ISO、IEC、ITUなどの国際標準に適合した製品を製造・販売する利点とは何か?

2021年9月2日

ISO、IEC、ITUなどの国際標準は様々ありますが、こうした国際標準に適合した製品を製造・販売する利点はどこにあるのでしょうか?

平成29年度秋期・応用情報技術者試験に出題

平成29年度秋期の応用情報技術者試験の午前試験69問目に以下のような問題が出題されました。

ISO、IEC、ITUなどの国際標準に適合した製品を製造及び販売する利点として適切なものはどれか。

答えとしては「WTO政府調達協定の加盟国では、政府調達は国際標準の仕様に従って行われる。」という選択肢が正解でした。
しかし、この選択肢の文章も「利点として適切なもの」という問いに対して、今一つ答えになっていない感じがします。
今回はこの応用情報技術者試験の問題を深掘りしてみました。

国際標準はなぜ必要か?

改めて、国際標準とは何か?

改めて、国際標準とは何かからはじめたいと思います。
国際標準とは通常、「各国で異なる製品の構造・性能や技術の規格を世界で統一した標準」と説明されます。
身の回りの製品は、それぞれの国がそれぞれの技術や仕様で製造しています。例えば海外旅行をする際に、コンセントの形状が国によって違うため、変換器を空港で買わなければいけない場合があります。
しかしこれでは不便であるため、構造・性能・技術の統一した規格である国際標準というものが定められています。

有名なISO9000シリーズ

提供する製品・サービスを問わず、有名な国際標準の1つがISO9000シリーズです。
ISOはInternational Organization for Standardization(国際標準化機構)の略称であり、彼らが制定した規格のことを指します。
ISO9000シリーズには品質マネジメントシステムに関する規格が定められています。
品質管理は工場からIT製品の制作会社まで、あらゆる組織にとって重要なことがらであるため、「ISO9000」の文字はあらゆるところで目にします。
品質管理に対する意識が国や組織によってバラバラであるため、品質管理のされていない粗悪な輸入品が市場に出回ってしまっているというのがグローバル社会の現実です。
そうした時代の中で、何がいい輸入品で、何がよくないのかを判断する際に、ISO9000を持っているかいないかは大きな判断材料となります。
ISO9000を取得している組織の製品は、国を問わず、高い水準で品質管理がされているという証拠になります。
このように、ISOは品質マネジメントの標準を定めることで、粗悪品の排斥に一役買っているといえます。

WTOの政府調達に関する協定

WTO政府調達協定の概要

WTOはWorld Trade Organization(世界貿易機関)の略で、WTOでは貿易に関連する様々な国際ルールを定めています。
応用情報技術者試験の選択肢にある「WTO政府調達協定」もその国際ルールの一つです。
この政府調達協定では、以下のようなことが定められました。少々長いですが、外務省のWebサイトから引用いたします。

政府調達分野では,東京ラウンドの多角的貿易交渉の結果策定された「政府調達に関する協定」(旧協定)(1981年発効,1987年改正)により,政府機関等による産品の調達に内国民待遇の原則(他の締約国の産品及び供給者に与える待遇を自国の産品及び供給者に与える待遇と差別しないこと),及び無差別待遇の原則(他の締約国の産品及び供給者であって締約国の産品を提供するものに与える待遇をそれ以外の締約国の産品及び供給者に与える待遇と区別しないこと)が適用されてきました。1994年協定は,こうした規律の適用範囲を新たにサービス分野の調達や地方政府機関による調達等にまで拡大するもので,政府調達における国際的な競争の機会を一層増大させるとともに,苦情申立て,協議及び紛争解決に関する実効的な手続を定め,政府調達をめぐる締約国間の問題につき一層円滑な解決を図るための仕組みが整備されました。

WTO政府調達協定 | 外務省

政府調達というのは、どこか自国の製品やサービスを優遇するようなイメージがあり、事実このWTO政府調達協定以前は閉鎖的であったのかもしれませんが、この協定の後はより他国製品も参入できるような土壌ができました。
日本政府が他国の製品を買うこともあれば、WTOに加盟している国が日本製品を買うこともあるため、企業にとってはビジネスチャンスが広がることになります。

国際標準に適合することの何がメリットなのか?

WTO政府調達協定は他国の製品の参入を促すものの、国際標準に従っている製品だけを選定することとしています。
上述の通り、国際標準を持っているかいないかで、粗悪品かどうかを判断しようというものです。
そのため、せっかく良い製品をつくっていても、国際標準の規格に沿わなければ、他国の政府調達に応じることができなくなり、商機を逃してしまいます。
国際標準を満たしている製品・サービスだけが、WTOが広げたチャンスを享受できます。

国際標準に沿っていても得られないもの

ここからは補足的に、上記平成29年度秋期・応用情報技術者試験の問題の誤った選択肢から、国際標準に沿っていても得られない利点についてみていきます。

1.技術的に優位であることは証明できない

国際標準は、その標準に適合しない他の製品に対して技術的に優位であることを保証するものではありません。
そのため、自分たちが何か製品を購入する際、ISOがあるからといって製品が優れているというわけではなく、持っていないからといって陳腐な製品だということではないことを念頭に置いておかなければなりません。

2.国際標準に適合するための特許をすべて無償でライセンスを受けられるわけではない

国際標準に適合するための特許をすべて無償でライセンスを受けられるというわけではありません。とくに有形の製品であれば、部品の設計一つ一つに特許があるということもあり、それらがすべて無償利用が保証されているわけではありません。
この国際標準と特許はグローバル社会の課題でもあり、世界で統一の規格で製品を作っていくと便利ではあるものの、独自の技術をどうやって守っていくかが問われています。

3.輸出先の規制を受けないわけではない

たとえ国際標準に沿った製品であったとしても、輸出先の国の法規制には従う必要があります。
そのため、輸出先の国で輸入制限がかけられていたら、おとなしくその規制に従うほかありません。

まとめ

今回は平成29年度秋期の応用情報技術者試験の午前試験69問にでてきた、国際標準に適合するメリットを考えてきました。
応用情報技術者試験の選択肢が挙げた利点は「WTO政府調達協定の加盟国では、政府調達は国際標準の仕様に従って行われる。」というものでしたが、補足すれば、「WTO政府調達協定の加盟国では、政府調達は国際標準の仕様に従って行われるため、ビジネスチャンスが広がる」ということになるでしょう。