デルファイ法とは何か?予測技法の紹介とやり方を解説

2020年3月4日

デルファイ法とは

デルファイ法の流れの図

デルファイ法(Delphi法)とは予測技法の1つであり、専門的知識や経験を有する複数人にアンケート調査を行い、その結果を互いに参照した上で回答を繰り返して、集団としての意見を収束させていく方法です。
デルファイ法はプロジェクトマネジメントの中でも見積作成やリスク識別など、さまざまな場面で使用できる手法です。

デルファイ法のやり方

リスク識別をデルファイ法で

ここではデルファイ法の進め方を解説をするために、プロジェクトでのリスク識別をデルファイ法で行ったというケースを見ていきましょう。
リスク識別とは何かを簡単にまとめると、プロジェクトに悪影響を及ぼしそうなリスクを見きわめ、その特性を文書としてまとめることです[1]深沢隆司『48のキーワードから学ぶ実践プロジェクトマネジメント』翔泳社、2004年、106頁。
プロジェクトにどのようなリスクが潜んでいるかということは、なかなかプロジェクト・マネジャー一人ではわからないことです。このように、「1人だけの知恵では判断ができない」という時にデルファイ法は有効です。

デルファイ法の大まかな流れ

デルファイ法の大まかな流れは以下の通りです。

  1. アンケートを作成する
  2. 専門家たちからの回答
  3. アンケートの集計
  4. アンケート結果の共有
  5. 再度専門家からの回答
  6. 3~5を繰り返す
  7. 最終報告を作成する

アンケートの作成

デルファイ法は専門家たちに回答してもらうアンケートの作成から始まります。
リスク識別であれば、以下のようなアンケート項目が挙げられるでしょう。

  • このプロジェクトのスケジュールを遅延させるリスクはありますか?またそれは何ですか?
  • このプロジェクトでコスト超過を発生させるリスクはありますか?またそれは何ですか?
  • このプロジェクトで最も作業が困難な内容はどれですか?

このようなアンケート項目を作成し、専門家に回答してもらいます。

専門家の回答

デルファイ法では、作成したアンケートを複数人の専門家に回答してもらいます。
ここで重要なのは、回答する専門家を匿名にすることです。もし回答者名が公表されてしまうと、「ハロー効果」や「後光効果」が発生し、回答する専門家が業界の有名人であればその意見を重視してしまうかもしれません[2]Delphi method – Wikipedia
回答する専門家によって判断をブラさないためにも、回答者の匿名性を保つことが重要です。

アンケートの集計と再アンケート

専門家からアンケートの回答が送られてきたら、プロジェクト・マネジャーやこのデルファイ法を仕切っている担当者はアンケートを集計します。
そして、アンケートの集計が終わったら、その結果を再度アンケート形式で共有し、専門家たちからの回答を求めます。
例えば、最初のアンケートの回答で、「プロジェクト期間中は業界の繁忙期なので、外注費がかさむ可能性があり、コスト超過の危険性がある」「モジュールAの仕様が複雑であるため、開発の難航が予想される」などの回答があった場合、その対処法を求めたり、またこれらの回答を見てさらに気づくことがないかを専門家たちに尋ねたりします。
こうした「アンケートの集計」→「再アンケート」→「専門家の回答」という一連の流れを繰り返すのが、デルファイ法の特徴です。
何度この流れを繰り返すかは決められたものはありません。あらかじめ終了する基準を定めておきましょう。
時間が許せば意見が出なくなるまで繰り返したいですが、少なくとも2回以上は反復したいところです。
また、参加している専門家が回答を繰り返す中で、他の専門家の回答にコメントしたり、以前自分が回答した内容を修正することも許容し、自由な意見を促すことが大切です [3]Delphi method – Wikipedia 。なぜなら、集団で自由な意見を言い合うことによって、正しい回答に行き着くというのがデルファイ法のアイデアだからです。

得られた結果を文書にまとめる

アンケートと回答を繰り返し得られた結果は最終的に文書化し、プロジェクトに役立てていきます。
今回のようなリスク識別であれば、リスク・マネジメント計画書やリスク登録簿の内容に盛り込んでいきましょう。

デルファイ法の注意点とメリット

デルファイ法を使用する上での注意点としては、この手法はあくまで人が予測しうる可能性をまとめたものにすぎません。そのため、将来の予測の精度にはブレがあります。
しかし、デルファイ法はこのような注意点があったとしても、今でも根強くビジネスで使用されている手法です。
その理由としては、将来を予測する技法がそこまで存在しないということもありますが、それなりの精度を保ちながら、専門家さえ揃えば迅速に実施できるところが魅力なのではないでしょうか。

「無知の知」を忘れないようにする

今回はデルファイ法の紹介と、リスク識別を事例にやり方を見ていきました。
デルファイ法は「集団で考えたほうが正しい答えに行き着く」という前提に成り立っている手法です。
上述の通り、あくまで人間が知恵を寄せ合って出した結果なので、精度にはブレがあり、予測できない部分も多々あります。
そのため、デルファイの神託の逸話にでてくるソクラテスのように「無知の知」を忘れず、デルファイ法で生まれた結果を完全なものとは思わず、「まだ明らかになっていないリスクはないか」「見落としている見積項目はないのか」と考えることが大切なのだと思われます。

1深沢隆司『48のキーワードから学ぶ実践プロジェクトマネジメント』翔泳社、2004年、106頁。
2Delphi method – Wikipedia
3Delphi method – Wikipedia