計画に「魂」を入れるための見積もり作業
PMBOK第8版の「資源マネジメントの計画」では、資源を管理するための全体的なルールやアプローチを決定します。
しかし、それだけではプロジェクトは動きません。「具体的に、いつ、どんなスキルを持った人が何人必要なのか?」「機材はいくつ必要なのか?」という具体的な数字を出さなければ、調達に動くことも、スケジュールを確定させることもできないからです。
PMBOKにおける「資源の見積り(Estimate Resources)」は、まさにその数字を弾き出すプロセスです。プロジェクトの活動を実行するために必要なチーム(人的)資源、および物理的・バーチャル資源のタイプ(種類)と数量を明らかにし、将来の資源不足や過剰をプロアクティブ(先見的)に調整可能にします。
今回は、PMBOK第8版で新たに追加されたAIなどのテクノロジー活用に触れつつ、実務において私たちがAIとどう向き合い、精度の高い見積もりを作っていくべきかを解説します[1]Project Management Institute『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)第8版』日本語版、第2部 … Continue reading。
資源を見積もるためのインプットとツール
まずは、PMBOK第8版の日本語公式版に準拠した本プロセスの構成要素(ITTO)を一覧で確認しておきましょう。
基本的には、前プロセスで作成した「資源マネジメント計画書」をガイドラインとして参照しながら、各タスクに必要な資源を洗い出していきます。
インプット(前提となる情報)
- プロジェクトマネジメント計画書(資源マネジメント計画書、スケジュール・マネジメント計画書、スコープ・ベースライン)
- プロジェクト文書(アクティビティ属性、アクティビティ・リスト[見積もり対象の最小作業単位]、前提条件ログ、コスト見積り、資源カレンダー[誰がいつ空いているか]、リスク登録簿、プロジェクト・スケジュール)
- 組織体の環境要因(EEF) / 組織のプロセス資産(OPA)
ツールと技法(見積もりを出すための手段)
- 伝統的な見積り技法:
- 専門家の判断
- 類推見積り(過去の類似プロジェクトを参考にする)
- パラメータ見積り(数式や統計を用いる)
- ボトムアップ見積り(WBSの最下位から積み上げる)
- データ分析(代替案分析:シニア1人か、中堅2人か等の比較)
- データ収集(インタビュー)
- プロジェクトマネジメント情報システム(PMIS)
- 会議
- 第8版で追加された先端テクノロジー群:(※後述)
- 人工知能(AI) / 予測分析 / バーチャル・リアリティ(VR) / 拡張現実(AR) / ブランチ・アンド・バウンド / 遺伝的アルゴリズム / 建設的コスト・モデル(COCOMO)
アウトプット(作成される成果物)
- 資源要求事項
- 見積りの根拠
- 資源ブレークダウン・ストラクチャー(RBS)
- プロジェクト文書更新版
第8版の注目点:AIと予測アルゴリズムの登場
今回のツールと技法の中で最も特筆すべき点は、AI(人工知能)や各種の高度なアルゴリズムの登場です。
- AIと予測分析: 過去のプロジェクトの大量のデータ(遅延パターンや実績工数など)を学習させ、人間では見落としがちな隠れた資源ニーズや、より精度の高い工数を見積もらせます。
- VR/AR: プラント建設やハードウェア開発において、仮想空間上で資材スペースや動線をシミュレーションし、必要な物理資源の数量を正確に割り出します。
- 最適化アルゴリズム(ブランチ・アンド・バウンド、遺伝的アルゴリズムなど): 「限られた資源を複数のプロジェクトにどう割り当てれば遅延を最小化できるか」という、人間が手作業で解くには複雑すぎる組み合わせ最適化問題を解くために活用されます。
実践の注意点:AIの「一般論」を鵜呑みにしない
このように、AIなどの最新テクノロジーは「何が必要か?」という洗い出しに非常に役立ってくれます。さらに最近の生成AIであれば、そのデータを加工し、プロジェクトメンバーに共有しやすいフォーマットにまで整えてくれます。
しかし、プロジェクトマネージャーとして絶対に忘れてはならない防衛線があります。それは、「AIが提案してくるのは、あくまで過去のデータに基づいた『一般的な最適解』にすぎない」ということです。
「一般的なWebサイト制作にはこのリソースが必要です」とAIが完璧なリストを出してきても、そのまま鵜呑みにしてはいけません。
「このプロジェクト特有のしがらみ(特殊な承認プロセスや、顧客側のITリテラシーの低さ)による工数増加を、AIは考慮できているか?」
「今回は新人のAさんがメインで担当するが、その熟練度の低さは反映されているか?」
AIの出した数字に対して、「このプロジェクト特有の問題に対しても、同様に言えるかどうか?」を必ず人間の目でしっかりと吟味し、補正をかけることが不可欠です。
主要な3大アウトプットの深掘り

AIの支援を受け、人間がしっかりと吟味した結果は、以下の3つの主要なアウトプットとして形に残します。これらは、その後の「資源の獲得」や「コスト(財務)の計算」を行うための極めて重要な資料となります。
資源要求事項
「この作業パッケージを実行するためには、どんなスキルを持った人が何人必要で、どんな機材がいくつ必要なのか」を、時間軸に沿って明確に定義したリストです。
見積りの根拠(Basis of estimates:BoE)
算出した見積もりが、「どのようなロジックや前提条件に基づいて導き出されたか」を示すエビデンス(証拠)です。
「AIを使って類推した」「許容範囲は±10%である」「この部分の見積もりに対する確信度はまだ低い」といった、数字の裏側にある不確実性や前提を記録しておきます。これにより、後から「なぜこの工数になったのか」を問われた際に論理的に説明できます。
資源ブレークダウン・ストラクチャー(RBS)
必要なすべての資源を、カテゴリー(人、資材、設備など)とタイプ(職種やスキルレベル)別に、上から下へとツリー状(階層的)に分かりやすく図示したものです。プロジェクト全体の資源の全体像を視覚的に整理できます。
まとめ:見積もりは「AIとPMの二人三脚」で
PMBOK第8版が示すように、資源の見積もりにおいてテクノロジーの力を借りることは、もはや業界のスタンダードになりつつあります。
人間がエクセルとにらめっこして数日かけていた計算や洗い出しを、AIは一瞬で終わらせてくれるでしょう。
しかし、そのプロジェクトに潜む「人間関係の泥臭さ」や「特有の空気感」までを読み取り、見積もりにバッファ(余裕)を持たせることができるのは、現場を知るプロジェクトマネージャーだけです。
AIを優秀なアシスタントとして最大限に活用しつつ、最後は自分の目でしっかりと吟味し、根拠のある強い見積もりを作り上げてください。
注
| ↑1 | Project Management Institute『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)第8版』日本語版、第2部 2.6.2.2「資源の見積り」(82ページ)、第4章(273〜275ページ)、第5章(280〜296ページ)より要約・引用。 |
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