脳とモチベーションにはどのような関係があるのか?脳の仕組みから考えるモチベーションの高め方
脳の仕組みを理解すればモチベーションは管理できる
仕事、学習、運動……。やらなければいけないのはわかっているのにやる気が出ないというのは、誰にでもある経験だと思います。
そんなモチベーションと深い関係にあるのが脳です。
脳とモチベーションの関係を理解すれば、モチベーションが低い原因を突き止め、向上させることも可能になります。
今回は『BRAIN DRIVEN ( ブレインドリブン ) パフォーマンスが高まる脳の状態とは』を参考にモチベーションと脳の関係、そのマネジメント方法について解説します[1]青砥瑞人『BRAIN DRIVEN ( ブレインドリブン ) パフォーマンスが高まる脳の状態とは』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2020年。以下『BRAIN … Continue reading。
脳機能から見るモチベーションの仕組み
人間の脳は内側に近いほど生命としての根源的な欲求、外側に近いほど記憶処理などの高次機能を担っています。
内側から外側に向かって大まかに次のような段階に分かれます。
- 延髄:呼吸や心拍、体温調整や血圧などの生命維持機能
- 大脳基底核・中脳:食欲や睡眠欲、快感など
- 間脳:ホルモンなどの自律神経
- 大脳辺縁系:記憶定着などの学習
- 大脳新皮質:思考や言語、記憶処理などの高次機能
脳機能から見る欲求は、内側に近いほど優先されると言われています。つまり、呼吸や心拍などの機能を持つ延髄の欲求が最優先で満たされ、大脳新皮質の欲求は一番後回しになります。
呼吸などは当然ですが、睡眠不足の状況が続き、大脳基底核・中脳の欲求である睡眠が満たされなければ、より高次機能である学習などのモチベーションの優先順位は低くなってしまいます。
まずは、この脳幹部分のコンディションを整えることで、脳の上部の機能に関するモチベーションを引き出すことができます。
間脳は、脳幹と脳の上部をつなぐ機能を持っています。自律神経を全身に張り巡らせ、ホルモン物質を合成し全身に作用させることができます。
このホルモン物質がモチベーションと大きく関係しています。
モチベーションに必要なドーパミンとノルアドレナリン
モチベーションに関連する重要なホルモン物質は、ドーパミンとノルアドレナリンです。
どちらも行動の誘発や集中力などの注意に影響し、パフォーマンスにも作用します。
ドーパミンとは
ドーパミンとは、快感、やる気、学習能力、運動機能や記憶力といった働きを司る「報酬系」と言われる神経伝達物質のことを指します。ドーパミンはいわば「脳のごほうび」のようなもので、分泌されると幸せな気分や満足感を得ることができます。
これはすでに経験した行動だけでなく、未知の行動、いわゆる挑戦に対する欲求も司っています。
ノルアドレナリンとは
ノルアドレナリンは、主にストレスを感じたときに放出されるホルモンで、交感神経を高める働きをします。
コルチゾールというストレスホルモンを導きやすく、「やりたくない」「避けたい」という欲求から注意や闘争に誘導するホルモン物質です。
大切なのはバランス
『BRAIN DRIVEN』では、ドーパミンとノルアドレナリンの高低からモチベーションを次の4つのタイプに分けています。
①惰性モチベーション(ドーパミン低、ノルアドレナリン低)
②嫌避モチベーション(ドーパミン低、ノルアドレナリン高)
③好接モチベーション(ドーパミン高、ノルアドレナリン低)
④学習モチベーション(ドーパミン高、ノルアドレナリン高)
①の惰性モチベーションは、極端に言えば無気力状態です。当初はストレスでも、慣れてパターン化した行動などが当てはまります。
②の嫌避モチベーションは、嫌々行動している状態です。注意散漫で集中しづらく、学習にも仕事にも向いていません。
③の好接モチベーションは、望んで新しい刺激や環境に向かう状態です。しかし、注意が向きづらく「何とかなる」と思い込んでしまうこともあります。
④の学習モチベーションは、2つのホルモンが適度に出ている状態であり、高い記憶力を持ち学習に最適な状態です。
ノルアドレナリンはストレスを受けた時に放出されるホルモンなので、ネガティブなイメージを持たれがちです。しかし、ノルアドレナリンは対象への注意や集中力を高めることができます。
4つのタイプを比べると、2つのホルモン物質がバランスよく放出される学習モチベーションが、高い効果を上げるためには必要だと言えます。
新しい学習や環境にはストレスがつきものです。
このストレスをネガティブに捉えてしまうと、脳の状態は嫌避モチベーションに移行してしまいます。
ストレスをポジティブに捉え学習や成長と認識すれば、刺激は注意と快感となり学習モチベーションの状態につなげることができます。
やる気ホルモン「ドーパミン」を増やす方法
ストレス社会である現代ではノルアドレナリンが出やすいので、意識的にドーパミンを増やすことが大切です。最後に、ドーパミンを増やす方法をご紹介します。
運動をする
ドーパミンを増やすための最も簡単な方法が運動をすることです。
運動といえば、ジョギングにエクササイズなどありますが、『ストレス脳』によると、どのような運動でも効果が出ると考えられています。
ポイントは心拍数が上がることで、週に3回、最低30分の運動がベストです。この条件を満たした運動であればどのような運動でも効果が現れます。
ポジティブな記憶を思い出す
感動、興奮、ワクワクなど、感情が揺さぶられた記憶を思い出すだけでもドーパミンは放出されます。
この記憶は自身の経験だけでなく映画やスポーツのシーン、音楽でも構いません。
自分を高揚させるような刺激が、モチベーションを高めます。
報酬や希望を予測する
未来の出来事をポジティブに捉え、何かしらの報酬や希望を予測するとドーパミンが誘導されやすくなります。
仕事に対しても、給与などの報酬だけではなく、経験や学習、自身の成長も報酬と捉えることができます。
自分で意思決定し行動する
やらされ感があればストレスとなり、自分で考えなければモチベーションにつながる脳の機能が使われません。
この機能を使うには、自身の体験や感情などの記憶を参照して判断し、自分で決めることが大切です。
やりたくない仕事でも、自身の過去を振り返り価値を共有できる部分を見つけ、自分で意思決定することでドーパミンが放出されます。
未体験のことでも、挑戦し続ければやがてストレスは軽減します。
また、挑戦すること自体がポジティブな体験となり、モチベーションの好循環が生まれます。
参考
- アンデシュ・ハンセン『ストレス脳』新潮新書、2022年
- 青砥瑞人『BRAIN DRIVEN ( ブレインドリブン ) パフォーマンスが高まる脳の状態とは』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2020年
注
↑1 | 青砥瑞人『BRAIN DRIVEN ( ブレインドリブン ) パフォーマンスが高まる脳の状態とは』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2020年。以下『BRAIN DRIVEN』と略記。 |
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