スケジュールが遅れる3つの原因を解説
なぜスケジュールは遅れるのか?
なぜスケジュールは遅れるのでしょうか?
綿密に計画を練っていても、プロジェクトがスケジュール通りに進まないということがあります。
たとえプロジェクトの完了が遅れることはなくとも、個々のタスクやアクティビティが遅延するということは多々あります。
スケジュール遅延が発生する理由はさまざまですが、主な原因は以下の3つです。
- スケジュールの振れ幅
- 学生症候群を患ってしまった
- 予期していなかった作業が入ってしまった
今回はこれら3つのスケジュール遅延の原因を解説していきます。
スケジュール遅延の原因1:スケジュールの振れ幅
そもそもスケジュールとは確率である
予定していたタスクが予定日に完了しなかったり、スケジュールが遅延したりすると、「せっかくスケジュールを作ったのに」と落胆してしまうことがあります。
とくにそのプロジェクトのプロジェクト・マネジャー(以下、プロマネと略記)であれば、責任を問われることもあるので、なおさら気分が落ち込んでしまいます。
しかし忘れてはいけないのは、スケジュールというものはあくまで「実現確率の高い期日・時間」を表しているにすぎないということです。
どのようなスケジュールにも振れ幅というものがあり、予定していたスケジュールより早まることもあれば、遅くなることもあります。
完了予定日には振れ幅がある
夏休みの宿題でスケジュールの振れ幅を考える
では、なぜスケジュールに振れ幅ができてしまうのでしょうか?
ここで、夏休み前に先生から夏休みの計画を立てるようにいわれた小学校6年生のAくんを例にして、スケジュールの振れ幅について考えていきましょう。
小学校6年生ですので、1年生から5年生までの計5回、Aくんは夏休みの宿題を終わらせたことがあります。
1年生の時は17日かけて夏休みの宿題を終わらせ、2年生の時は15日で終わらせました。
その後、3年生の時は20日、4年生の時は10日、5年生の時は18日で夏休みの宿題を完了させました。
夏休みの計画を立てるにあたって、先生から「今年は何日で夏休みの宿題を終わらせられますか?」ときかれたら、Aくんはどのように答えるでしょうか?
Aくんが自信過剰な性格であれば最速で終わらせた4年生の実績である10日と答えるでしょうし、悲観的な人間であれば最も時間がかかってしまった3年生の時の20日と答えるでしょう。
しかし、多くの場合は、5年間の平均を考え、16日と答えるのではないでしょうか?
このように、スケジュールを作成する時に見積もっている時間というのは、往々にしてこれまでの実績の平均であり、その平均から実際の時間が増減することはよくある話です。
予定した時間より早まればそれにこしたことはないのですが、平均よりも時間がかかってしまうことも当然あります。
これがスケジュールの振れ幅であり、スケジュール遅延の原因となっています。
統計学的に見たスケジュール
ここではもう少しつっこんで、統計学的に見たスケジュールを解説していきます。
高校時代に数Cを履修していた人や、大学で統計を学ばれた方は参考画像1のような正規分布の図を見たことがあるかもしれません。
正規分布の図は横軸にスケジュールなどの何かしらの値、縦軸に確率をとっています。
この正規分布が何を意味しているのかを簡単にいうと、平均の値というのが最も発生確率が高く、平均から離れると発生確率は低くなるということです。
これをスケジュールに置き換えると、参考画像2のようになります。
ここでは詳しい説明は省略しますが、注意してほしいことは、平均の時間・期日におさまる確率というのは50%しかなく、それを超えてしまう可能性も50%あるということです。
そのため、これまでの経験をもとに平均の時間をそのままスケジュールに使ってしまうと、50%の確率でスケジュール遅延が発生してしまうということになります。
こうした状況を防ぐには、平均の値と予想される最遅・最長の時間や期日との間ぐらいをスケジュールとして計上するほうがよいでしょう。
こうした振れ幅を加味し、スケジュールの実現確率を見積もることができる手法が三点見積りです。
三点見積りについては別の記事で紹介していますので、あわせてこちらの記事もご覧くださいませ。
また、スケジュールが遅れることをあらかじめ想定し、作業期間が予定より延びてしまった時の対処法を講じておくことも大切です。
例えばPMBOKのスケジュール・マネジメントの計画のプロセスで作成されるスケジュール・マネジメント計画書では、「コントロールのしきい値」というものを記述します。
コントロールのしきい値とは、 「割り当てられた期間の10%以上遅れたら会議の場を設ける」など、どこまでスケジュールが遅れたら対策を講じるかというラインを明確に数値化したものです。
こうしたしきい値をあらかじめ定めておき、スケジュールの振れ幅をある程度許容しながらも、どこからはプロジェクトの問題として取り扱うかの線引きをしておくとよいでしょう。
スケジュール遅延の原因2:学生症候群を患ってしまった
学生症候群とは何か?
スケジュール遅延の2つ目の原因として、 学生症候群というものをご紹介します。
学生症候群とは、いくら時間的に余裕があっても締め切りギリギリにならないと着手しないという人間の性質のことを指します。
つまり、ギリギリにならないとやらないという性質を表した俗語です。
学生症候群については、別の記事で紹介したこともありますので、こちらの記事もご覧くださいませ。
再び夏休みの宿題で考える
学生症候群というだけあり、学生症候群の具体例は先ほどの夏休みの宿題で説明がしやすいですし、みなさんも体験したことがあるかもしれません。
仮に夏休みが40日あり、Aくんが夏休みの宿題の対応時間を16日と見積もっていたとします。
本来であれば24日も余裕があり、これで夏休みの宿題が新学期に提出できないということはなさそうです。
しかし、Aくんが学生症候群にかかってしまっていたら、「24日も余裕がある」と考え、なかなか宿題に手を付けようとしません。
たとえ夏休みが残り16日になってからとりかかったとしても、先ほど紹介したスケジュールの振れ幅のせいで、16日以内に完了できるかどうかは50%の確率しかありません。
Aくんが想像していたよりも宿題が難しく、16日よりももっと時間を費やしてしまうこともあれば、宿題の課題の内容が分からず、友達に聞くまで進められないということもあるでしょう。
こうして学生症候群によって、スケジュールは遅延してしまいます。
学生症候群を防ぐには
こうした学生症候群を防ぐには、夏休みの宿題であれば親が、会社の仕事であれば上司やプロマネなどが作業が進められる状態であれば、作業を進めるようにけしかけていく必要があります。
学生症候群は誰にでも心当たりのあるスケジュール遅延の原因ですが、マネジャーの立場にある人が導いていくことで解消できる問題でもあります。
仕事をしていると「あとこんなにも余裕があるんだからまだやらなくてもよいでしょ?」というスタッフに出くわすことがありますが、その時は学生症候群の害を伝え、作業ができる時にどんどん進めてもらうようにしていきましょう。
スケジュール遅延の原因3:予期せぬ作業が入ってしまった
予期せぬ作業が入る理由
スケジュールが遅延する3つ目の原因は、予期せぬ作業が入ってしまうことです。
予期せぬ作業が入ってしまう原因も、だいたい3つの理由があります。
- 要望の追加
- 仕様の把握漏れ
- 他のプロジェクトの影響
これらの3つの理由とは何なのでしょうか?
夏休みの宿題で予期せぬ作業を考える
予期せぬ作業が発生する流れを、再度Aくんの夏休みの宿題で考えていきましょう。
Aくんがスケジュールの振れ幅や学生症候群の影響を無くすために、余裕をもったスケジュールで夏休みの宿題に着手したとします。
Aくんは順調なペースで宿題を進め、新学期が始まる5日前には宿題が終わりそうなスケジュールです。
夏休みの半ば、突然先生から連絡があり、「伝え忘れていた宿題があった」と言われ宿題が増えてしまい、Aくんのスケジュールは狂ってしまいます。
また、Aくんは読書感想文をせっかく書いたのですが、今年に限って先生の推薦図書の中から本を選ばなければならなかったようです。
Aくんは間が悪く、推薦図書ではない本の感想文を書いてしまったので、読書感想文をまた1から作成していかなければなりません。
こうしてAくんのスケジュールは混乱していくのですが、さらに追い打ちをかけるように、お父さん・お母さんから家の大掃除の手伝いを依頼され、ますます宿題のスケジュールは乱れていきました。
Aくんはなんとか新学期までに宿題を終わらせたものの、最後の5日間は連日徹夜で宿題をするという状態でした。
このように、せっかく余裕のあるスケジュールを立て、早め早めに着手したとしても、予期せぬ作業が入ることによってスケジュールは狂ってしまいます。
Aくんの夏休みの宿題で言えば、以下の3つの理由で予期せぬ作業が発生しました。
- 先生からの追加の宿題(要望の追加)
- 読書感想文のやり直し(仕様の把握漏れ)
- 親の手伝い(他のプロジェクトの影響)
では、こうした予期せぬ作業を防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。
その対策法を次に考えていきます。
予期せぬ作業を防ぐには
Aくんが体験したような予期せぬ作業を防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。
簡単に対策をまとめると以下のようになります。
- 要望の追加 ⇒ 見積りの精度の向上
- 仕様の把握漏れ ⇒ 仕様の確認
- 他のプロジェクトの影響 ⇒ リソース状況の共有
少しこれらの対策について説明を加えていきます。
見積りの精度の向上
予期せぬ作業を防止するために、プロジェクトの開始前、もしくは開始直後にしなければならないのが、見積りに漏れがないかを確認することです。
見積りというのは、そのプロジェクトの金額を表すだけでなく、プロジェクトの要望(要求事項)が掲載された重要な資料でもあります。
つまり、見積りに作業内容が含まれていなければ、そのプロジェクトでは漏れていた作業に気づくのは、ある程度成果物ができてからになってしまいます。
デザイン作成であれ、ソフトウェア開発であれ、どんなプロジェクトであっても、ある程度モノができてから追加の要望に応えるよう修正するのは至難の業です。
「そういえばお願いしていたあの作業どうなったっけ?」
「今気づいたけどこの作業抜けているよね?」
という状況を防ぐため、見積りの精度を上げ、予期せぬ作業が発生するのを防ぐためにプロジェクトの依頼者・受託者同士で確認しておくことが大切です。
先ほどのAくんの場合であれば、Aくんのほうから先生にこれ以上追加の宿題はないことを確認し、しっかりと書面・言質をとっておくことが重要です(あまり学校でこんなことする子はいないかと思いますが……)。
仕様の確認
次に、仕様の確認を見ていきます。
仕様の確認とは、その名の通り、作業内容をしっかりと確認することです。
これはAくんがおかしたミスのように、「もともと言われていたのに確認できていなかった」ということも挙げられますが、見積りの時と同様に、「何をするのか」を依頼者と受託者で認識合わせをすることも大切です。
リソース状況の共有
最後にリソース状況の共有を見ていきます。
予期せぬ作業が発生する理由として、突然他のプロジェクトからの作業が入るということがあります。
こうした突然の依頼をすっぱりと断ることができればよいのですが、なかなか断り辛い状況も人にはあります。
そういう場合は、あらかじめ資源カレンダーを作成し、自分の状況をオープンにすることで、「あいつに頼もうと思っていたけど、忙しいならやめとくか」と思ってもらえるように仕向けてみると良いかもしれません。
まとめ
今回はスケジュールが遅延する3つの原因を解説していきました。
今回の内容をまとめると以下の通りです。
- スケジュールが遅れる理由は、スケジュールの振れ幅によるもの、学生症候群によるもの、予期せぬ作業によるもの
- スケジュールの振れ幅
- 多くの場合、スケジュールとして提出するのは実績の平均値
- 平均の時間・期日で作業が完了する確率は50%
- 対策として、平均と最長の間の時間・期間くらいの余裕をもつ
- 学生症候群
- 学生症候群に罹ると時間に余裕のある作業を進めないようになる
- 時間がギリギリになってから作業をすると、スケジュールの振れ幅などでスケジュール内に終わらせられないことがある
- 対策として、作業が進められる状態にあるのであれば、早め早めに作業を進める
- 予期せぬ作業
- 予期せぬ作業は要望の追加、仕様の把握漏れ、他のプロジェクトの影響によるものがメイン
- 要望の追加に対しては見積りの精度を向上させる
- 仕様の把握漏れについては、仕様の確認をする
- 他のプロジェクトの影響を軽減するために、リソース状況を共有する