サーバント・リーダーシップとは何か?10の特性とアジャイル開発での役割を解説
サーバント・リーダーシップの概要
サーバント・リーダーシップとは、チームで力を分け合い、他の人の要望を第一に考え、人々ができるだけ高く成長し、活動できるように助けるリーダーシップ哲学のことです。
サーバント型リーダーシップと呼ばれることもあります。
「リーダー」という言葉を聞いて、従来イメージするリーダー像は、組織の頂点に君臨して権力を持ち、力と恐怖によって人を服従させるような人物でした。
しかし、ロバート・K・グリーンリーフ(Robert K. Greenleaf)が提唱したリーダー像は異なりました。
ロバートは1970年に発表したエッセー“The Servant as Leader"の中で、サーバント・リーダーを紹介しました。彼の説くサーバント・リーダーは、人を導こうとするのではなく、人に奉仕することを第一の目標としています。
このサーバント・リーダーシップは今日さまざまな分野で注目されていますが、プロジェクトマネジメントにおいては特にアジャイル開発で必要とされています。
サーバント・リーダーシップの10の特性
サーバント・リーダーシップには、以下の10の特性があるとされています[1]Spears, L. C. (2010). Character and Servant Leadership: Ten Characteristics of Effective, Caring Leaders. The Journal of Virtues & Leadership, 1, 25-30.。
- 傾聴 ( Listening )
- 共感 ( Empathy )
- 癒し( Healing )
- 自己認識 ( Awareness )
- 説得 ( Persuasion )
- 概念化 ( Conceptualization )
- 先見性 ( Foresight )
- スチュワードシップ ( Stewardship )
- 人々の成長への取り組み ( Commitment to the growth of people )
- コミュニティの構築 ( Building community )
ここからは、これらの特性を簡単に説明していきます。
傾聴
サーバント・リーダーシップに限らず、傾聴は今日大変注目されています。
傾聴(あるいは傾聴力)とは、相手の言葉に耳を傾け、相手が言っていることを理解し、共感する力です。
共感
先ほどの傾聴と重複部分もありますが、共感もサーバント・リーダーシップには不可欠の特性です。
サーバント・リーダーは、自分自身の意見を一度脇に置き、他の人の視点を大切にし、オープンマインドで状況に取り組みます。
癒し
サーバント・リーダーの特性の「癒し」とは、物理的な癒しを意味しているものではありません。
サーバント・リーダーは、周囲の肉体面だけでなく、精神面でもチーム・メンバーが健康的に活動できるようにしていかなければなりません。
チーム・メンバーが安心して、健康的に活動できる場を構築する能力が、ここでいう「癒し」の特性です。
自己認識
自己認識とは、自分自身を振り返り、自分の感情や行動について深く考え、自分の周りの人々にどのように影響し、自分の価値観と一致するかどうかを考える能力のことです 。
つまり、チームの中での自分自身の存在の意味を考え、チームに対してプラスの影響を与えられるかどうかを考えられるかということを意味しています。
説得
サーバント・リーダーは人々の行動を促すために、彼らの権限ではなく、説得や対話などのコミュニケーションを使用していきます。
権力を使ってものごとを解決しても、周囲の納得を得ることができず、不満が募ってしまいます。
そのため、サーバント・リーダーは説得や対話により、周囲の合意を得た解決策を模索していきます。
概念化
概念化とは、ものごとの概念、つまり「何であるか」をわかりやすく表現できる力のことです。
例えば、企業の経営理念やビジョンは、その会社の経営戦略を概念化したものですが、わかりやすい経営理念・ビジョンが作れるかどうかは、この概念化の力があるかどうかにかかっています。
先見性
先見性とは、将来何が起こるのかを予測する力です。これだけ聞くとオカルトめいた力に聞こえますが、単に勘にたよって未来を予言するのではなく、さまざまな状況分析の結果、そこから次にどうなるかを推測する力と言った方が良いかもしれません。
スチュワードシップ
スチュワードシップとは、チームの行動とパフォーマンスに責任を持ち、組織でチーム・メンバーが果たす役割に責任を負うことです。
スチュワード(Steward)とは、執事を意味する言葉で、スチュワードシップとは、執事のように周囲に貢献する気質を意味しています。
このスチュワードシップこそがサーバント・リーダーシップの神髄であり、組織論の名著である『学習する組織』の中でも、組織が掲げるビジョンのスチュワードの存在に注目しています[2]ピーター・M・センゲ(著)、枝廣淳子・小田 理一郎・中小路 … Continue reading。
人々の成長への取り組み
サーバント・リーダーは、チーム全員の個人的および専門的な能力開発に取り組んでいきます。
これは単に成長へのアドバイスを行うという意味にとどまらず、成長できる環境を整えるという側面もあります。
コミュニティの構築
サーバント・リーダーの特性としてのコミュニティの構築は、組織内のコミュニティの育成に意識を向ける力のことです。
例えば、チーム・メンバーの成功を祝ったり、メンバー同士の争いごとを解決するのもコミュニティの構築につながります。
アジャイル開発でのサーバント・リーダーの役割
どのようなプロジェクトであってもサーバント・リーダーは求められているものの、アジャイル開発では特にサーバント・リーダーは重要な意味を持ちます。
それは、アジャイル開発を行うプロジェクトは不確実性が高く、不確定要素が高いため、プロジェクト・マネジャー1人で対処できる事柄が少なく、プロジェクト・メンバー一人ひとりに期待されることが多くなるからです。
つまり、各プロジェクト・メンバーがそれぞれ主体的にプロジェクトの成功に貢献できるような環境を構築する存在としてサーバント・リーダーが求められています。
アジャイル開発におけるサーバント・リーダーの主な役割をまとめると以下の通りです[3]アジャイル実務ガイド、37頁。。
- アジャイルである理由と方法についてステークホルダーを教育する。
- 指導、励まし、支援を通してチームをサポートする。
- リスクの定量的分析のようなプロジェクトマネジメントの技術的アクティビティでチームを助ける。
- チームの成功を祝い、外部グループとの活動の構築を支援し、橋渡しをする。
参考
書籍・文献
- Spears, L. C. (2010). Character and Servant Leadership: Ten Characteristics of Effective, Caring Leaders. The Journal of Virtues & Leadership, 1, 25-30.
- ピーター・M・センゲ(著)、枝廣淳子・小田 理一郎・中小路 佳代子(訳)『学習する組織――システム思考で未来を創造する』英治出版、2011年。
Webページ
- Servant Leadership – Leadership Tools and Models From MindTools.com
- The 10 Principles of Servant Leadership | TeamGantt
注
↑1 | Spears, L. C. (2010). Character and Servant Leadership: Ten Characteristics of Effective, Caring Leaders. The Journal of Virtues & Leadership, 1, 25-30. |
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↑2 | ピーター・M・センゲ(著)、枝廣淳子・小田 理一郎・中小路 佳代子(訳)『学習する組織――システム思考で未来を創造する』英治出版、2011年、489頁。 |
↑3 | アジャイル実務ガイド、37頁。 |