【意志の強さは関係ない!?】やり抜く力を支えるのは「感謝」「思いやり」「誇り」 ~『なぜ「やる気」は長続きしないのか』要約~
やり抜く力を支える要素
近年、人間の社会的な成功には、やり抜く力が関係していると言われています。
しかし、やり抜く力はどうやって培えばよいのでしょうか?
やり抜く力には意志の力、つまり周囲の誘惑を振り払って、自分の目標にまい進する自己制御の能力が関係していると思われています。もちろん、やり抜く力と意志の力には関係がないわけではありませんが、意志の力の効果は一時的なものです。
それでは、意志の力以外にやり抜く力に関係しているものはあるのでしょうか?
今回はデイヴィッド・デステノの『なぜ「やる気」は長続きしないのか―心理学が教える感情と成功の意外な関係』から「感謝」「思いやり」そして「誇り」とやり抜く力の関係を紹介していきます[1] … Continue reading。
未来に向かう力
「感謝」「思いやり」「誇り」に共通しているのは、未来に向かう力です。
つまり、これら3つの感情は、現在だけでなく、未来をよりよくしようという気持ちを育み、長期的なやる気を生み出してくれます。
感謝
感謝の気持ちは、もっとも簡単にやる気を引き起こしてくれます。
たとえば、ただ単に休日に力仕事を任されるのは気がめいりますが、友人の引っ越しの手伝いであれば、貴重な休日であっても進んで助けるという人は少なくないでしょう。それは、日ごろの友人への感謝の気持ちが、やる気を引き出しているからです。
感謝の気持ちを育むには、自分を助けてくれた人に意識を集中させることです。つまり、周りの人たちへの気持ちを思い出し、感謝の気持ちを抱きます[2]前掲『なぜ「やる気」は長続きしないのか』109頁。。
この時に注意しなければならないのは、何かの成果を自分だけの成果だと思う傾向に抗うことです[3]前掲『なぜ「やる気」は長続きしないのか』111頁。。
たとえば、難易度の高い学校の入学試験や資格試験に通ったとします。もちろん、それは自分自身が勉強をした成果ではあるのですが、家族や先生などからのサポートもあったに違いありません。それにもかかわらず、「受験に成功したのはすべて自分の努力の賜だ」と考えてしまう傾向が人間にはあります。
こうした傾向を排除し、周囲の助けを思い出すことが大切です。
思いやり
思いやりも感謝の気持ちと同様、簡単にやる気を引き出します。
たとえば、現在不健康で将来への貯蓄をあまりしていない人でも、未来の自分と会話することができれば、その未来の自分を思いやり、自分の習慣をあらためるかもしれません。
これは実際にバーチャルリアリティー(VR)の専門家のジェレミー・ベイレンソンと心理学者のハル・ハーシュフィールドらが行った実験です[4]前掲『なぜ「やる気」は長続きしないのか』115頁。。
この実験によって集められた被験者の一部は、VRによって造り出された未来の自分と会話しました。
そして、すべての被験者は「1,000ドルを手に入れたら何をするか?」というような質問をされました。
この「1,000ドルを手に入れたら何をするか?」という質問であれば、VRで未来の自分と会話した被験者は、VRを使っていない被験者に比べて、約2倍の額を貯蓄に回すと回答したようです。
人間は未来のことについて具体的に考えることを苦手としていますが、VRによって未来の自分と会話したことにより、将来の自分への思いやりの気持ちが生まれたと考えられます。
こうした思いやりの気持ちは、瞑想などを通じて、周囲とのつながりを意識することで培うことができます。
誇り
自分の能力やスキルに対する誇りも、長期的なやる気に関係しています。
誇りというと、人によってはネガティブなイメージを持っているかもしれません。
そのため、『なぜ「やる気」は長続きしないのか』では、誇りを「真の誇り」と「傲慢による誇り」に分けて考えています[5]前掲『なぜ「やる気」は長続きしないのか』163頁。。
「真の誇り」とは、客観的に確認できるスキルに基づいた誇りで、より自分自身を魅力的な存在にするものです。
一方で「傲慢による誇り」は、自分自身だけに集中し、周囲に耳を貸さない性質です。この「傲慢による誇り」は自分自身の能力やスキルへの評価を守るために、幻想に囚われたり、攻撃的になったりします。
では、「真の誇り」を身に付けるとどうなるのでしょうか?
たとえば、ある組織の中で、あなただけがIT関係の知識に明るかったとします。その知識が世間一般的なIT関係者の知識と比べると特に秀でたものでなくても、その知識を使うことで周囲の助けになっていたら、あなたはおそらく自分自身のスキルや知識を誇りに思い、もし少々の問題が発生したとしても、周囲のことを考えて粘り強く対応するはずです。
これが「真の誇り」の効果です。
誇りは自分自身のスキルを磨くことによって培うことができますが、注意しなければならないのは、謙虚さを忘れないことです[6]前掲『なぜ「やる気」は長続きしないのか』185~186頁。。謙虚さを持ち、周囲への感謝の気持ちを持たなければ、誇りは「傲慢による誇り」に変わってしまいます。
もし、周囲のチーム・メンバーや子どもに誇りを持ってもらいたければ、「称賛」という方法があります。つまり、ほめることによって、その人に誇りを持ってもらいます。
ここで気をつけなければならないのは、称賛は「称賛すべき内容」に限り、能力ではなく、努力に対して行うということです。
何でもないことや、誰でもできることに対して称賛していると、称賛を誠実な評価として受け止めてもらえません。
また、能力に対して称賛すると、その能力やそこから得られる評価を守るために、「傲慢による誇り」を持ってしまうかもしれません。
人生を豊かにする「感謝」「思いやり」「誇り」
以上のように、「感謝」「思いやり」「誇り」は実行機能に頼るだけでは生まれない、長期的なやる気を育んでくれます。
この3つの感情は、やる気を生み出すだけでなく、長期的な視点を持つため、日々の生活習慣なども改善されます。また、他者に対する感謝や貢献意欲も生まれるため、社交性も高くなります。
その結果、「感謝」「思いやり」「誇り」はやる気だけでなく、人生そのものを豊かにしてくれます。
参考
書籍
- デイヴィッド・デステノ(著)、住友進(訳)『なぜ「やる気」は長続きしないのか―心理学が教える感情と成功の意外な関係』白揚社、2020年
Webページ
- https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1509/jmkr.48.SPL.S23(2023年11月15日確認)