やりがい搾取(自己実現型ワーカーホリック)とは何か?「逃げ恥」でも使われた用語を解説

2018年8月29日

「逃げ恥」で一気に有名になった「やりがい搾取」

森山みくりの発言から

新垣結衣・星野源主演の人気ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の中で出てきた「やりがい搾取」という言葉が話題になりました。

新垣結衣演じるヒロイン・森山みくりが、「友だちだから」「勉強になるから」と商店街のボランティアを任されそうになった時に「やりがい搾取」という言葉を使い、ボランティアの依頼を断りました。

誰にでも覚えがある「やりがい搾取」

「みんなのため」「あなたのため」などの「やりがい」を盾にして無理を言われてきた人は多いのではないでしょうか。
ブラック企業がはびこる最近、会社から「君の勉強になるから」と過剰な業務や休日出勤を促される方もいるでしょう。
このように「やりがい搾取」が蔓延する現代で、森山みくりの毅然とした振る舞いが共感を呼んだようです。

やりがい搾取とは何か?

では「やりがい搾取」とは何なのでしょう?
この言葉は教育学者・本田由紀の著書『軋む社会—教育・仕事・若者の現在』の中で使用されたのが始まりとされています。
言葉の意味は同書の『〈やりがい〉の搾取 ―拡大する新たな「働きすぎ」』の節で詳しく説明がされています。

「自己実現型」という新しいワーカーホリック

本田先生は最近蔓延している「自己実現型ワーカーホリック」「やりがいの搾取」であると指摘します。
「自己実現型ワーカーホリック」とは社会学者・阿部真大が作り出した言葉です。
従来の働きすぎが「上司が帰らないから自分も帰りにくい」という「集団圧力系ワーカーホリック」であるならば、「自己実現型ワーカーホリック」は一見自由に趣味を楽しんでいるように見えながら、働きすぎてしまうという状態です。

歩合制のバイク便ライダーの例

阿部先生が例としているのは歩合制のバイク便ライダーです。
バイクで配達するというのは、バイクが好きな人にはたまらないものですし、歩合制なのでがんばればがんばるほど収入も増えていきます。
高収入者を目標としながら、休みなく仕事にのめりこんでいく様子を阿部先生は「自己実現型ワーカーホリック」と呼びましたが、本田先生は『「〈やりがい〉の搾取」と呼ぶべきであろう』と言っています。

やりがい搾取の要素

本田先生はやりがい搾取の要素として、①趣味性、②ゲーム性、③奉仕性、④サークル性・カルト性を挙げています。

簡単にその中身を見ていきましょう。

趣味性

趣味性はわかりやすい要素です。
先ほどのバイク便のように、好きなものだから働きすぎてしまうというものです。

ゲーム性

ゲーム性については「○○にしたらランクアップ!」のような制度を思い出せばよいでしょう。
ゲームのようにランクがあったり、裁量が多く実力を発揮しやすい職場で働きすぎてしまう現象です。

奉仕性

これは冒頭の「逃げ恥」にもでてきた「みんなのために」という同調圧力です。
つまり、周りの役に立つからがんばりすぎてしまう現象で、サービス業で多くみられるものです。

サークル性・カルト性

サークル性・カルト性というのは、独自文化の中で働きすぎてしまうというもので、たとえば朝礼で社訓を絶叫するような会社をイメージすれば大過ないでしょう。

「ビジョナリー・カンパニー」と「やりがい搾取」は紙一重

ビジョナリー・カンパニーも同じ要素を持っている

以上のように、本田先生が考える「やりがい搾取」の要素を見てきました。
やりがい搾取の要素を見て、「こういう会社があったらいやだな」と思う人もいれば、「あれ?これはこれで楽しいのでは?」と思う人もいるはずです。

経営学の名著『ビジョナリー・カンパニー』では100年続く企業の共通点として、カルト性など、先ほどのやりがい搾取の要素に似たものを提示しています。

つまり、ビジョナリー・カンパニーとやりがい搾取を振りかざすブラック企業とは紙一重で、あくまで働かせすぎかどうか、正当な報酬が支払われているかが問題になるといえるでしょう。

参考

  • 本田由紀『軋む社会—教育・仕事・若者の現在』河出書房新社、2011年