シックスシグマとは何か?品質管理の手法をやさしく解説
今回は『シックスシグマ・ウエイ―全社的経営革新の全ノウハウ』の概要をご紹介いたします[1]ピーター・S. パンディ、ローランド・R. カバナー、 ロバート・P. ノイマン『シックスシグマ・ウエイ―全社的経営革新の全ノウハウ』( … Continue reading。
シックスシグマの概要
シックスシグマ(Six Sigma)は、1980年代に米モトローラが開発した「品質管理のためのフレームワーク」であり、顧客満足の向上を目的に、製品やサービスのばらつきを抑えるための業務プロセス改善に使われます。
主に製造業が中心ではありますが、製造業の製造部門に留まらず、営業や企画部門といった間接業務への適用、更にはサービス業などの非製造業への適用も多くあります。
業務プロセスを改善し、製品やサービスの品質のばらつきを抑えるために、統計学を用いた定量的な分析を行いながら進めていくのが特徴で、顧客の声を起点として経営層からのトップダウンで進めていきます。
シックスシグマは「6シグマ」にも置き換えられ、100万回のオペレーションのうち、欠陥が起こる可能性が3.4回以内(99.99966%)であることを示します。
99.99966%がどのようなものであるかを身近な例で例えると以下のようになります。
[電気]
- 99.0%の場合
毎日どこかで15分程停電が起こる - 99.99966%の場合
7か月のうち、どこかで1分程停電が起こる
[電化製品](毎日1本、録画予約を行う)
- 99.0%の場合
3、4か月に1回、録画が行われないときがある - 99.99966%の場合
約8年に1回、録画が行われないときがある
たとえば、配達の信頼性が99%の宅配業者があったとします。
この業者は99%の確率で時間通りに誤配送なく荷物を行います。
この業者が30万件の配達をした場合、29万7,000件は適切に荷物が届けられますが、3,000件は誤配送をしたり、時間通りに配達できなかったりします。
しかし、シックスシグマが達成された宅配業者であれば、30万件の配達をしてようやく1件のミスがある程度に留まります。
製品やサービスを提供している立場からすると、ミスを30万件に1件にまで減少させるというのはとても高い目標に感じられます。
しかし、製品やサービスの利用者はその30万件に1件のミスにより大きな不利益を受けることもあります。
利用者の立場になって考えると、99.99966%という目標は高いハードルではあるものの、実現しなければならない水準であるといえます。
シックスシグマの背景と歴史
シックスシグマが提唱された背景として、アメリカのモトローラは日本の製造業で活発に行われている「QCサークル活動」を参考にしたといわれています。
ボトムアップかつ、各個人の経験と勘で進められていた日本のQCサークル活動を参考に、トップダウンかつ、統計学を基にした定量的評価を中心とした手法として開発されました。米モトローラで考案されたシックスシグマでは、ゼネラル・エレクトリック(GE)で伝説の経営者と呼ばれたジャック・ウェルチの推進により経営全体のプロセス改革に適用して発展され、1990年代後半には日本の数々の企業にて導入、改良が行われています。
QCサークル活動とは
ここでQCサークル活動についてみてみましょう。
企業内で自発的に行われる活動の総称のことで、PDCAサイクルを軸に組織全体や製造現場における品質管理上の問題点を洗い出し、継続的に生産性の向上を行う活動を指します。安全性を確保しながら生産性を高められる方法として、主に日本の製造業にて日常的に行われていた活動を体系化したものともいわれています。
シックスシグマの特徴
シックスシグマの特徴として「汎用性」「データドリブン」「人材育成」の3点が挙げられます。
汎用性
製造業だけではなく、様々な業種で活用することができます。
シックスシグマは、見つけ出した根本原因についてそれぞれの手順の中で個別に解決策を検討する進め方となり、企業それぞれの業務上の課題を論理的かつ定量的なプロセスを踏むことで解決することから業種や規模の大小問わず、汎用的に導入・活用を行うことが可能です。
データドリブン
シックスシグマを活用した改善プロセスの導入にて、最も重要視されるのが「客観的なデータ」となります。
客観的なデータを活用することで、本当の課題とその根本原因を探り出し、対策の効果も客観的、定量的に評価していくことがシックスシグマの考え方となります。
このため、「影響力の大きなメンバーの意見に左右されて誤った対応をした」などの誰かの主観を重視してしまうことや、事前の解決策ありきで進めてしまうことによる失敗を防ぐことができます。
また、データドリブンにより「事実」や「合理性」に基づいた検討が行われていくことから、多くのステークホルダーがいる中でも合意形成を実現しやすくなる利点もあります。
人材育成
シックスシグマによる業務改善プロセスを経験させることで、自社のリーダーシップ開発や、業務意識の向上を図ることができます。
客観的なデータを基に優先順位を決定するなど、経営者観点として身に付けておかなければならないスキルについて、プロジェクトを通して取得できるようになります。
また、シックスシグマは、プロセスを重視した方法論であることから、個人の発想力といった要素に左右されることがなく、検討されたプロセスは社内の誰もが使えるノウハウとして共有、蓄積されやすいという利点もあります。
シックスシグマの5つのプロセス
PDCAならぬDMAICモデル
シックスシグマではプロジェクト活動サイクルとして既存プロセスの改善となる「DMAIC(ディーマイク)」を用います。
改善活動のサイクルとしてはPDCAが有名です。
PDCAはPlan(計画)、Do(実施)、Check(見直し)、Act(改善)を繰り返す改善手法です。
このPDCAに対し、シックスシグマのDMAICモデルではDefine(定義)、Measure(測定)、Analyze(分析)、Improve(改善)、Control(管理)を繰り返します。
これら5つの活動の頭文字をとり、「DMAIC」と名付けられました。
- Define(定義)
- Measure(測定)
- Analyze(分析)
- Improve(改善)
- Control(管理)
DMAICの対象になるのは仕事のプロセス(工程)です。
よくシックスシグマの例に挙げられる「朝ご飯をつくる」「会社に来る」という行為だけでも、実はさまざまなプロセスを経てなりたっているもので、これが会社の業務になればそのプロセスは何倍・何十倍にも増加します。
シックスシグマでは業務のプロセスは何かを見直し、問題の特定・目標の設定を行い(定義)、実際の状況を検証します(分析)。
その後、問題を分析し(分析)、テストや解決策の標準化を行い改善していきます(改善)。そして、問題が解決されたのであればパフォーマンスを維持していき、まだ問題が見られるのであればさらなる改善活動を続けていきます(管理)。
ここからは、DMAICの構成要素をさらに解説していきます。
Define(定義)
Define(定義)では、改善すべき課題の抽出を行っていきます。
顧客の声(VOC)を起点とし、顧客が不満を感じている点を製品やサービスの欠陥として定義し、具体的な数値目標を設定します。
また、課題の重要性やゴール、期限の明確化等によりプロジェクトメンバーのベクトルを合わせることで、取り組みに対するモチベーションを高める効果も期待できます。
Measure(測定)
Measure(測定)では、現状の正確な把握を行っていきます。
思い込みや主観による実際の状況と異なるケースでの把握とならないように、主観を排除して客観的な判断を行うための十分なデータ収集に努めるとともに、現状の業務プロセスを「見える化」することで本質的な問題を抽出していきます。
Analyze(分析)
Analyze(分析)では、問題に対する根本的な原因を特定していきます。
Measure(測定)にて抽出したデータを統計的に分析し、問題がなぜ起きているかを明らかにしていきます。
分析にはMSA(Measurement System Analysis)、SPC(Statistical Process Control)といった手法が使われることが多く、ツールを活用しながら問題と要因を特定していきます。
Improve(改善)
Improve(改善)では、問題の根本的な原因を特定した後に改善策の検討を行います。
複数の案を出していき、Measure(測定)やAnalyze(分析)で得られたデータや分析結果を基に、どの案が優れているかを検討します。また、改善案を取り入れたプロセスを試験的に導入し、その効果を検証することで、本当に問題が解決できるのかを確かめます。
Control(管理)
最後のControl(管理)では、改善したプロセスの効果を継続していくための管理を行います。
定期的に指標を測定し、測定結果が基準値を下回った場合に改善を行っていくといった管理プロセスを導入し、Define(定義)で課題としていたことが解決できたか確認します。
プロジェクトが解散した後も、実際にそのプロセスを行っている業務チームに引継ぎ、継続的に測定、課題が多くなれば再びDMAICを行い業務の改善に努めます。
改善を楽しくするブラックベルト制度
以上がシックスシグマの概要です。
ここまでの話であれば、『シックスシグマ・ウエイ』の冒頭にも書かれている総合的品質管理(Total Quality Manegement、TQM)などの改善活動と大きく変わるアイデアとも思えません。
このシックスシグマと他の改善手法との最大の相違点は「ブラックベルト制度」の存在です。
このブラックベルト制度では、シックスシグマに携わるメンバーの中で「スポンサー」、「グリーン・ベルト」、「マスター・ブラック・ベルト」、「チャンピオン」などの階級を設け、改善活動の運用・補助を行います。
そして、ブラックベルト制度では「スポンサーからグリーン・ベルトになるにはどうすればよいのか」「マスター・ブラック・ベルト」になるにはどのような活躍をすればよいか」が開示されます。
ブラックベルトの制度は一見改善活動に何の関係もないように思えますが、特定の役割を任されるというロールプレイングや、より高い階級の役割を担いたいという目標が改善活動を楽しくさせ、長期にわたる運用を可能にしているのだと考えられます。
シックスシグマとは、上手く改善活動をゲーム化できた制度であり、ゲーミフィケーションの理想の形であるといえるでしょう。
ゲーミフィケーションについては、下記の記事もご参照ください。
シックスシグマの関連ワード
シックスシグマを実践するにあたり、重要となる関連キーワードを紹介します。
VOC(Voice Of the Customer)
「顧客の声(VOC)」のことです。シックスシグマで最も重要視するべきものとなり、顧客の声を基準として課題の定義、改善プロセスを進めていきます。
VOCについては下記の記事もご参照ください。
CTQ(Critical To Quality)
CTRとは、顧客の声(VOC)を分析した結果として導かれる、自社の経営成果に大きな影響を及ぼす要因のことです。
会社の業績に悪影響を与えているCTRを改善することで、経営の改善をすることができます。
リーン・シックスシグマ
リーン・シックスシグマ(Lean Six Sigma;LSS)は、ムダとムラを排除して業務の効率化を図る手法のことです。
米国マサチューセッツ工科大学の研究者が、日本のトヨタ自動車の「トヨタ生産方式(かんばん方式)」を基に 開発した「リーン(Lean)生産方式」と、今回紹介した「シックスシグマ」を組み合わせた定量的なプロセス改善、品質改善の世界標準手法です。
リーン・シックスシグマについては下記の記事もご参照ください。
参考
文献
- ピーター・S・パンディ、ロバート・P・ノイマン、ローランド・R・カバナー『シックスシグマ・ウエイ―全社的経営革新の全ノウハウ』日本経済新聞出版、2000年。
Webページ
- シックス・シグマとは | 統計学に基づいた品質管理法を解説! | Beyond(ビヨンド)
- シックスシグマとは何か? 事例や図解で解説する、GEらを成功に導いた経営手法の基礎 |ビジネス+IT
- 例題で理解する「そもそもシックスシグマって何だっけ?」:シックスシグマの落とし穴(1)(1/5 ページ) – MONOist
注
↑1 | ピーター・S. パンディ、ローランド・R. カバナー、 ロバート・P. ノイマン『シックスシグマ・ウエイ―全社的経営革新の全ノウハウ』( 高井紳二・大川修二訳 )日本経済新聞社 、2000年。以下『シックスシグマ・ウエイ』と略記。 |
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