デザインの7つの基礎的な原理 ―名著『誰のためのデザイン?』から学ぶデザインの基本―

2022年3月24日

押さえておきたいデザインの基礎

製品のデザインを行っていく上で、デザインの原理原則としてどのようなものであるべきかといった観点について、認知心理学者ドナルド・ノーマンは著書『誰のためのデザイン?』にて「人間中心のデザイン」を提唱しています。
この「人間中心デザイン(HCD = Human Centered Design)」では、文字通り人間(ユーザー)が利用しやすいように、ユーザー中心の設計を行う考え方となります。見た目の美しさやデザインにこだわりすぎて、利用するユーザーが使いにくいものとなっていては意味がなく、「ユーザーが何をしたらいいのかわかるようにする」「何が起きているのかをユーザーがわかるようにする」といったことに重点を置いた考え方となります。

ドナルド・ノーマンは、この「人間中心デザイン(HCD)」としてデザイナーはどのように取り組めばいいのかを、以下で紹介するデザインの7原則として提唱しています[1]D. A. … Continue reading

  1. 発見可能性
  2. フィードバック
  3. 概念モデル
  4. アフォーダンス
  5. シグニファイア
  6. 対応づけ
  7. 制約

今回は『誰のためのデザイン?』で語られるこれら7つの原理について解説していきます。

発見可能性

デザインの7つの原理は「発見可能性」から始まります。
発見可能性とは、それが何をするもので、どのように動き、どのような操作が可能かを発見することです[2]『誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論』、14頁。
普段私たちが仕事でデザインを考える際は、ただ単に見た目のよいものを作ろうとするだけでなく、ユーザーの使いやすさも考慮します。
たとえば電子機器のデザインを考える場合、いかに先進的なデザインで見た目が美しくても、どのボタンが何の機能を持っているのかわからないようではいけません。「何をするのか?」「どのように動くのか?」「どのように操作するのか?」を明確にすることが、デザインの出発点です。
そしてこの発見可能性を得るために重要なのが、「アフォーダンス」「シグニファイア」「制約」「対応づけ」「フィードバック」です。

フィードバック

「フィードバック」とは行為の結果を伝えることです。
多くの場合、エレベーターのボタンを押すとボタンが点灯します。これは身近なフィードバックの例で、「ボタンを押す」という行為に対して「ボタンを点灯させる」という動作をさせることにより、エレベーターの使用者に「エレベーターのボタンが正常に押され、エレベーターを呼び出している」というフィードバックを与えています。しかし、この「ボタンを点灯させる」というフィードバックがなければ、ユーザーはボタンを押してエレベーターを呼び出せているのかわからず、不安を感じてしまいます。そのため、機能や動作の状況を伝えるフィードバックをユーザーに示すことは、デザインを考える上でとても大切です。

よりよいフィードバックをユーザーに提供するために、以下の点も気を付けるとよいでしょう[3]『誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論』、32~34頁。

  • フィードバックはすばやくなくてはならない
  • フィードバックは多すぎると、少なすぎるより困る
  • フィードバックは計画的に作られなければならない
  • フィードバックには優先順位を付ける

概念モデル

「概念モデル」とはあるモノがどう動くかについての簡素化された説明です。
たとえばパソコン画面上のファイルを削除したいと思った時、画面上のごみ箱アイコンを使うことがあります。
Windowsのパソコンでは、空のごみ箱アイコンにファイルを入れると、何かごみ箱の中に入っているようなアイコンに変化します。このごみ箱アイコンを開くと、ごみ箱に入れたファイルが見つかります。
そして、ごみ箱の機能で「ごみ箱を空にする」を選ぶと、ファイルは完全に消えてしまいます。
実際にパソコンには物理的なごみ箱があるわけではありません。しかし「ファイルを完全に消去する前の待機状態にする」「ファイルを完全に消去する」という動作をごみ箱アイコンを使って上手く表現しています。
こうしたものが概念モデルで、本来説明書で何行もの説明が書かれる操作の流れを簡単に説明しています。

いうなれば概念モデルは簡素化された地図のようなもので、優れた概念モデルはユーザーに製品の理解を助けたり、モノの動きを予測させたりします。しかし、簡素化された地図が時にはユーザーに誤解を与えるように、概念モデルもユーザーに誤った情報を与えてしまうことがあります。
優れた概念モデルを作るには発見可能性と同じく「アフォーダンス」「シグニファイア」「対応づけ」「制約」を気にしなければなりません。

アフォーダンス

「アフォーダンス」とは、「与える」「供給する」という意味を持つ「afford」に由来する言葉で、物理的なモノと人との関係を指します[4]『誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論』、14頁。
たとえば椅子は「人を支える」という機能を提供しますが、このように「何をするのか?」を示すものがアフォーダンスです。

このアフォーダンスはデザイン的な補助がないと、ユーザーの使用に支障がでることがあります。
たとえば、押しドアを必死に引いてしまうという経験をしたことがある人は少なくないかと思います。ドアはユーザーに「ドアを開閉させる」という機能を提供してくれますが、そのアフォーダンスがあるだけでは、ユーザーは有効にドアを使用することができません。
そのため、デザインによってユーザーがそのモノの使用に困らないようにしなければならないのですが、この時にユーザーに与える情報が「シグニファイア」です。

シグニファイア

「シグニファイア」とは、ユーザーに適切な行動を伝えるマークや音、知覚可能な標識のすべてを示すものです[5]『誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論』、19頁。
先ほど例として挙げた押しドアを引いてしまうという経験をユーザーがしないようにするためにはどうすればよいでしょうか?
よくある対処法は、目立つところに「押」や「PUSH」という文字を入れることです。こうすることによって、ユーザーはどちらの方向にドアを開けばよいのかがわかります。
この「押」や「PUSH」の文字がシグニファイアで、ユーザーにアフォーダンスを正しく提供することをサポートします。

対応づけ

「対応づけ」は、デザインされたものを見て操作者がイメージした通りの操作が行えるか、操作することによる変化、反応が操作者の認識と一致しているかなどを意味します。
たとえば、部屋のあるスイッチを入れた時、想定通りのライトが灯ったら、それは対応づけができていると言えます。
このような対応づけができていないと、そのデザインはユーザーを困らせてしまうことになります。
そのため、動作と結果の対応づけが正確に行われるようにデザインする必要があります。

対応づけを正しく行うためには、対応づけを行いたいものを空間的に、あるいは時間的に近づける手法が採られます。
たとえば、動作するもののそばにボタンを設置することや、押したボタンに関係する部分がすぐに点灯するというのは、対応づけを行うための工夫です。

制約

「制約」はその名の通り、デザインに課せられた制約のことです。デザインとしては、行えることをわかりやすく伝えるだけではなく、できないこと(制約)をいかに活用していくかということも重要です。制約を活用すれば、本来の機能を最大限に使用させることへと誘導できます。

制約には「物理的」「文化的」「意味的」「論理的」の4つの種類があります。

たとえば、新しくパソコンを買ったとします。最近のパソコンはさまざまな機器を取り付ける部分がありますが、電源のケーブルとつながるのはその内の1つだけです。これは物理的な制約を活用したもので、「つながらない」という制約を使い、電源ケーブルをどこに挿せばよいのかを示しています。

文化的な制約としては信号の色が挙げられます。信号の色は国によって異なるため、文化的な制約の1つです。

意味的な制約はモノの持つ意味のために発生した制約です。
たとえば自転車は走行する向きが決まっています。そのため、前方を照らすためのライトをどこに設置するかは、自ずと制限されます。

論理的な制約は、論理的に考えた時に発生する制約です。たとえば左右に並んだランプと、同じように左右に並んだボタンがあるとします。右のボタンを押すと右のランプが点灯するのであれば、左のボタンを押した時には左のランプが点灯しなければ、ボタンを押した人は使いにくさを感じてしまうでしょう。
これが論理的な制約であり、先ほどの対応づけと密接に関係しています。

さらに深く知るために

今回はドナルド・ノーマンのデザインの7原則を解説していきました。

このドナルド・ノーマンの考えをより深く知るためには、彼が提唱している「行為の7段階理論」についても知っておくとよいでしょう。
「行為の7段階理論」については下記の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。

1D. A. ノーマン(著)、岡本明・安村通晃・伊賀聡一郎・野島久雄(訳)『誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論』新曜社、2015年、101頁。
2,4『誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論』、14頁。
3『誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論』、32~34頁。
5『誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論』、19頁。