PMBOK第8版のリスク・パフォーマンス領域のキーコンセプトを解説していきます[1]Project Management Institute『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)第8版』日本語版、第2部 … Continue reading。
リスク=「悪いこと」という誤解
「プロジェクトのリスクを洗い出してください」と言われると、多くの人が「スケジュールが遅れる」「予算が足りなくなる」「システムがダウンする」といったネガティブな事象ばかりを連想します。
しかし、PMBOKにおいて「リスク」とは、単にネガティブな問題だけを指す言葉ではありません。リスクの本来の意味は「振れ幅(不確実性)」のことです。
PMBOK第8版では、リスクを「発生するかどうかが不確かなイベントまたは状態であり、発生した場合にはプロジェクト目標にプラスまたはマイナスの影響を与えるもの」と定義しています。
マイナスの影響を与えるものは「脅威(Threat)」ですが、逆に「思ったより安く資材が手に入った」「新しい技術を使ったら開発スピードが上がった」といったプラスの振れ幅は「好機(Opportunity)」として扱われます。
プロジェクトにおいて「一か八か」は許されない
プラスの振れ幅(好機)があるなら、リスクを放置しておいても良いのではないかと思うかもしれません。しかし、プロジェクトマネジメントにおいて「一か八か」のギャンブルは最も忌み嫌われる状態です。
たとえば、「60%の確率で半額で調達できるが、40%の確率で2倍の値段になってしまう」という状況は、マネジメントできているとは言えません。私たちが目指すべきは、不確実性をコントロールし、「90%以上の確率で〇〇円で購入できる」というように、確固たる見通しが立っている状態を作ることです。
リスク・パフォーマンス領域とは、こうした不確かさや予期せぬ混乱を予測し、準備し、適応することで、プロジェクトの継続性と成功を確実なものにする(見通しを立てる)ための包括的なアプローチなのです。
リスクを捉えるための重要概念
PMBOK第8版では、リスクを効果的にマネジメントするための前提として、以下の概念を定義しています。
リスクと「課題(Issue)」の明確な違い
混同されがちですが、リスクは「将来起こりうる潜在的な問題(不確実性)」であるのに対し、課題は「すでに発生している(または発生している最中の)現在の状況」を指します。適切にマネジメントされなかったリスクが、現実の「課題」へと発展してしまいます。
全体リスク(Overall Risk)
個別のイベントだけでなく、すべての未知の要素を集計した「プロジェクト全体への不確かさの影響」のことです。この全体リスクが高すぎる(一か八かの要素が多すぎる)場合、組織はプロジェクトの中止を決断することもあります。
回復力(レジリエンス:Project Resilience)
発生確率が極めて低いが影響度が甚大な事象(ブラック・スワン・イベント)などから、迅速に回復し、プロジェクトを継続させる能力です。後述する「未知の未知」に対する最後の防衛線となります。
リスクの4分類と、洗い出しの極意

不確実性(私たちがそれについてどれくらい知っているか)に応じて、リスクは大きく以下の4つに分類されます。
- 既知の既知(事実と要求事項): 発生確率も影響も確定しているもの。これはリスクというより「スコープの一部」として通常管理されます。
- 既知の未知(従来型リスク): 確率や影響度を特定できる知識が存在する、古典的なリスクです。
- 未知の既知(隠れた事実): 業界内や外部のコミュニティには知識が存在しているが、自分たちのプロジェクト・チームには共有されていない状態です。
- 未知の未知(創発的リスク): 誰の評価範囲にも知識が存在しない、完全な未知の事象です。
「未知」を「既知」に変える対話の力
この4分類を見たとき、どうやっても予測がつかない「未知の未知」に対しては、事前の計画で完璧に対処することは不可能です(だからこそレジリエンスが重要になります)。
しかし、「既知の未知(存在は把握しているが詳細は分からない)」や、「未知の既知(私たちは知らないが外部の人間は知っている)」についてはどうでしょうか。
これらは、チーム内だけで悩んでいても解決しません。ステークホルダーや外部の専門家と積極的にブレインストーミングを行い、ヒアリングを重ねることで発見し、コントロール可能な状態へと引き上げることができます。
リスクの洗い出しとは、エクセルに向かって想像を膨らませることではなく、積極的に外部に話を聞きに行き、「未知」を「既知」に変えていく対話のプロセスなのです。
まとめ:見通しの良さが安心を生む
リスク・パフォーマンス領域は、怖がらせるためのものではありません。不確実という霧を晴らし、プロジェクトの道筋をクリアにするための活動です。
「悪いこと(脅威)」を未然に防ぎ、「良いこと(好機)」を確実なものにする。
自チームの知識だけで限界を感じたら、迷わず外部の知恵を借りてください。そうして不確実性を一つひとつ潰していく泥臭い作業の果てに、誰もが安心して進める「見通しの良いプロジェクト」が完成するはずです。
注
| ↑1 | Project Management Institute『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)第8版』日本語版、第2部 2.7.1「重要な概念(キーコンセプト)」(92〜94ページ)および 図2-46より要約・引用。 |
|---|

