「隗より始めよ」の本当の意味から学ぶ弱者の採用術 ~今いる社員が幸せでなければ良い人材は集まらない!~

2022年8月26日

「隗より始めよ」の現代の意味

隗より始めよという言葉をご存知でしょうか?
現在では以下のような意味で使用されています[1]隗より始めよの本来の意味 Weblio辞書

中国の故事に基づく言い回しで、大掛かりな計画も手近な身の回りから着手するのがよい。といった意味の表現。

実用日本語表現辞典

①遠大な事をするには、手近なことから始めよ。
②転じて、事を始めるには、まず自分自身が着手せよ。

三省堂 大辞林 第三版

このように、現代では「身近なこと(ひと)から始めましょう」という意味で、「隗より始めよ」という言葉は使用されます。
しかし、現代で使われる「隗より始めよ」という言葉は由来の内容とは若干ニュアンスがことなります。
今回は「隗より始めよ」という言葉から規模の大きくない組織の人材採用を考えていきます。

郭隗と燕の昭王

昭王が即位したときの燕の状況

「隗より始めよ」の舞台は春秋戦国時代です。
最近では漫画の『キングダム』が人気を博していますが、その『キングダム』の時代より50年ほど前の話です。
燕は大国であったものの、国内の政治混乱に乗じて攻め入ってきた隣国の斉に敗れ、多くの領土を奪われてしまい、従属関係となってしまいました。

Wikiより

馬の骨ですら高く売れるなら……

このような屈辱的な時代に燕の国王に即位した昭王は、なんとかして斉に対して雪辱を果たしたいと考え、その土台作りとして知恵者の郭隗に人材を集める方法を尋ねました。
郭隗はこの時にある国で名馬を求めていた王様の話をしたとされています。
その王様は名馬を集めるため、馬の世話係に大金・千金を渡して買いに行かせたのですが、その世話係はあろうことか500金を使って馬の骨を買って帰りました。
当然王様はその世話係を詰問するわけですが、世話係は「馬の骨ですら大金で買われたことが知られたら、名馬であればさらに高値で売れるだろうと思われ、天下の名馬が集まるだろう」と言い返しました。
この世話係の読みは的中し、天下の名馬が王様のもとに集まり、王様は千里をかける名馬を3頭も手に入れることができたそうです。
こうしたエピソードを披露した郭隗は、「人材を求めるのであれば、まずはこの郭隗から始めてください。郭隗程度の人物でも優遇されることが知られれば、天下の人材が集まるでしょう」と昭王に話しました。
昭王はこれに納得し、郭隗を師匠と仰ぎ、高級なお屋敷を設けて優遇したとされます。
こうした一連の話が「隗より始めよ」の由来になっています。 「隗より始めよ」 の「 隗」の字は郭隗から来ていたのですね。
これまでお話ししてきた通り、「自分(身近なこと)から始めよう」というよりは、「身近な人から優遇し、さらに優秀な人を集めよう」というのが「隗より始めよ」の本来の意味に近いかと思います。

名将・楽毅が一時代を築く

馬の世話係の話のように、郭隗の策も成功したのでしょうか?
実は大成功をおさめ、多くの優秀な人材を燕は採用することができました。
集まった人物のなかでも楽毅は戦上手であり、約400年後に生まれる三国志の諸葛孔明も彼を尊敬していたとされています。
楽毅は局地的な戦の才能だけでなく、大局を見ることができる人物であり、他国との合従軍を率いて当時大国であった斉を打ち破りました。
燕の昭王としても、長年の恨みを晴らせた瞬間であったように思えます。

燕の昭王から学ぶ採用術

今回は「隗より始めよ」の由来を紹介してきました。
現代では「まずは自分から始めよう」という意味で使われていますが、もともとは身近な人物から優遇することで、さらにいい人材を求めようという意味合いで郭隗から発せられた言葉でした。
これまで見てきたように、他の大国に比べて魅力に乏しい国にどうしたら人材が集まるかを昭王は悩んでいましたが、 大企業に比べてなかなか魅力を伝えづらく、採用に悩む中小企業の経営者と同じであるように思えます。
燕の昭王に倣い、まずは今いる社員から優遇し、その様子を就活している人たちに知ってもらうことによって、人材を求めるというのも一つの手かもしれません。