フリーランスとして常駐型の業務委託を請けることのメリット・デメリット、そして注意点
最近とくに流行っているフリーランスへの常駐型業務委託の紹介
Webディレクター・テクニカルディレクターをしている関係上、バナー広告やYouTubeなどの動画広告で、レバテックさんやクラウドテックさんなど、フリーランスへの案件紹介の広告を目にすることがあります。
かなり高額の案件があるような宣伝をしているので、気になっている方も多いのではないでしょうか?
レバテックさんにせよ、クラウドテックさんにせよ、これらの会社はもともと人材系の会社であり、SES(システムエンジニアリングサービス)として、企業に専門的な技術のある人を派遣することをサービスとしています。
フリーランスというと、個人が企業などの組織からシステム開発やデザインを依頼される「請負契約」をイメージしますが、レバテックさんやクラウドテックさんなどの人材会社が紹介してくれるのは、「準委任契約」でクライアント企業に常駐して仕事をするという案件です(以下、常駐型業務委託と呼ぶこととします)。
「常駐しないといけないんだったら期待外れだ」と思われる人もいるかもしれませんし、「高い報酬を得られるなら、ちょっと気になるな」と思う方もいらっしゃると思います。
今回はフリーランスで働くことが気になっている方に対し、私の経験をもとに、人材会社から常駐型業務委託を請けるメリット・デメリットを解説していきます。
なお、今回の話はIT・Web系の業務委託に限った話でありますので、それ以外の分野の常駐型業務委託を検討されている方はご注意くださいませ。
フリーランスとして常駐型業務委託を請けるメリット
案件単価が高い
常駐型業務委託を考えるにあたって、特筆すべきは、案件単価の高さではないでしょうか?
冒頭でもお話ししましたが、レバテックさんやクラウドテックさんの動画広告やバナー広告を見て、フリーランスの仕事に興味を持った人も多いのではないでしょうか?
私は疑りぶかいので、「本当にこんな案件なんてあるの?」と思っていたのですが、実際に月50万円オーバーの仕事はざらにあって、私もいくつかお仕事をいただけました。
正社員で働いていた時のボーナス以上の報酬が振り込まれ、なんとも言えない気持ちになったことをよく覚えています(笑)。
この案件単価の高さはフリーランスで常駐型業務委託をする魅力ですね。
働き方のしばりがゆるい
常駐型業務委託であるので、クライアント企業に出社する必要があるものの、働き方のしばりがゆるいのも、業務委託の魅力です。
このメリットを十分に理解するには、常駐型業務委託の仕組みを理解する必要があります。
例えば、派遣契約であれば、派遣会社からお金が振り込まれるものの、その業務の指示は派遣先の組織に委ねられます。
一方で、常駐型の委託契約では、契約も業務指示も間に入っている人材会社になります。
なので、常駐するとはいえ、制度上、常駐先のルールに従う必要はないのです。
とはいえ、郷に入れば郷に従えで、ある程度は常駐先の組織のルールにあわせたほうがよいですし、なんやかんやいって、常駐先の指示を仰がなければならないことがほとんどです。
(これが法律的にグレーと言われる所以ですが、それはまた別の話……)
しかし、「副業禁止」だとか、「1年目は有給とったらダメ」だとか、そういったルールにまで従う必要はありません。
このように、働き方のしばりがゆるいのも、常駐型業務委託の魅力です。
危険な組織と縁を切りやすい
これは「フリーランス」であることのメリットですが、危険な組織と縁を切りやすいのも、業務委託契約のメリットです。
例えば、常駐先の企業でモラハラが横行していたり、コンプライアンスなんてまるで遵守していなかったりするとします。
そういった時、正社員であれば、泣き寝入りするか、人目を忍んで転職活動をするしかありません。
また、正社員であると、退職するにしてもいろいろ手続きが面倒であるなど、何かと精神的な負担は大きくなってしまいます。
しかし、フリーランスとして業務委託契約をしているのであれば、「次回は契約しません」というだけでOKです。
人材会社からのフォローがある
フリーランスとして人材会社を経由して業務委託を行うことのメリットは、なんと言っても人材会社のフォローがあることです。
先ほどの「危険な組織と縁を切りやすい」でもお話ししたように、「あ、この会社やばいかも」ということがあっても、人材会社に相談し、改善を求めることができます。また、契約を終了させるのも、人材会社経由なので簡単です。
実際に自分たちと契約を行っているのは人材会社なので、相談するにせよクレームをいれるにせよ人材会社になるのは当たり前なのですが、やっぱりトラブル時には安心できる存在ですね。
いろいろな会社を見ることができる
これは常駐型の業務委託のメリットですが、いろいろな会社を見て回ることができるのはなかなか楽しいです。
正社員であれば入れなかったところにでも、業務委託という形であれば入れる可能性はあります。
また、たとえ「ちょっとこの会社危ないな……」と思うところであっても、悪い組織を近くで見ることもなかなかできないので、それはそれで貴重な経験になるかもしれません(笑)。
今後、本格的に起業し、会社を作って活動していこうと考えている方にとって、常駐型業務委託は得難い経験になります。
会社の将来を気にせずに済む
最後に、会社の将来を気にしなくてもいいというメリットについても、ふれておきましょう。
正社員で働いていると、「この会社大丈夫なのかな?」「急にこんな制度にしたらスタッフが辞めちゃわないかな」と、会社の将来に対して不安に思うことがよくありました。
しかし、業務委託をしていると、そんな不安からも解放されます。
周りのスタッフが業務効率が悪いことをしていても、新人が今にも辞めそうでも、経営者が変な方針を打ち出しても、知ったことではありません。
経営が悪化しても契約した報酬は得られますし、変な業務を振られそうになっても断ることができます。
「この会社どうなっちゃうんだろう」という不安は正社員で働く上で大きな心の負担になりますが、フリーランスならそんな心配はありません。
フリーランスとして常駐型業務委託を請けるデメリット・注意点
実はそこまで報酬は多くない
フリーランスとして常駐型業務委託を請けるメリットとして、案件単価の高さがあります。
しかし、注意しておかなければならないのは、たとえ月50万円の案件であっても、個人事業としてはそこまで高いというわけではないということです。
なぜなら、そこから各種税金や年金を引くのは当たり前ですし、交通費などの経費も、フリーランス側が個人事業主として自分で支払うのが一般的です。
さらに、ボーナスもなく、退職金があるわけでもないので、長期的なスパンで考えると、常駐型業務委託の報酬金額というのは、そこまで高いというわけではありません。
こうした点を加味して、フリーランスとして常駐型業務委託をするかどうかを考えていきましょう。
「正社員としての給料は、個人で稼ぐ場合の2倍の価値がある」と、私は知り合いの社長から教えられたことがあります。だいたい今の収入の2倍以上になりそうなのであれば、フリーランスとして常駐型の業務委託を始めてみてもいいかもしれません。
仕事の楽しみが基本的にお金しかなくなる
昔、人材会社の先輩に「派遣や業務委託で働く人って、何を目指しているんですか」と聞いたところ、「まぁお金しかないよね」と答えられたことがあります。
当時としては「まさかそんなこと……」と思ったのですが、いざ業務委託をやってわかったのは、本当にお金しか楽しみがなくなるということです。
正社員で働いていると、給料のほかに会社の成長や後輩の成長が嬉しかったり、同輩と遊びにでるのも楽しみの一つでした。
しかし、業務委託となると、良くも悪くも会社や周囲のスタッフとの関係が希薄になるので、業務の中で楽しみを見出すか、毎月振り込まれる報酬しか楽しみがなくなります。
後述するように、業務内容は自分ができる仕事ばかりなので、チャレンジのしがいがなく、結果、働く楽しみというのはほぼお金を得る楽しみしかなくなります。
やっぱり疎外感はある
よっぽど鋼鉄の心をもっていないかぎり、正社員として一蓮托生で生きている集団の中で部外者が一人生きていくのは、それなりに気を使います。
私はもともと楽しくチームで働きたいというタイプなので、なおさら孤独を感じてしまいましたが、たとえ「一人で働きたい」と思っている人であっても、それなりの疎外感を抱いてしまうのではないでしょうか。
「仕事は何をするかより、誰とするかだ」とはよくいいますが、改めて仕事って人なんだなと感じさせられてしまいます。
時間と肉体の拘束が大きい
フリーランスというと、時間的・肉体的に自由が多いようなイメージがあります。
しかし、常駐型業務委託では、クライアント企業に出社する必要があるので、時間や肉体への拘束力は正社員とそこまで大差ありません。
上述のように、クライアント企業の制度に厳格に従う必要はないという部分では、精神的な拘束力は弱いものの、それ以外では、あまり自由な立場であるとは言えません。
結局は時間給と大差ない
先ほどの時間の拘束と関連して、フリーランスとして常駐型業務委託を請ける前に知っておかなければならないことがあります。それは、業務委託と言っても、人材会社から紹介される常駐型業務委託の多くは結局時間給であるということです。
完全にフリーランスとしてある組織と契約し、システム開発などの依頼を受ける際は、成果物に対して報酬が支払われます。
そのため、50万円の案件を1日でこなそうが、1ヶ月かけて完了させようが、報酬は変わりません。
その結果、できるだけ早く仕事を終わらせようとするインセンティブが発生します。
一方で、人材会社から紹介される常駐型業務委託では、「その場にいてサービスを提供する時間」に対してお金が支払われるようになっています。
だいたいの場合、人材会社からの案件紹介の情報の中に「精算基準時間」というものがあり、「○○時間から××時間」という記述がなされています。
例えば、「精算基準時間:140時間から180時間」という案件であれば、それは「常駐先の会社に月140時間以上、180時間まではいてね」ということになります。下限である140時間より常駐する時間が下回れば報酬は減額されますし、上限である180時間を超えれば報酬がプラスされます。
このような報酬形態であるため、人材会社からの常駐型業務委託は実質時間給であり、仕事を早く終わらせるインセンティブもありません。
「仕事を早く終わらせて、その分時間を自由に使うぞ!」という期待からフリーランスをしようとしている人も少なくはないかと思いますが、人材会社からの仕事では、この願いはなかなか叶えられません。
業務委託はチャレンジする場所ではない
常駐型の業務委託を斡旋する会社のCMでは「チャレンジしたいならフリーランス!」みたいに宣伝していますが、業務委託はチャレンジする場所ではありません。
これは外注管理を経験した方ならお分かりになるかと思いますが、何かの作業を外部にお願いする場合に、フリーランスさんから「やったことないし、できるかどうかわからないけど、やらせてください!」と言われても、なかなか通すことができない話です。
業務委託というのは、その業務をこなす力を見込まれて依頼されるものです。
なので、基本的に依頼される仕事と言うのは、100点に近いクオリティが出せる業務になりますし、そうした業務と言うのは、これまで自分が従事してきた業務になります。
そのため、業務委託の中でフリーランスがチャレンジするというのは、なかなかあることではありません。
「チャレンジして失敗しても、次につなげてよ」というのは、正社員に対してのみ言われる言葉で、 部外者であるフリーランスにかけられる言葉ではありません。
成長やキャリアアップは期待できない
「業務委託はチャレンジする場所ではない」という話に関連しますが、業務でチャレンジできなくなると、なかなか成長する機会もなくなりますし、キャリアアップも期待できなくなります。
フリーランスで揉まれたほうが成長できると思う方もいるかもしれませんが、上述の通り、フリーランスとして依頼されるというのは、自分が100点を出せる仕事がメインになります。
その結果、フリーランスのほうが成長しにくくなるということは、私が色々なフリーランスさんと接する中でも感じることです。
正社員の場合は、業務を通じてチャレンジさせてもらい、成長するということも可能だったので、仕事をするだけでもそれなりの成長が期待できます。
しかし、フリーランスになった場合は、自ら積極的に新しい技術や知識を学んでいかなければ、成長することはできません。
「1日1時間でも自分は新しいことを学び続けられるだろうか?」ということをフリーランスになるかどうかの判断軸にしても良いかもしれません。
長くできることではない(フリーランスのデメリット)
フリーランスとして、常駐型業務委託をする最大のデメリットは、長く続けることができないことです。
これはクライアント企業に長くいられる可能性が低いという意味もありますし、生涯通じて常駐型業務委託の仕事だけを続けられないという意味もあります。
常駐型業務委託は、あくまで業務委託であるため、「このプロジェクトが終わったら、契約は終了です」ということはよくあります。そのため、いつでも仕事がなくなる可能性があります。
フリーランスの常駐型業務委託というのは雇用関係があるわけでもないため、派遣社員やアルバイト以上に不安定な存在であることは十分に理解しておかなければなりません。
また、歳をとった外部のスタッフというのも、なかなか歓迎される存在ではありません。
そのため、契約が終了した後に新しい案件を探そうとしても、年齢を重ねると思ったように案件を依頼されないということがよくあります。
その上、自分で積極的に勉強しなければ、成長速度も遅くなっているはずなので、スキルの面でも魅力を失っていきます。その結果、案件探しがますます難航する恐れがあります。
人材会社が案件探しを手伝ってくれるとはいえ、フリーランスはフリーランスです。
フリーランスになると、正社員時代とは比べ物にならないくらいのデメリットが発生することを、改めて強調しておきたいと思います。収入は安定せず、社会的な信用も低くなりますし、受動的に生きているとたちまち社会から取り残されてしまいます。
人材会社の広告はフリーランスになるように煽ってくるものの、しっかりとフリーランスの現実も知った上で判断したほうがよいでしょう。
まとめ
今回はフリーランスとして人材会社から常駐型業務委託を請けるメリット・デメリット・注意点を解説していきました。
あらためて内容をまとめると、以下の通りです。
メリット
- 案件単価が高い
- 働き方のしばりがゆるい
- 危険な組織と縁を切りやすい
- 人材会社からのフォローがある
- いろいろな会社を見ることができる
- 会社の将来を気にせずに済む
デメリット・注意点
- 実はそこまで報酬は多くない
- 仕事の楽しみが基本的にお金しかなくなる
- やっぱり疎外感はある
- 時間と肉体の拘束が大きい
- 結局は時間給と大差ない
- 業務委託はチャレンジする場所ではない
- 成長やキャリアアップは期待できない
- 長くできることではない
このように、フリーランスとして常駐型業務委託を請けるメリットも多々あるものの、それなりのデメリットも存在し、とくにフリーランスになるデメリットについては、十分に把握しておかなければなりません。
個人的には人材会社からの常駐型業務委託は、ブラック企業から飛び出した後の駆け込み寺として利用するのがよいかと思います。
ブラック企業で働いていると、転職活動する時間がなく、あせって仕事を探してふたたびブラック企業に入社するということもよくあります。かといって、次の仕事が見つかるまでブラック企業で働いては、心身ともに疲れ果ててしまいます。
そのため、ブラック企業を退職する前に人材会社に相談し、退職した後に案件を紹介してもらい、業務委託をしながら転職活動をするというのは、ある程度の収入も確保できますし、業務委託できているスタッフの転職活動を止めるような人もいないため、一番良い案件紹介の利用法のように思えます。
あるいは、あくまでも起業の準備前や軌道に乗るまでの食いつなぎとして、 人材会社から案件を紹介してもらうというのも良いかもしれません 。
繰り返しになってしまいますが、とにかく報酬金額につられて安易にフリーランスになることはまったくおすすめしません。
人材会社からの紹介を待つだけのフリーランスとして生きていくつもりであるのであれば、あまり将来性はないため、やめておいたほうがよいかと思われます。