資源マネジメントの計画とは何か?PMBOKの用語を解説
資源マネジメントの計画とは
資源マネジメントの計画とは、プロジェクトに必要な人・モノ・カネなどの資源を見積もり、それを確保し、管理・活用する方法を定義するプロセスです。
プロジェクトでの「資源」には様々な意味があり、プロジェクトで購入・調達するツールの費用やプロジェクト・チームのメンバーが作業する時間、施設なども含まれます。これらのプロジェクトの資源の管理方針を決定するのが資源マネジメントの計画です。
資源マネジメントの計画はなぜ必要なのか?
「戦争のプロは兵站を語り、戦争の素人は戦略を語る」という格言があります[1]兵站 – Wikipedia。
戦記物の小説などでは、諸葛孔明のように戦略・戦術を練る人物にスポットがあたりがちですが、実際の戦争では戦いを継続させるための兵站が戦略・戦術よりも重要であるという意味で使われます。
プロジェクトも同様に、優れた開発リーダーやプログラマーがいたとしても、 プロジェクト・マネジャー(以下、プロマネと略記)がプロジェクトに必要な時間を確保したり、必要なツール・設備を準備しなければ他のプロジェクトの計画はすべて机上の空論になってしまいます。
プロジェクトの完了まで、どのような資源が必要なのかを考え、その準備をすることが何にもまして重要であると言えるでしょう。
資源マネジメントの計画のアウトプット
資源マネジメントの計画では、以下のような計画書・文書を作成していきます[2]PMBOK第6版、318~320頁。。
- 資源マネジメント計画書
- チーム憲章
- プロジェクト文書更新版
これらの計画書・文書についてはページをあらためて解説していきますが、簡単に構成要素だけ確認し、資源マネジメントの計画のプロセスのゴールを明確にしておきましょう。
資源マネジメント計画書
資源マネジメント計画書では以下のような事項を記載していきます。
- 資源の特定
- 資源の獲得
- 役割と責任
- プロジェクト組織図
- プロジェクト・チーム資源のマネジメント
- トレーニング
- チーム育成
- 資源のコントロール
- 表彰計画
資源マネジメント計画書は大別すると「プロジェクトで使う資源は何か」「その資源をどのようにしてコントロールするか」の2つの要素で構成されています。
資源マネジメント計画書が上記の通り多くの事項を記述していく理由は、資源の中に「人」が含まれているため、実質人のマネジメントを考える計画書になっているからです。
そのため、組織図のみならず、チームのマネジメントやトレーニング・育成方法、果ては表彰に至るまで、人の管理について言及していきます。
チーム憲章
チーム憲章には以下の内容を記述していきます。
- チームの価値観
- コミュニケーションのガイドライン
- 意思決定の基準とプロセス
- コンフリクトの解決プロセス
- 会議のガイドライン
- チーム合意
チーム憲章とはプロジェクト・チームの活動の方向性を定めた文書です。
プロジェクト憲章がプロジェクトの方向性を定め、記載されている内容の範囲でステークホルダーから権限を預かるのと同様に、チームの運用について定めるだけでなく、その範囲でのチームの指揮権をステークホルダーから預かる効力があります。
プロジェクト文書更新版
資源マネジメントの計画では、プロセスを進めていく上で、以下のようなプロジェクト文書の更新が必要になることがあります。
- 前提条件ログ
- リスク登録簿
前提条件ログとは、その名の通りプロジェクトの前提条件についてまとめられた文書です。
資源マネジメントの計画を考えていく上で、新たな前提条件が見つかったのであれば、これを前提条件に加え、更新します。
同様に、資源マネジメントの計画の中で新たなリスクが発見されたらリスク登録簿に加えます。
資源マネジメントの計画のインプット
資源マネジメントの計画では、以下のような文書・情報をもとに進めていきます[3]PMBOK第6版、314~315頁。。
- プロジェクト憲章
- プロジェクトマネジメント計画書
- 品質マネジメント計画書
- スコープ・ベースライン
- プロジェクト文書
- プロジェクト・スケジュール
- 要求事項文書
- リスク登録簿
- ステークホルダー登録簿
- 組織体の環境要因
- 組織文化と組織構造
- 施設や資源の地理的分布
- 既存資源のコンピテンシーおよび可用性
- 市場の状況
- 組織のプロセス資産
ここからは、これらの資料・情報から何を読み取っていけばよいのかを解説していきます。
資源が必要なアクティビティ・タスクは何か?
まずは資源マネジメントの計画を進めるために、今回のプロジェクトでどのようなアクティビティ・タスクがあるのかを確認し、必要な資源を確認していきます。
これらの情報を知るためにはプロジェクト憲章やスコープ・ベースライン、要求事項文書を確認していきます。
求められる資源の質(レベル)
必要な資源が判明したら、次に必要な資源の質(レベル)を考えていきます。
例えば、開発するソフトウェアの画面デザインが必要である場合、そのデザインは経験20年の大ベテランのデザイナーにお願いするのか、それとも新人でよいのか、はたまた市販されている汎用的なデザインでよいのかで価格が変わってきます。
このように、必要とされる資源の質も確認して計画を練る必要があります。
求められている資源の質を把握するためには品質マネジメント計画書を確認します。
資源が必要な期間
次に資源を必要とする期間を確認します。資源が必要とされる期間を確認するためにはプロジェクト・スケジュールを確認するのが最適です。
資源が必要とされる期間も、資源マネジメントの計画に影響を与えていきます。
例えば、同じ「デザイナー」という資源であっても、2、3日の作業で済む場合はアウトソーシングしたほうが安上がりで小回りが利くかもしれません。一方で、半年、1年という期間で必要なのであれば、社内のデザイナーの時間を確保したり、新規で採用したり、常駐できる派遣社員をお願いしたりする方がよいかもしれません。
このように、同じ資源でも必要とされる期間で資源の性質も変わってくるので、プロジェクト・スケジュールを確認し、どのような資源が必要かを把握する必要があります。
資源マネジメントに影響する要因
必要とされる資源、質、期間が把握できた後は、それらの資源をマネジメントする上で影響を与えてくる要因について分析し、コントロールする計画を立てていきます。
リスク登録簿を確認すると、今回のプロジェクトで予想されているリスクが確認できますし、組織体の環境要因を確認すると、組織内外で注意しなければならない事項が確認できます。
また、ステークホルダー登録簿から資源を確保するときに影響を受けるステークホルダーを確認しておくとよいでしょう。
例えば、Webサイトを構築する際、発注元の広報部と外注先のデザイン会社とでWebサイトを構築していたものの、最終段階となって発注元のサーバーにアップロードしようと思いきや、サーバーを管理している情報システム部に難色を示される……という話はよくあることです。
必要な資源が分かった場合、それが組織内部の資源であれば、資源を管理している人(ステークホルダー)に確認をとる必要があります。
利用できるノウハウはないか?
最後に組織のプロセス資産から資源マネジメントの計画を進めるために使えるノウハウがないかを確認します。
PMBOKでは以下のような組織のプロセス資産が紹介されています[4]PMBOK第6版、315頁。
- 人的資源の方針と手続き
- 物的資源マネジメントの方針と手続き
- 安全方針
- セキュリティ方針
- 資源マネジメント計画書テンプレート
- 類似プロジェクトの過去の情報
このように組織内に培われたノウハウや、過去の教訓から、資源マネジメントの計画を進める上で何か使えるものがないかをチェックします。
資源マネジメントの計画のツールと技法
資源マネジメントの計画では、以下のようなツールと技法が使われます[5]PMBOK第6版、315~318頁。。
- 専門家の判断
- データ表現
- 組織論の知識
- 会議
専門家の判断
資源マネジメントの計画を進める専門家には、以下のような事項の知識が求められます。
- 人材マネジメント
- 人材育成
- 工数の見積り
- 必要なリードタイムの見積り
- 資源を確実に入手するための納入業者・ロジスティックスの作業のマネジメント
このように、資源マネジメントの計画では、人・モノ・カネのマネジメントをしていくため、求められる知識が広範になります。
無理に一人の専門家の話を聞くことが難しければ、「人材マネジメントについてはこの人」「ロジスティックスの管理はあの人」というように、複数の専門家から話を聞くのもよいかもしれません。
データ表現
階層構造図
資源マネジメントの計画では、必要とされる人や組織、資源を視覚的に把握するための階層構造図や、RACIチャートなどの責任分担マトリックスが利用されます。
階層構造図は階層構造で図示していく手法です。プロジェクトに必要なアクティビティやタスクを図示した ワーク・ブレークダウン・ストラクチャー(以下、WBSと略記)は階層構造の1種です。
WBSのほかには組織構造を表す組織構造ブレークダウン・ストラクチャーや資源を種別構造に表した資源ブレークダウン・ストラクチャーなどがあります。
責任分担マトリックス
責任分担マトリックスでは、アクティビティやタスクの責任者とその種類をマトリックス状にまとめる手法です。
RACIチャートがその代表例であり、RACIチャートでは責任を “Responsible(実行責任)”、“Accountable(説明責任)”、“Consult(相談対応)”、“Inform(情報提供)” の4つに分け、チャート上でそれぞれの頭文字を記載するようにしています。
こうした文書を残しておくことによって、必要となる人的資源の確保を内外に示し、「そんな話きいていなかった」という理由で資源確保ができないトラブルを防ぐことができます。
RACIチャートについては、以下の記事もご参考にどうぞ。
組織論
PMBOKでは資源マネジメントの計画で使用するツールと技法に「組織論」という言葉が唐突に出現します。
これは「組織論の知識」と言い換えたほうが理解しやすいでしょう。
書店や図書館には組織論に関する様々な本が並んでいますが、こうした組織論の知識が資源マネジメントの計画を進める上では役に立つということをPMBOKは示しています。
会議
以上のツールや技法を用いながら、資源マネジメントを計画していくために会議も開いていきます。
とくに資源マネジメントの計画はさまざまなステークホルダーと議論を重ねる必要があるため、会議は重要なコミュニケーション・ツールだと言えるでしょう。