【マーケ初心者向け】あなたのブランド、なぜかお客さんが増えない?「ダブルジョパディの法則」を知って、最初の一歩を踏み出そう!

[画像:芹澤 連『戦略ごっこ』]
「ダブルジョパディの法則」については『戦略ごっこ』もチェック!

「うちのブランド、商品は良いはずなのに、なぜかお客さんがなかなか増えない…」
「熱心なファンはいるけど、それだけじゃ成長しない気がする…」

マーケティングを学び始めたばかりのあなたは、そんな悩みを抱えていませんか?
もしかしたら、その原因の一つに「ダブルジョパディの法則」が関係しているかもしれません。

難しそうな名前ですが、心配しないでください!この記事では、この法則が一体何なのか、そしてあなたのマーケティング活動にどう活かせるのかを、具体例を交えながら優しく解説します。

「ダブルジョパディの法則」って何? 小さなブランドの「二重の悩み」

「ダブルジョパディの法則」をざっくり一言でいうと、「市場シェア(お客さんの数)が小さいブランドは、2つの点で不利になりやすい」という、マーケティングの世界でよく見られる現象のことです。

その「二重の不利(悩み)」とは…

二重の不利(悩み)
  1. お客さんの数が少ない(これが一番大きな悩み!):
    市場シェアが大きい人気ブランドに比べて、そもそも買ってくれる人の数が圧倒的に少ないのです。
  2. お客さんの買ってくれる回数も「やや」少ない(これが二つ目の悩み):
    そして、やっと来てくれたお客さんでさえ、人気ブランドのお客さんと比べると、平均して買ってくれる回数や頻度が「少しだけ」低い傾向がある、ということです。
[画像:大きなリンゴの木(人気ブランド)にたくさんの人が群がり、頻繁にリンゴを取っている様子。その隣に小さなリンゴの木(小さなブランド)があり、数人がたまにリンゴを取っているイメージ。]

「え、じゃあ小さいブランドはずっと不利なの?」と不安になるかもしれませんが、大丈夫です。
この法則は「ダメなブランドだから」起こるのではなく、市場の仕組みとしてそういう傾向がある、ということを教えてくれているのです。

例:缶コーヒー市場で考えてみよう

例えば、缶コーヒー市場で考えてみましょう。
ものすごくたくさんの人に飲まれている超有名ブランドA(市場シェア大)と、最近出てきたばかりのブランドB(市場シェア小)があるとします。

ダブルジョパディの法則によれば、ブランドBは、

  • ブランドAよりもお客さんの数がずっと少ない。
  • そして、ブランドBをたまに買ってくれるお客さんも、ブランドAをいつも買うお客さんに比べると、ブランドBを買う頻度は「少しだけ」低いかもしれない。

ということになります。

ポイント

「お客さんの数」の差は大きいけど、「買ってくれる回数」の差は比較的小さい


「うちはお客さんは少ないけど、熱狂的なファンが支えてくれているはず!」と思いたい気持ちはよく分かりますが、この法則は「そういうケースは実は珍しいんですよ」と教えてくれています。

なぜ「ダブルジョパディの法則」は起こるの?

では、どうしてこんな「二重の不利」が起こってしまうのでしょうか?主な理由は、お客さんが商品を選ぶときの「思い出してもらいやすさ」と「買いやすさ」にあります。

思い出してもらいやすい?(メンタル・アベイラビリティ)

 [画像:人の頭の中に、有名ブランドのロゴは大きくはっきり浮かんでいるが、小さなブランドのロゴは小さくぼんやりしているイメージ。]

お客さんが「あ、コーヒー飲みたいな」と思ったとき、あなたのブランドをパッと思い浮かべてくれるかどうか。これが「メンタル・アベイラビリティ」です。

市場シェアが大きいブランドは、たくさんの広告を出していたり、昔からあったりするので、お客さんの記憶に残りやすく、色々な場面で思い出してもらいやすいのです。

買いやすい?(フィジカル・アベイラビリティ)

[画像:コンビニの棚に有名ブランドの商品がたくさん並んでいて選びやすい様子と、小さなブランドの商品が隅に少しだけ置かれていて見つけにくい様子の対比。]

お客さんがあなたのブランドを「買いたい!」と思ったとき、すぐにお店やネットで見つけて、簡単に手に入れられるかどうか。これが「フィジカル・アベイラビリティ」です。
市場シェアが大きいブランドは、たくさんのお店に置いてあったり、ネットでもすぐに見つかったり、在庫もたっぷりあることが多いですよね。

大切なのは「思い出してもらいやすさ」と「買いやすさ」

これらの「思い出してもらいやすさ」と「買いやすさ」が低いと、なかなか最初のお客さんが増えません。
そして、お客さんが少ないと、そのブランドが人々の生活の「習慣」にもなりにくいのです。

さらに、多くの人は「みんなが使っているものは安心だ」と感じる傾向があります(これを「社会的証明」と言います)。
市場シェアが大きいブランドは、「たくさんの人が選んでいる」という事実そのものが信頼につながりやすいのです。

一番大事な発見:「お客さんの数」が増えると、「買ってくれる回数」も少し増える!

[画像:小さなバケツ(少ない顧客)に一生懸命水を注いでいる(ロイヤルティ向上施策)が、なかなか満杯にならない様子。その横で、大きなバケツ(多くの顧客)には自然と水が溜まっている(ロイヤルティもそこそこある)イメージ。]

ダブルジョパディの法則が教えてくれる、一番驚きで、そして一番大事なことは、「まずお客さんの数を増やす(市場シェアを上げる)と、結果として、お客さんが買ってくれる回数(顧客ロイヤルティ)も『少しだけ』上がってくる傾向がある」ということです。

これ、伝統的なマーケティングの「熱心なファンを増やせば、そのうちお客さんの数も増えるはず!」という考え方と、順番が逆なんです。

なぜお客さんが増えると、買ってくれる回数も少し増えるの?

  • 色々な場面で使われるようになるから: お客さんが増えると、様々な生活シーンでそのブランドが使われるようになり、人々の習慣に入り込みやすくなります。
  • もっと買いやすく、もっと覚えやすくなるから: お客さんが増えれば、お店ももっと商品を置いてくれるようになったり、口コミで話題になったりして、さらに買いやすく、思い出してもらいやすくなります。これは、今いるお客さんにとっても買い続けやすい環境になります。
  • 「みんな使ってるから安心」効果が高まるから: 周りで使っている人が増えると、今いるお客さんも「自分の選択は間違ってなかった!」と、より安心してそのブランドを使い続けてくれるようになります。

つまり、「お客さんの数を増やす努力」が、結果的に「お客さんが離れにくくなる」ことにも少しだけ繋がる、ということです。

じゃあ、何をすればいいの?マーケティング戦略へのヒント

この法則を知った上で、私たちマーケター、特にこれから頑張る新人マーケターは何をすればいいのでしょうか?

最優先は「お客さんの数を増やす」こと!

まずは、あなたのブランドを一人でも多くの人に知ってもらい、一度試してもらうことに力を注ぎましょう。これが成長への一番の近道です。

「思い出してもらいやすく、買いやすく」を徹底する!

メンタル・アベイラビリティ向上(思い出してもらいやすく)

ブランド名やロゴ、キャッチフレーズなどを覚えてもらえるように、繰り返し伝えましょう。
お客さんが「どんな時に」あなたの商品を必要とするか(例:暑い日に冷たい飲み物が欲しい時、疲れた時に甘いものが欲しい時など)を考えて、その瞬間に思い出してもらえるようにしましょう。
できるだけ多くの人の目に触れるように、広告なども工夫しましょう。

フィジカル・アベイラビリティ向上(買いやすく)

お客さんが普段買い物をするお店やオンラインショップで、あなたの商品が簡単に見つかるようにしましょう。購入までの手続きを簡単にしたり、在庫を切らさないようにしたり、お客さんがストレスなく買えるようにしましょう。

「熱狂的なファン作り」の前に、まず「たくさんの人に試してもらう」

もちろん、ファンは大切です。でも、この法則によれば、お客さんの数が少ないうちから「熱狂的なファン作り」だけに力を入れても、ブランド全体の成長には繋がりにくいかもしれません。
まずは、より多くの人にブランドを届け、最初の購入体験を良くすることに集中しましょう。お客さんが増えてくれば、その中から自然とファンも育ってきます。

ちょっと注意!法則は万能じゃない

このダブルジョパディの法則は、多くの市場で見られる強い傾向ですが、絶対ではありません。

ダブルジョパディの法則の注意点
  • ニッチブランドの存在: 特定の趣味の人だけに向けた専門ブランドや、特定のお店でしか買えないプライベートブランドなどは、お客さんの数は少なくても、そのお客さんからはすごく愛されて何度も買ってもらえる、ということがあります。
  • 成長中のブランド: 急成長しているブランドは、新しいお客さんがどんどん増えているけれど、その人たちがまだ常連さんになっていないため、一時的に「買ってくれる回数」が低く見えることもあります。

でも、ほとんどの一般的な商品カテゴリーでは、この法則が当てはまることが多い、と覚えておきましょう。

まとめ:今日から意識したいこと

「ダブルジョパディの法則」は、マーケティングの面白い法則の一つです。今日からあなたが意識できることはこちら!

  1. まずはお客さんの数を増やすこと(たくさんの人に知ってもらう、試してもらう)が一番大事!
  2. あなたのブランドを「思い出してもらいやすく、買いやすく」するために何ができるか考えてみよう!
  3. 身の回りの人気ブランドが、なぜたくさんの人に選ばれているのか観察してみよう。 きっと「買いやすさ」や「覚えやすさ」の工夫が見つかるはず。

この法則は、マーケティング戦略を考える上での強力なヒントになります。難しい計算は必要ありません。まずは「どうすれば、もっと多くの人に、もっと簡単に私たちのブランドを届けられるかな?」この問いから始めてみてくださいね!

参考

  • 芹澤連『戦略ごっこ―マーケティング以前の問題』日経BP、2023年