間違いだらけのプロマネ選び ―なぜ誤った人がプロマネに選ばれるのか?―

なぜか誤った人選をしてしまう

プロジェクトが失敗する原因には様々なものがありますが、適切なプロジェクト・マネジャー(以下、プロマネと略記)が選ばれていないことも、その原因の1つとして挙げられるでしょう。
しかし、「プロマネの人選が誤っていた」と言っても、その人選を行った人から言わせると「しっかりと見極めたはずなんだけどな~」というコメントが返ってきそうです。
それもそのはずで、誰もプロマネを適当に選ぼうとしているわけではありません。
今回は、しっかりと見極めたはずなのに、なぜプロマネの人選に失敗してしまうのかを解説していきます。

プロマネを選ぶ時の質問

どちらをプロマネに選ぶかの質問画像

今回の話を進めるために、1つ質問をします。
今、あなたがプロジェクトのプロマネを選ぶ立場だったとしたら、以下の2人のプロマネの内、どちらを選びますか?

  • プロジェクトは数回に1回の割合で失敗するが、炎上中の判断力・決断力に定評のあるAさん
  • めったにプロジェクトを失敗させないが、プロジェクトが炎上した場合の決断力に乏しいBさん

冷静に考えれば、どちらのプロマネを選ぶかなんかは簡単な話で、めったに失敗しないのであれば、Bさんをプロマネに選びぶべきです。
しかし、少なからずAさんを選ぶ人もいるでしょう。とくに経営者などの管理側の人間であれば、Aさんを選ぶ割合はぐっとあがるように思えます。

これは『スーパーエンジニアへの道―技術リーダーシップの人間学』で紹介されている話を少し改変したものです1) G.M.ワインバーグ (著)、木村 泉 (訳)『スーパーエンジニアへの道―技術リーダーシップの人間学』共立出版、1991年、200頁
本家では以下のような話が紹介されています。

もしあなたが、誰かの運転する車に乗って旅行しなければならないのだとしたら、あなたは運転者が次のどちらであることを望みますか。

a、事故を起こしたことはないが、もし事故が起こったとしたら決断力に欠ける恐れが大きい。
b、週に平均一回の割合で事故を起こしているが、緊急事態に会ったとき決断をくだすことには非常に熟達している。

著者のワインバーグが「多くの人々がbを好むようだ。」と嘆いているように、人は成功率が高い人よりも、トラブルや問題が起きた時にどれだけがんばれるかを高く評価する傾向にあるようです。

なぜ誤ったリーダーが選出されるのか?

横行する海兵隊方式

なぜ人は成功確率が高い人物よりも、失敗した時の対処に全力をかける人物を高く評価するのでしょうか。
これは海兵隊方式の信奉者が、洋の東西を問わず多いことが関係しているのかもしれません。
海兵隊方式とは『デスマーチ』という本に書かれた、デスマーチ発生の原因の1つであり2)エドワード・ヨードン(著)、松原友夫 (訳)、山浦恒央 (訳)『デスマーチ 第2版 ソフトウエア開発プロジェクトはなぜ混乱するのか』 日経BP、2006年、14頁。「プロジェクトなんて失敗するのが当たり前!それをどんだけ残業して巻き返せるかがプログラマーの腕の見せ所だ!」という風に息巻く精神です。
この部分だけ取り出せば、これがどれだけ危険思想であることは明らかなのですが、業務量過多なブラック企業では流行りやすい思想でもあります。

アメリカの海兵隊という組織は、激しいトレーニングでも知られていますが、一方で、学習も重視する、優れた組織としても有名です。
しかし、海兵隊方式を採り入れているブラック企業の多くは、単にハードワークに耐えることを美徳としており、仕事をさっさと片づけて帰宅する人間よりも、夜遅くまで残って案件対応するような人間を評価します。
あるいは、ここまで極端なことにはならなくとも、「トラブル時に粘り強く対応する」「がんばって徹夜する」というような精神面だけを評価する企業は少なくないのではないでしょうか。

その結果、冒頭の質問でBさんよりもAさんをプロマネで選ぶように、逆境に強い人物を高く評価することになります。

プロマネに何が必要なのかが整理されていない

下手な海兵隊方式が多くの企業でいつの間にか浸透し、それが是となっている原因には、プロマネや開発リーダーに求められる能力が明確になっていないことが挙げられるのではないでしょうか。
例えば、先ほどの『スーパーエンジニアへの道』の中で著者のワインバーグは、リーダーの基本姿勢はメンバー全員が問題を解き、決定をくだし、それらの決定を実施に移すことができるような環境を作り出すことだとしています 3) G.M.ワインバーグ (著)、木村 泉 (訳)『スーパーエンジニアへの道―技術リーダーシップの人間学』共立出版、1991年、202頁
そのため、リーダーに求められる能力は、問題解決能力であり、チームを組織する能力、チームをモチベートする能力となります。

ではプロマネであればどうでしょうか?

プロマネで求められる能力はなんといっても「プロジェクトを成功させる能力」です。
これが何かというのは簡単に説明はできませんが、決められた予算の中で、期待されている品質のプロダクトを、スケジュール内に生み出す能力であり、本質的にはワインバーグが提示したリーダー像と同じく、プロジェクト中の様々な課題を解決できるチームを作れる能力です。

このように、求められる能力がはっきりしていると、人選もしやすくなります。
しかし、求められる能力がはっきりしていないと、「彼はやる気がありそうだから」とか「いつも夜遅くまでがんばっているから、成し遂げてくれそうだ」という曖昧な精神論で人選がなされてしまいます。
プロマネを選ぶ際には、まずは「プロマネにはどのような能力が必要か」を整理し、その上で「その能力が一番高いのは誰か?」を考え、人を選出していくとよいでしょう。

プロマネに求められる最も基本的なこと

今回はプロマネの人選を誤ってしまう原因について考えていきました。
プロマネに大切なことはプロジェクトを成功させることです。
プロジェクトの成功とは、当初の予算の中で、期待されている品質のプロダクトを、スケジュール内に生み出すことです。
この軸がぶれてしまっては、今回紹介した海兵隊方式のように、精神面だけが重視され、よいプロマネを確保することが難しくなってしまいます。
あなたの組織ではどうでしょうか?一度ご確認してみてはどうでしょうか?

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1. G.M.ワインバーグ (著)、木村 泉 (訳)『スーパーエンジニアへの道―技術リーダーシップの人間学』共立出版、1991年、200頁
2. エドワード・ヨードン(著)、松原友夫 (訳)、山浦恒央 (訳)『デスマーチ 第2版 ソフトウエア開発プロジェクトはなぜ混乱するのか』 日経BP、2006年、14頁。
3. G.M.ワインバーグ (著)、木村 泉 (訳)『スーパーエンジニアへの道―技術リーダーシップの人間学』共立出版、1991年、202頁