、チェックインと呼ばれる短時間のミーティングです。週1の定期的なミーティングを行い、メンバーの進捗や目標達成に向けた可能性の確認、課題や問題解決への検討を行います。
OKRの評価方法
OKRの実施期間後は、スコアリングと呼ばれる定量評価を行い目標の達成度合いを確認します。成果の評価や最終評価の分析を行い、OKRを継続するのか変更するのかの判断を行います。注意点として、OKRの評価を人事評価と混同させないことが重要です。評価はあくまでもOKR自体の達成度合いを確認することとし、個人の評価についてはOKRを進めるにあたっての貢献度を評価します。
ここからは例として、以下のOKRを設定した企業について考えていきます。
- O:愛知県豊田市で抜群の知名度を誇るクリーニング店になる
- KR:豊田市民の利用人口 日標値20万人
- KR:リピーター率 目標値80%
- KR:認知度 目標値80%
週1回などの頻度で、このKRの達成率を評価していきます。
- KR:豊田市民の利用人口 目標値20万人 実績値15万人 → 達成率75%
- KR:リピーター率 目標値80% 実績値44% → 達成率55%
- KR:認知度 目標値80% 実績値40% → 達成率50%
そして、KRの達成率をもとに、Oの達成率を算出します。
3つのKRの重要度が同じであれば、Oの達成率は以下のとおり計算されます。
- KRの合計達成率 75%+55%+50%=180%
- Oの達成率 180%÷3=60%
こうして、四半期の終わりに算出されたOの達成率が、最終的な達成率になります。
KRの達成率は高いほど良いのか
OKR以外の目標管理手法であれば、達成率は高いほど良いとされます。達成率200%ともなれば、ものすごい成果と評価されることでしょう。
しかし、OKRにおける理想的な達成率は70~80%とされています。
なぜなら、OKRは達成が難しい目標(ムーンショット)に取り組む際に使用される手法であるため、100%を達成するというのは難しく、多くの場合は60~70%程度の達成率になります。
逆に、90%や100%といった達成率にいつもなってしまっているのであれば、最初の段階で野心的なOKRが設定されていなかったと考えるべきでしょう。
この場合、目標を変えてみたり、KRの目標値を見つめ直していくと良いでしょう。
他の目標管理との相違点
OKR以外の目標管理手法として「MBO(Management By Objectives:目標管理制度)」「KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)」などがあります。それぞれOKRとの相違点を確認しましょう。
MBO(Management By Objectives)との相違点
OKRに似た手法として、MBOというものがあります。
目標管理制度(MBO)はOKRが出てくるよりも前にピーター・ドラッカーが提唱した目標管理手法で、個人ごとに目標を設定し、それに対する達成度合いで評価を決める組織マネジメント手法です[1]目標管理制度(MBO) とは何か?そのメリットとデメリットとは? | SSAITSのブログ。設定された目標に対する達成度を従業員が個人で管理する手法であり、成果や掛かった時間を従業員が自ら可視化するフレームワークを示します。MBOは従業員のモチベーション向上や生産性向上を目的とし、人事評価の指標にも使われます。
このMBOとOKRとの主な相違点は以下のとおりです。
目的の違い
OKRでは組織がより高い目標を達成するために活用されますが、MBOは1年ごとの業績による報酬決定が主な目的となります。そのため、MBOでは従業員が個別に設定する目標管理であるのに対し、OKRでは組織全体で目的を共有する、という違いもあります。
また、MBOにおいて、目標設定を行うのはそのスタッフの上司などのマネジメント層です。
一方で、OKRでは目標設定を行うのも、それに向けてどのようなアクションを起こすのかも、それを実行するスタッフが主導して決めていきます。
この点がOKRの面白いところであり、目標もアクションもスタッフ自身が決めることによって、モチベーションを高めようという狙いがあります。
目標達成水準の違い
OKRでは、組織全体の目標として高い目標設定が行われるため、目標達成水準として60%~70%の成果で達成したとみなされます。一方、MBOでは、業績による報酬決定に用いられることが多いため、100%以上の期待水準が設定されます。そのため、評価頻度としてもOKRは1ヶ月~3ヶ月のサイクルで評価を行うことに対し、MBOでは6ヶ月もしくは1年に一度の評価となります。
目標達成の測定方法の違い
OKRでは以下の5つで構成される指標を基準として目標の達成度を測定します。それぞれの頭文字を組み合わせて「SMART」と呼ばれています。
- Specific:はっきり限定された、具体的な
- Measurable:測定可能な
- Achievable:達成可能な
- Related:関連した(経営目標との関連)
- Time-bound:期限を定めた
一方、MBOでは達成度の測定における決まった基準はなく、組織や従業員個人の状況に応じて、定量評価と定性評価の組み合わせが決まります。
KPI(Key Performance Indicator)との相違点
KPIは目標達成までの途中指標を指すものとなり、「重要業績評価目標」「重要達成度指標」などと呼ばれています。KPIを設定することで目標達成までの進捗状況を可視化できるため、一般的にはKGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)から逆算を行い、KPIを定めていきます。OKRの「Key Results」では、「達成したい目標に向けた個々の定量的な数値目標」という意味では共通点がありますが、KPIとOKRではそもそもの役割が異なります。
KPIは数値化された目標を管理する手法ですが、OKRでは組織全体の定性的な目標を設定し、目標達成に向けた定量的な個別目標を明確にしていきます。
クリエイティブな仕事と相性の良いOKR
成果を上げられる手法として、近年OKRは注目されています。しかし、目標を設定して管理する手法は、OKRだけではありません。これまで紹介したように、従来からMBOやKPIなどの目標管理手法が用いられ、一定の成果が上がっています。
では、なぜこれらの手法ではなくOKRが注目されているのでしょうか。それはひとえに、MBOやKPIでは得られないモチベーションに対する刺激をOKRが持っているからです。
そのOKRの魅力により、昨今では成果を上げている世界的企業が次々とOKRを採用していっています。クリエイティブな発想を求められる仕事は、OKRと相性が良いと言えます。
OKRのまとめ
ビジネスを取り巻く環境は、絶えず変化しています。
当然、環境の変化に伴い、目標の達成に向けてやるべきことも次々に変わります
Googleなどの世界的企業は、常に野心的な目標を掲げつつも、変化に敏感に反応して目標達成に向けた最適な手段を取り続けてきたからこそ、成長し続けられています。
OKRの導入に二の足を踏む企業もあるでしょうが、変化が著しい今の時代だからこそ、試してみる価値のある目標管理手法と言えるでしょう。