「競争戦略」と聞くと、SWOT 分析や5フォース、あるいはポジショニングといったフレームワークを思い浮かべる方も多いかもしれません。
しかし、楠木建先生のベストセラー『ストーリーとしての競争戦略』は、それらとは一線を画し、「戦略とは、他社との違いを生み出し、持続させるための一貫した『物語』である」と喝破します。
Promapedia では、これまで『ストーリーとしての競争戦略』の重要な概念を解説してきました。
この記事では、それらのエッセンスを凝縮し、「戦略ストーリー」の全体像を掴むことを目指します。
そもそも「ストーリー」とは何か?【サッカーの試合で考える】
![[画像:戦略ストーリーをサッカーにたとえたイメージ画像]](https://ssaits.jp/promapedia/wp-content/uploads/2025/07/what_is_story-3-1024x576.png)
まず、『ストーリーとしての競争戦略』が言う「ストーリー」とは何でしょうか?単なる思いつきや個別の施策の寄せ集めではありません。それは、「なぜこの戦略で勝てるのか?」という問いに対する、因果関係で結ばれた明快な答えです。
サッカーの試合にたとえて考えてみましょう 。
静止画(戦略の構成要素): 選手一人ひとりの能力、フォーメーション、監督の指示といった、個々の要素です。これらはもちろん重要ですが、これだけでは試合に勝てるかは分かりません。
動画(ストーリー): 試合が始まり、選手たちが動き出し、パスが繋がり、最終的にゴールが決まるまでの一連の流れです。なぜそのパスが通ったのか? なぜ相手ディフェンスを崩せたのか? その背景には、選手たちの連携、監督の戦術、相手チームの弱点といった要素間の「つながり」があります。
戦略ストーリーとは、この「動画」のように、個々の打ち手(静止画)が互いにどのように作用し合い、最終的なゴール(持続的な利益)に繋がっていくのかという、動的な因果論理の連鎖なのです。
このストーリーについて、さらに詳しく知りたい方は、下記の記事もご覧ください。

ストーリーの出発点:「コンセプト」を決める【何をもって「他社と違う」とするか?】
![[画像:『ストーリーとしての競争戦略』コンセプトのサムネイル画像]](https://ssaits.jp/promapedia/wp-content/uploads/2025/07/competitive-startegy-as-a-narative-story01-2-1024x576.png)
戦略ストーリーは、「他社との違い」をどう作るか、という物語です。その出発点となるのが「コンセプト」の定義です 。
コンセプトとは、「顧客に対して、どのような独自の価値を提供するか?」という、事業の核心的なアイデアです。それは、単に「高品質な製品を作る」といった漠然としたものではなく、「誰の、どのような問題を、どのように解決するか」を具体的に示したものでなければなりません。
例えば、スターバックスは単にコーヒーを売るのではなく、「家庭でも職場でもない、リラックスできる第三の場所(サードプレイス)」というコンセプトを打ち出しました 。
このコンセプトがあるからこそ、価格設定、店舗デザイン、接客スタイルといった一連の打ち手が、一貫性を持って繋がっていくのです。
優れたコンセプトは、「トレードオフ」を伴います 。つまり、「あれもこれも」ではなく、「これをやるためには、あれは捨てる」という明確な選択があってこそ、他社には真似できない独自の価値が生まれます。
このコンセプトについてさらに詳しく知りたい方は、下記の記事もご覧ください。

ストーリーのゴール:「利益」と、それを支える「クリティカル・コア」
戦略ストーリーが目指すべき最終的なゴールは、短期的な売上やシェアではなく、「持続的な利益」です 。
では、どうすれば持続的な利益を生み出せるのでしょうか? それは、他社には真似できない「違い」を作り、顧客がその価値を認めて「WTP(Willingness To Pay:支払意思額)」を高めること、そしてその価値を効率的なコストで提供することです 。
WTPについてさらに詳しく知りたい方は、下記の記事もご覧ください。

他社には真似できない「違い」を持続させるための鍵となるのが「クリティカル・コア」です 。
クリティカル・コアとは、戦略ストーリー全体の中核を成し、競合他社が容易には模倣できない、独自の強みとなる要素のことです 。それは、特許技術のような目に見えるものだけではありません。
長年培ってきた企業文化、独自の開発プロセス、あるいは一見すると「非合理」に見えるようなこだわり(例えば、セブン-イレブンの高密度なドミナント出店戦略 )なども、クリティカル・コアとなり得ます。
重要なのは、クリティカル・コアが単独で機能するのではなく、コンセプトから始まる一連のストーリーの中で、他の構成要素と相互に作用し合うことで、初めて模倣困難な競争優位性を生み出すという点です。
このクリティカル・コアについてさらに詳しく知りたい方は、下記の記事もご覧ください。

まとめ:なぜあなたの戦略には「ストーリー」が必要なのか?
『ストーリーとしての競争戦略』が教えてくれるのは、優れた戦略とは、
- 独自の「コンセプト」に基づき、
- 「クリティカル・コア」に支えられ、
- 個々の打ち手が一貫した「ストーリー」として繋がり、
- 最終的に「持続的な利益」をもたらすものである
ということです。
フレームワークを埋めるだけでは、決して生み出すことのできない「競争優位の源泉」。それは、あなたの会社だけが語ることのできる、独自の「戦略ストーリー」の中にこそ存在するのです。


![[画像:ストーリーとしての競争戦略]](https://ssaits.jp/promapedia/wp-content/uploads/2025/07/image-702x1024.png)