利用可能性バイアス(availability bias)とは何か?判断を誤らせる認知バイアスを解説
利用可能性バイアスの概要
利用可能性バイアス(availability bias)は、認知心理学や行動経済学の分野で研究される心理学的なバイアスの一つです。このバイアスは、人々が判断や意思決定をする際に、手元に容易に思い浮かぶ情報や出来事を過大評価し、それが意思決定に不適切な影響を与える傾向を指します。
利用可能性バイアスはアメリカの心理学者であるエイモス・トヴェルスキー(Amos Tversky)とダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)によって発見・研究されました。
トヴェルスキーとカーネマンは、利用可能性バイアスにより人々が情報を容易に思い浮かべることができるかどうかに基づいて判断を下し、評価を誤る傾向があることを実験研究によって示しました。
利用可能性バイアスは意思決定におけるバイアスの一つとして、経済学や心理学、マーケティング、リスク評価、意思決定理論などの分野で広く研究および応用されています。
利用可能性バイアスの具体例(「K」が3番目に来る英単語)
利用可能性バイアスの具体例として、トヴェルスキーとカーネマンが利用可能性バイアスを発見した実験を紹介します。
トヴェルスキーとカーネマンは被験者に対して「K」で始まる英単語と、「K」が3番目に来る英単語ではどちらが多いかと質問しました。
多くの人は「K」で始まる英単語が多いと解答しましたが、実際には「like」や「make」など、3番目に「K」が来る単語の方が多いです。
こうした結果になった原因をトヴェルスキーとカーネマンは「『K』で始まる」という手がかりが、「『K』が3番目に来る」という手がかりよりも有効に働いたからだと考え、それを利用可能性バイアスと名付けました。
つまり、「K」で始まる英単語のほうが思い出しやすいため、その情報を過大評価したということです。
交通事故と心臓発作の死亡件数
先ほどのトヴェルスキーとカーネマンの実験のほかにも、利用可能性バイアスの例はさまざまありますが、交通事故と心臓発作の死亡件数の例を紹介します。
交通事故による死亡件数と心臓発作(急性心筋梗塞)による死亡件数は、どちらのほうが多いでしょうか?
多くの人は交通事故による死亡件数が多いと解答します。しかし、2020年度の死亡件数は交通事故によるものが3,713件、急性心筋梗塞が30,524件と、急性心筋梗塞のほうが多数です[1]https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai20/dl/gaikyouR2.pdf(2023年10月4日確認)。
それにもかかわらず交通事故のほうが多いと判断されがちなのは、痛ましい交通事故の情報にニュースで触れることが多いからです。
つまり、利用可能性バイアスによって、ニュースでよく目にする交通事故を過大評価してしまっています。
利用可能性バイアスに関連するもの
認知バイアス
今回の利用可能性バイアスは認知バイアスの一つです。
認知バイアスについては下記の記事をご参照ください。
二重プロセス理論
二重プロセス理論(Dual-Process Theory)は、心理学や神経科学、認知科学などの分野で使用される重要な概念の一つです。二重システム理論(Dual-System Theory)や二過程論とも呼ばれるこの理論は、人間の思考や意思決定プロセスを説明し、理解するために提案されました。
二重システム理論は、通常、直感で判断する「システム1」と熟慮で判断する「システム2」と呼ばれる2つの異なる思考プロセスに焦点を当てています。
利用可能性バイアスは、二重プロセス理論でいう「システム1」による誤った判断により発生します。
二重プロセス理論については、下記の記事もご参照ください。
参考
- 植原亮『思考力改善ドリル: 批判的思考から科学的思考へ』勁草書房、2020年
- ダニエル・カーネマン(著)、村井章子(翻訳)『ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか?』早川書房、2014年
注
↑1 | https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai20/dl/gaikyouR2.pdf(2023年10月4日確認) |
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