コンティンジェンシー理論とは何か?誕生した背景や導入するメリット・デメリットを解説
コンティンジェンシー理論の概要
コンティンジェンシー理論とは、「どんな状況でも最高のパフォーマンスを発揮するリーダーシップは存在しない」という考えで、リーダーシップはリーダーがもつ能力に帰属するのではなく、環境の変化に応じて組織としての管理方法を柔軟に変化していくという理論です。
英単語の「contingency(コンティンジェンシー)」は、偶然性や偶発性、不確実性という意味を持っており、外部環境や状況によって望ましいリーダーシップのスタイルも異なるという考え方から生まれたリーダーシップ論です。組織のあり方を環境や状況に適合させる側面から「環境適合理論」や「状況適合理論」と呼ばれることもあります。
コンティンジェンシー理論が誕生した背景
コンティンジェンシー理論は、1964年にフィドラーによって提唱された概念です。
1940年代までは、リーダーには「生まれながらの資質」が求められており、優れたリーダーは共通した資質・特性を持っているという「リーダーシップ資質論」による考え方が中心となっていました。リーダー個人の資質として、身長や体格などの身体的特徴や知能、精神的特徴などが対象とされており、歴史上の偉大な人物を資質研究の対象として、特性・資質とリーダーシップとの相関関係の研究が進められています。
1960年代に入ると技術の発展や産業の高度化により組織内でのニーズが多様化します。生産プロセスも複雑化し、企業のグローバル化に伴い多様な経済、文化が浸透していく中で、従来の資質によるリーダーシップ論が通用しなくなりました。多様化の時代に対応するため、リーダーシップ論においても様々な異なる条件下での研究が行われるようになり、その中で生まれたのが「コンティンジェンシー理論」です。
フィドラーの「コンティンジェンシー・モデル」
フィドラーの「コンティンジェンシー・モデル」では、リーダーシップの有効性に関わる条件を「状況好意性」という概念で定義しており、「状況変数」として3つの要素を定義しています。
- リーダーが組織の他のメンバーに受け入れられる度合
リーダーが集団メンバーに支持され受容されているほど「状況好意性」が高い。 - 仕事、課題の明確さ
タスクの目標、手順、成果が明確で構造化されているほど「状況好意性」が高い。 - リーダーが部下をコントロールする権限の強さ
メンバーの採用、評価、昇進等に影響力があるほど「状況好意性」が高い。
これらの3つの要素がそれぞれ高い場合は状況好意性が高く、リーダーシップを発揮しやすい状況であり、低い場合はリーダーシップを発揮することが困難な状況とされています。
また、フィドラーは、リーダーシップを測る尺度として、LPC(Least Preferred Coworker)という指標を定めています。この指標は、リーダーの最も苦手な同僚に対する対応を表す指標であり、苦手な同僚を好意的に評価するリーダーを「高LPC」、苦手な同僚を避けようとするリーダーを「低LPC」と定義されたものであり、先ほどの3つの「状況変数」と組み合わせることで組織の業績を表します。
- 組織の業績=「LPC」×「状況変数」
この計算式によって導き出される数値が、リーダーが実際にあげることができる業績に直結する指標であると定義しています。
コンティンジェンシー理論のメリット
コンティンジェンシー理論は、企業の成長ステージに合わせて組織を柔軟に変化させていくため、様々なメリットがあります。
状況に応じて柔軟に対応できる
コンティンジェンシー理論を取り入れることで、組織は環境に柔軟に適応しスムーズに動くことができます。そのため、組織は現状維持に陥らず常に進化することができ、組織内での改革も進めやすくなります。
ヒエラルキーに左右されない
コンティンジェンシー理論は、環境に順応する組織が望ましいといった考え方となるため、組織内のヒエラルキーもなく、上下関係に依存しない組織作りを行うことができます。
ゼネラリストとしての力が身につく
状況の変化に常に対応していく必要があるため、状況によって取るべき行動や必要な知識、考え方を変えていく必要があります。リーダーにはゼネラリストとしての力が付きやすくなり、対人関係能力においても向上することが見込めます。
コンティンジェンシー理論のデメリット
様々なメリットがあるコンティンジェンシー理論ですが、柔軟性を重視するが故のデメリットもあります。
環境への適合が難しい
コンティンジェンシー理論では、一定の環境下で有効なリーダーや組織のあり方を追求する「状態」に着目した理論となるため「変化」に着目はしません。そのため、急速に進む環境の変化に対して、組織が変化していかないといけないことは分かりますが、どのように組織を新しい環境に適応させるかまではすぐに答えを出すことはできません。定着させるにはそれなりの時間を要することもあります。
組織のコントロールが難しい
周囲の変化に合わせて絶えず組織構造を変革する必要があるため、組織のコントロールが難しくなります。現状把握の見極めに誤りがあった場合、組織が誤った方向に進む可能性もでてきます。そのため組織を主導する側にも組織をコントロールするための力が必要です。
組織にノウハウが蓄積されにくい
リーダーシップのあり方を環境に合わせて模索していくため、これまでのやり方を大きく変えていく必要もでてきます。そのため、組織にノウハウが蓄積されにくく状況に合わせた柔軟な思考が求められます。
コンティンジェンシー理論を活用するためには
コンティンジェンシー理論を活用していくためには、リーダーがグローバル化に対応するとともに人材の確保も必要不可欠です。また、柔軟な組織作りも求められるため、社内環境を整えていく必要もあります。
グローバル化に対応する
急速に進むグローバル化や技術革新と、現代の社会情勢は目まぐるしく変化しています。これらの変化に対応できるリーダーの存在が求められ、世界で活躍するためには「異文化を理解する能力」「異文化コミュニケーションにより影響を与える能力」を備えたリーダーが必要です。
社内環境を整える
企業を取り巻く環境の変化によって、社内にも様々な影響が生じます。多様な就労ニーズへの対応やグローバル化に備えた海外人事の強化等、社会の変化に合わせて組織のあり方を変えていく必要があります。
柔軟な組織を作る
組織を硬直化させず新しいアイデアを取り込むには、リーダーを立候補制にしたタスクベースでメンバーを入れ替えるのも一つの方法です。柔軟な組織作りによって社内が活性化することで生産性の向上に繋げることができるようになります。
多様な人材を受け入れる
国籍や年齢、性別や障害の有無などにとらわれない多様な人材の登用も求められます。多様な人材を活用する環境が整えば新しい価値の創造や生産性の向上が期待でき、企業としての競争力も高めることができます。
コンティンジェンシー理論の導入を見極める3つのポイント
コンティンジェンシー理論を活用していくために「業務の難易度」「変化率の大きさ」「組織の構造」の3つの指標を活用してリーダーシップのあり方を決めていきます。
業務の難易度
リーダーシップには先陣を切って牽引していくイメージがありますが、仕事の難易度によってあり方も変化します。判断が必要な複雑な業務では、担当者にある程度の権限を用意した方が成果を見込めることもあり、業務の難易度によってどのように取り纏めるかが重要です。
変化率の大きさ
リーダーシップのあり方も状況によって変化することとなるため、環境の変化が激しい場合はその状況に対応するためのリーダー像が求められます。変化率の大きい組織では、報告を受けて組織の方針や意見をまとめるようなリーダーではなく、業務に参加しつつ組織を牽引していくような人材が求められます。
組織の構造
業務の難易度と関連性が深いものとなりますが、運輸部門といった生産部の主導を行うような部門では、安定的かつ同質的な組織作りが求められることから権限を集中させるべきとされています。そして、そのような構造を持つ組織では、リーダーの役割を明確にしておく必要があり、生じた問題をリーダーが汲み取り、判断していくような仕組みが望ましいとされています。