クリティカル・シンキングとは何か?批判的思考の内容とビジネスへの応用を解説

2020年10月27日

クリティカル・シンキングの概要

クリティカル・シンキングとは、過去の経験や個人の価値観にとらわれず、問題の本質を見極め、論理的に考える思考法のことです。
日本語では「批判的思考」と訳されますが、否定的な意味合いよりも、物事を批判的に思考することによって新たな気づきを得られるなど、創造的な意味合いが強いです。
クリティカル・シンキングの定義は諸説あり、古くから数々の学者が様々な定義を唱えてきましたが、いずれにしても、「批判的」つまり「疑う」という行為を通じて考えることは共通しています。
「疑う」という行為によって、問題の本質を見極めるということがポイントです。
近年、ビジネスの世界で急速に注目を集めている思考法であり、今やビジネスマンが身に着けなければならない技術の一つと言えるでしょう。

クリティカル・シンキングの3つの基本姿勢

クリティカルシンキングのキャッチ画像

クリティカル・シンキングを身に着けるためには、まずはその基本となる姿勢を知っておかなければなりません。
優れた経営者は素晴らしい経営テクニックをいくつも持っていますが、それ以前に独自の経営理念など基本姿勢が固まっているからこそ、テクニックが力を発揮できているのです。
それと同じことで、クリティカル・シンキングにおいても、テクニック以前にどのような姿勢を意識しておかなければならないのかを説明していきます。

目的は何なのかを常に頭に置いておく

何らかの問題を考えるときには、どういう目的なのかを明確にしましょう。
論理的に正しい思考を行うためには、「疑う」という行為によって、そもそも考える意味があるのか、本当の目的は違うところにあるのではないかなど、問題を追及することが大切です。
そして、考える目的を明確にすることで、目的を見失うことなく正しい思考を行うことができます。
例えば、売上低迷という問題について考える場合、根拠もなく訪問件数が少ないためだと決めつけるのは正しい思考とは言えません。
「疑う」という行為を通じて、売上低迷という問題に対してゼロから考える必要があります。
ゼロから考えた結果、やはり訪問件数をどうにかする必要があるとの結論に至れば、それで初めて考える目的が明確になるわけです。

自分や他者に思考の癖や偏りがあることを意識する

誰であっても、その人個人の価値観や好き嫌い、過去の経験にもとづいた教訓などがあります。
これらは、思考の偏りや癖として、何らかの問題について考える際の前提になっています。
こうした前提を理解しないまま思考しても、他者の言っていることはもとより、自分の主張でさえも表面的にしか考えることができません。
それでは、正しい思考ができているとは言えません。
例えば、上司がある問題に対して特定の解決策にこだわる場合、それは手法の好みというわけではなく、過去の経験が教訓になっているのかもしれません。
また、自分自身の考え方についても注意が必要です。
自分の思考に影響を与えている価値観や好き嫌いはないかと自問し、自分の考え方を第三者の視点で分析できるように意識する必要があります。

問い続ける

ある問題について考え、何らかの答えを出しても、そこで思考を止めてはいけません。
答えに対する問いを繰り返すことで、問題の核心に迫っていくことができます。
そうすると、新たな問題が浮上してきたり誰も気づけなかったチャンスを見つけられたりします。
重要な問いは、次の3つです。

  • 「なぜ?」
  • 「だから何?」
  • 「本当に?」

「なぜ?」は、問題の原因を特定できます。
「だから何?」は、問題の本質を追求することにつながります。
「本当に?」は、誤解がないかの確認になります。
例えば、「なぜ?」を追求していくとどうなるのかを確認してみましょう。
以下の例を見てください。

  • 売上が低迷しているのはなぜ?→訪問件数が少ないからだ。
  • ② 訪問件数が少ないのはなぜ?→従業員が減少しているからだ。
  • ③ 従業員が減少しているのはなぜ?→新規採用が集まらないからだ。
  • ④ 新規採用が集まらないのはなぜ?→求人広告が魅力的でないからだ。
  • ⑤ 求人広告が魅力的でないのはなぜ?→人事課にアイデアマンがいないからだ。

上の例を見ると、①で問いが終わった人と⑤で問いが終わった人とでは、取りうる解決策が大きく異なってくることが分かります。
問いを繰り返すことで、問題の本質を見抜けるようになるわけです。
ちなみに、トヨタ自動車では、こうした問いを5回は繰り返すことで、問題の本質を見抜き、問題解決を図っていると言われています。

クリティカル・シンキングができるとビジネスでどのように役立つのか

ビジネスの世界は変化が著しく、限られた時間や情報の中で何らかの答えを出さなければならない場面が多く存在します。
そのような場面において、クリティカル・シンキングを身に着けておくと以下のような利点があります。

迅速に的確な答えを出すことができる

言うまでもなく、時間は無限ではなく有限です。
変化のスピードが速いビジネスの現場で、必要な情報をすべて集め、完ぺきな結論に至るまで考えることはとうてい不可能でしょう。
限られた時間の中で、限られた情報を材料にして、いかに正しく思考して答えを出すことができるのかが重要です。
クリティカル・シンキングを身に着ければ、限られた情報の中から最適な答えをいち早く導くことができるようになります。

自分に経験のない問題でも判断できる

ビジネスの世界では、自分に経験のない問題に直面することが多いです。
また、正解と言える答えがなく、前例が通じない問題に出くわすこともよくあります。
こうしたなか、取引先や上司など他者の言っていることが本当に正しいのか、あるいは間違っているのかを自分の頭で考え、判断する必要があります。
クリティカル・シンキングを用いれば、必ずしも自分に経験のない問題や正解のない問題についても、論理的に考えて判断できるようになります。

答えに至る根拠を説明できる

ビジネスの現場では、取引先や同僚が外国人という機会も多くなっています。
異なる文化や価値観を持っている人に対しては、きちんと論理的に説明できないと、自分が言いたいことの意味が通じないという事態になりかねません。
クリティカル・シンキングによって、文化や言語などの背景事情が異なっている人にも、答えに至った根拠を分かりやすく的確に説明できるようになります。

ロジカルシンキングとクリティカル・シンキングの違い

ロジカルシンキングとは、日本語で「論理思考」と訳されるように、論理的に考える思考法です。
クリティカル・シンキングも論理的に考える思考法なので、どちらも同じ概念のように思えます。
しかし、両者は、思考する上で重視しているポイントが異なっています。
論理的に考えるということは、次の2点を満たすことを言います。

  • 根拠から答えを導く論理に矛盾がないように考えること
  • 根拠から答えを導く論理がそもそも適切かどうかを考えること

ロジカルシンキングが「論理に矛盾がないように考えること」を重視している一方、クリティカル・シンキングは「論理がそもそも適切かどうかを考えること」を重視しています。
「適切かどうかを考えること」とは、まさに「疑う」という行為を意味しています。
そして、それによって問題の本質を見極めようとすることがクリティカル・シンキングの肝なわけです。
ロジカルシンキングとクリティカル・シンキングを全く別物のように解説する人もいますが、実は、両者は切っても切り離せない関係と言えるでしょう。

まとめ

以上、今回はクリティカル・シンキングについて解説してきました。
実際にクリティカル・シンキングを身に着けるには、細かい方法論やコツがいくつかありますが、3つの基本姿勢を意識するだけでも、思考の仕方がかなり変わってくるはずです。
ビジネスの現場では、問題解決が求められる場面が多々あります。
そうした場面においてクリティカル・シンキングを身に着けていれば、自信をもって解決策に至る道筋を考えられるようになると思います。
論理的に思考することが苦手な人は、まずは3つの基本姿勢を意識してみるのが良いでしょう。

参考文献

  • グロービス経営大学院『グロービスMBA クリティカル・シンキング[改訂3版]』ダイヤモンド社、2012年
  • 中野明『クリティカル・シンキング 実践ワークブック』秀和システム、2009年
  • 茂木秀昭『「60分」図解トレーニング ロジカル・シンキング』PHP研究所、2014年
  • 佐々木裕子『実践型クリティカルシンキング』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2014年