プロジェクトマネジメントの10個の知識エリアとは何か?PMBOK第6版の用語を解説
プロジェクトマネジメントの10個の知識エリア
従来、プロジェクトマネジメントと言えば、数多くのプロジェクトをこなしてきた人物のKKD(勘、経験、度胸)が重視されてきました。
つまり、過去のプロジェクトから得た勘や経験に基づいてプロジェクトを策定し、度胸によってプロジェクトを開始していたわけです。
しかし、これではプロジェクトの経験のない人物がプロジェクトを始めようとした場合、経験者がいなければ、何からどう手をつけて良いのか分かりません。
そこで、近年注目されているのが、プロジェクトマネジメント知識体系です。
プロジェクトマネジメント知識体系は、経験者のプロジェクトを分析し、プロジェクトを成功に導くためにはどのようにプロジェクトを遂行すれば良いのかをまとめたものです。
そして、プロジェクトマネジメント知識体系の中で最も広く知られているものが、PMIが策定したPMBOKです。
このPMBOK第6版では、マネジメントの対象を10個の知識エリアに分類しています。
- プロジェクト統合マネジメント
- プロジェクト・スコープ・マネジメント
- プロジェクト・スケジュール・マネジメント
- プロジェクト・コスト・マネジメント
- プロジェクト品質マネジメント
- プロジェクト資源マネジメント
- プロジェクト・コミュニケーション・マネジメント
- プロジェクト・リスク・マネジメント
- プロジェクト調達マネジメント
- プロジェクト・ステークホルダー・マネジメント
以下では、10個の知識エリアについて1つずつ解説していきます。
プロジェクト統合マネジメント
各々の知識エリアは密接に関係しているため、全体のバランスを取りながらプロジェクトを進める必要があります。
そこで、他の9つの知識エリアを取りまとめ、管理する役割を果たすのが、プロジェクト統合マネジメントです。
プロジェクトマネジメントの中核をなす知識エリアと言えます。
プロジェクト統合マネジメントは、以下の7つのプロセスに分けられています。
プロジェクト憲章の作成
プロジェクトの目的などを明確化した文書「プロジェクト憲章」を作成します。
「プロジェクト憲章」の承認後、プロジェクトは正式に開始されます。
プロジェクトマネジメント計画書の作成
プロジェクトの目的達成に向けた方法をまとめ、「プロジェクトマネジメント計画書」を作成します。
プロジェクト作業の指揮・マネジメント
「プロジェクトマネジメント計画書」に従い、作業を実行します。
プロジェクト知識のマネジメント
目的達成に向け、これまでに培われた知識を活用し、新しい知識を生み出していきます。
過去の教訓をプロジェクトに活かすことができないかを考えます。
プロジェクト作業の監視・コントロール
計画どおりに作業が進んでいるのかをチェックし、進んでいない場合には是正処置を検討し、プロジェクトの報告書を作成します。
統合変更管理
検討された処置が必要かどうかを判断し、必要であれば是正処置を実行します。
プロジェクトやフェーズの終結
プロジェクトを終結し、最終報告書を作成します。
プロジェクト・スコープ・マネジメント
プロジェクトを成功させるためには、目的となる最終的な成果物を明確にし、成果物を得るための作業範囲(スコープ)を確定させる必要があります。
プロジェクト・スコープ・マネジメントは、明確化した成果物を得るために必要な作業を過不足なく管理する領域です。
プロジェクト・スコープ・マネジメントは、以下の6つのプロセスに分けられています。
スコープ・マネジメントの計画
プロジェクトにおける成果物や作業範囲をどのように定義化し、どう管理していくのかをまとめ、「スコープ・マネジメント計画書」を作成します。
また、顧客などステークホルダーからの要求事項をどのように把握し、どう整理していくのかを定めるための「要求事項マネジメント計画書」を作成します。
要求事項の収集
「要求事項マネジメント計画書」に従って、要求事項を収集します。
収集した要求事項を基に、要求事項の内容を具体化した「要求事項文書」を作成します。
また、要求事項の変更などを記述するための表「要求事項トレーサビリティ・マトリックス」を作成し、要求事項を管理できるようにします。
スコープの定義
「スコープ・マネジメント計画書」と「要求事項文書」に基づき、最終的な成果物と作業範囲を詳細に定義し、「プロジェクト・スコープ記述書」を作成します。
WBSの作成
「プロジェクト・スコープ記述書」からWBSを作成します。
WBSは、日本語では作業分解構成図と呼ばれ、プロジェクトの作業範囲を細分化し、階層構造で記述した図表のことです。
作業範囲を細分化し、コストやスケジュールを見積ることができる最小単位「ワーク・パッケージ」まで分解します。
スコープの妥当性確認
ステークホルダーが成果物の検査を行います。
スコープのコントロール
成果物や作業範囲に変更がないかをチェックし、必要に応じて是正処置を検討します。
プロジェクト・スケジュール・マネジメント
プロジェクトには納期が付きものですが、最終的な納期を守ればそれで良いかと言えば、そういうわけにはいきません。
プロジェクト・スケジュール・マネジメントは、スケジュールをきめ細かく管理して、確実に納期を守るために必要となる領域です。
プロジェクト・スケジュール・マネジメントは、以下の6つのプロセスに分けられています。
スケジュール・マネジメントの計画
スケジュールを立てるための方法やスケジュールを管理するためにどのようなツールを使うのかをまとめ、「スケジュール・マネジメント計画書」を作成します。
アクティビティの定義
WBSの「ワーク・パッケージ」をさらに分解して、管理できる単位「アクティビティ」にまで分解します。
アクティビティの順序設定
各アクティビティを実施する段取りを決めます。
アクティビティの所要期間見積り
各アクティビティの実施にかかる期間を見積ります。
スケジュールの作成
最終的なスケジュールを作成します。
スケジュールのコントロール
スケジュールの進捗が計画どおりかどうかをチェックし、必要に応じて是正処置を検討します。
プロジェクト・コスト・マネジメント
納期と同じく、プロジェクトには予算が付きものです。
プロジェクト・コスト・マネジメントは、プロジェクトの開始前に見積もった予算内で目的を達成するために必要な管理を行う領域です。
プロジェクト・コスト・マネジメントは、以下の4つのプロセスに分けられています。
コスト・マネジメントの計画
コストを見積るための方法や管理するための手法などをまとめ、「コスト・マネジメント計画書」を作成します。
コストの見積り
「コスト・マネジメント計画書」に従い、各アクティビティに必要なコストを計算します。
アクティビティとは、WBSの「ワーク・パッケージ」を管理できる単位にまで分解したものです。
予算の設定
各アクティビティのコストを合計して、プロジェクト全体に必要なコストを計算します。
また、アクティビティのスケジュールに応じてコストを分配します。
コストのコントロール
コストの実績値が計画どおりかどうかをチェックし、必要に応じて是正処置を検討します。
プロジェクト品質マネジメント
プロジェクト品質マネジメントは、成果物の品質だけでなく、プロジェクトを進める上でのプロセスや作業の品質も管理する領域です。
これは、プロセスや作業を改善してプロジェクトの質を高めることは、結果として品質の高い成果物を作ることに繋がるということを意味しています。
プロジェクト品質マネジメントは、以下の3つのプロセスに分けられています。
品質マネジメントの計画
どれぐらいの品質を実現するのか、その品質を確保するためにどのような方法を用いるのかをまとめ、「品質マネジメント計画書」を作成します。
品質のマネジメント
次に説明する「品質のコントロール」で得られたデータを基に、必要に応じて是正処置を検討し、「品質報告書」を作成します。
品質のコントロール
プロジェクトの成果物やプロセスが「品質マネジメント計画書」どおりの品質を確保しているかどうかをチェックし、検証します。
プロジェクト資源マネジメント
プロジェクトを遂行するためには、人的資源(人)と物的資源(資材)は欠かせません。
プロジェクト資源マネジメントは、チームを構成したり適切な資材を確保したりするなど、人的資源と物的資源を割り当て、管理する領域です。
プロジェクト資源マネジメントは、以下の6つのプロセスに分けられています。
資源マネジメントの計画
プロジェクトに必要な人的資源と物的資源を獲得・活用するための方法をまとめ、「資源マネジメント計画書」を作成します。
アクティビティ資源の見積り
各アクティビティに必要な人的資源と物的資源がどのようなもので、どれぐらい必要なのかを特定し、「アクティビティ資源要求事項」を作成します。
アクティビティとは、WBSの「ワーク・パッケージ」を管理できる単位にまで分解したものです。
資源の獲得
「資源マネジメント計画書」や「アクティビティ資源要求事項」に従って人的資源と物的資源を集め、割り当てます。
チームの育成
集まった人的資源を一つのチームとしてまとめます。
チームメンバーの能力強化やチームワークの向上を行います。
チームのマネジメント
チームメンバーを観察し、メンバーが抱えている問題に対処したりメンバー同士のコンフリクト(対立)を解決したりするなど、チームワークを強化するための活動を行います。
資源のコントロール
割り当てた資源が計画どおりに利用されているかどうかをチェックし、必要に応じて是正処置を検討します。
プロジェクト・コミュニケーション・マネジメント
PMBOKにおけるコミュニケーションとは、プロジェクトに必要な情報が、チームメンバーに限らず顧客などのステークホルダーとの間で交換されることを意味しています。
コミュニケーション・マネジメントは、こうした情報交換を適切に管理する領域です。
コミュニケーション・マネジメントは、以下の3つのプロセスに分けられています。
コミュニケーション・マネジメントの計画
ステークホルダーが必要とする情報を把握し、どのように情報交換を行っていくのかをまとめ、「コミュニケーション・マネジメント計画書」を作成します。
コミュニケーションのマネジメント
「コミュニケーション・マネジメント計画書」に従って情報を収集し、必要な情報をチームメンバーやステークホルダーに発信します。
コミュニケーションの監視
情報発信が計画どおりに行われているかどうかをチェックし、必要に応じて是正処置を検討します。
プロジェクト・リスク・マネジメント
PMBOKにおけるリスクとは、もし発生すればプロジェクトの目的達成に影響を与えるものを意味しています。
プラスの影響もマイナスの影響も、どちらも対象となります。
プロジェクト・リスク・マネジメントは、このようなリスクをどのように扱い、どう対処すればよいのかに関する領域です。
プロジェクト・リスク・マネジメントは、以下の7つのプロセスに分けられています。
リスク・マネジメントの計画
リスクにどう対処するのかを定め、リスクの洗い出しや分析のためのツールをまとめ、「リスク・マネジメント計画書」を作成します。
リスクの特定
プロジェクトの目的達成に影響を及ぼしうるリスクを「リスク登録簿」に記述します。
なお、リスクの特定は一度行って終わりではなく、プロジェクトの進行に合わせて適宜見直していく必要があります。
リスクの定性的分析
「リスク登録簿」などに基づき、リスクの発生確率や影響度を検討し、リスクに優先順位を付けます。
検討した内容を「リスク登録簿」に記述します。
リスクの定量的分析
リスクの影響度を数値化し、コストやスケジュールに与える影響を見積り、「リスク登録簿」に記述します。
リスク対応の計画
「リスク登録簿」を参考にして、各リスクにどのように対応するのかを計画し、リスク対応計画を決めます。
リスク対応策の実行
リスク対応計画に従って、リスクへの対応を行います。
リスクの監視
リスクの追跡や新たなリスク特定を行い、継続的にリスクをチェックし、必要に応じて是正処置を検討します。
プロジェクト調達マネジメント
プロジェクトの遂行にあたっては、外部の納入業者と契約を結び、様々な物品やサービスを調達する必要も出てきます。
プロジェクト調達マネジメントは、こうした外部からの調達活動を管理する領域です。
プロジェクト調達マネジメントは、以下の3つのプロセスに分けられています。
調達マネジメントの計画
物品やサービスの調達をどのように進めていくのかをガイドとしてまとめ、「調達マネジメント計画書」を作成します。
調達の実行
「調達マネジメント計画書」に従って、納入業者からの提案書を評価し、選定した納入業者との間で合意書を取り交わし、契約を結びます。
調達のコントロール
納入業者が合意書の内容に沿って適切に契約を履行しているのかをチェックし、必要に応じて是正処置を検討します。
プロジェクト・ステークホルダー・マネジメント
プロジェクトには、チームメンバーのほか、顧客やスポンサーなど様々なステークホルダーが存在します。
プロジェクトに肯定的な人もいれば、否定的な人もいます。
プロジェクト・ステークホルダー・マネジメントは、多様なステークホルダーとの関係を適切に管理する領域です。
プロジェクト・ステークホルダー・マネジメントは、以下の4つのプロセスに分けられています。
ステークホルダーの特定
ステークホルダーの洗い出しを行い、誰がどのような役割を担っているのかを明確にします。
また、各ステークホルダーのプロジェクトへの関心度や影響度を整理します。
ステークホルダー・エンゲージメントの計画
各ステークホルダーとどのタイミングでどのように関わるのかをまとめ、「ステークホルダー・エンゲージメント計画書」を作成します。
ステークホルダー・エンゲージメントのマネジメント
「ステークホルダー・エンゲージメント計画書」に従い、交渉やコミュニケーションを通じて各ステークホルダーの期待を管理します。
例えば、実現困難な期待を抱えているステークホルダーがいる場合、交渉によって期待度を下げ、ステークホルダーとの関係が適切になるようにします。
ステークホルダー・エンゲージメントの監視
ステークホルダーとの関係をチェックし、必要に応じて是正処置を検討します。