社員研修や新人教育にも使えるロールプレイングの手法

2018年6月9日

ロールプレイングを用いた教育法

ロールプレイングと言われれば、今はドラゴンクエストやファイナルファンタジーなどのロールプレイングゲーム(RPG)が頭に浮かぶかもしれません。

ロールは"ROLE"、つまり「役割」を意味し、プレイングは「演じる」という"PLAYING"であることから、ロールプレイングは「役割を演じる」という風に訳されます。
つまり、RPGは勇者や魔法使いなどの役割を演じて遊ぶゲームです。

このロールプレイングですが、遊びだけでなく、教育にも取り入れられることがあります。
今回はロールプレイングをビジネスの研修や教育に用いる方法を見ていきましょう。

ロールプレイングによる教育・研修では何をするか?

スタッフ役とお客さん役に分かれて日ごろの業務を再現してみる

ロールプレイングによる教育・研修はコールセンターの電話対応、飲食店の接客対応、営業員のセールス活動の訓練にまで幅広く用いることができます。
ロールプレイングをするといっても、難しいことをするわけではありません。ビジネスにおいては、スタッフ役とお客さん役に分かれて日ごろの業務を再現してみるのがよいでしょう。

新しい業務をロールプレイングで理解する

たとえば、新しくコールセンターの仕事をすることになったとしましょう。コールセンターを設けている企業であれば、お客様との受け答えはマニュアルになっていることが多いです。
新人はそのマニュアルを読み、業務の概要を掴みますが、さすがにマニュアルだけで実際の仕事を理解することはできません。
そこで先輩スタッフにお客さん役を担当してもらい、新人が実際に電話の受け答えをしてみることで、より業務の理解を深めることができます。

ロールプレイングであれば基礎から応用までカバーできる

頭の中で分かっていても、いざ急に質問されると答えられないことも多くありますし、さらにはマニュアル外の質問をされることもあるでしょう。ロールプレイングの手法では基本から応用まで、実際の想定しながら練習を行うことが可能です。

ロールプレイングを用いるメリット

ここではロールプレイングの手法を用いるメリットを見ていきましょう。

ロールテイキングから自発性を育むロールプレイングへ

ロールプレイングは自発性を育む教育法だとされています。

学校であっても、通常の講義形式の教育では、生徒は一方的に講師から得た知識を詰め込んでいくことになります。
これはビジネスの場合でも同じです。

たとえば百貨店の販売員であれば「モノを売る」というのが仕事内容になります。多くの場合、新人スタッフがこの業務を遂行できるようになるために、先輩スタッフがレジの打ち方や品物の陳列の仕方を一方向の講義形式で教えていきます。

講義形式の教育は包括的な知識を得るには有効な方法ですが、任された仕事内容は把握できても、任された役割については十分に理解できないことがあります。

さらに、マニュアルを覚えるだけではただただ役割がもつタスクをこなすだけになってしまいます。これではロールプレイングならぬ、ロールテイキング(役割の受け入れ)になってしまいます。

そのため、業務内容をマニュアルに沿って教えるだけでなく、ロールプレイングの手法により「こうした場合はどうすることが販売員としての役割を果たせるだろうか?」を考えさせ、自発的な行動を促していくことが大切です。

業務の理解を深める

業務の理解を深めることもロールプレイングを取り入れるメリットです。

先ほどの百貨店の販売員の教育を例に挙げると、講義形式で接客マニュアルを学んでも、その理解度を知る場面が実際の仕事現場だけでは新人にとっては不安なものです。

さらに新人の業務の理解度が高くなかった場合には、お客様へ失礼な対応をしてしまい、最悪の場合はクレームにつながってしまう恐れがあります。

こうしたトラブルを防ぐためにも、ロールプレイングで習熟度を確かめ、実践の場に臨むことが肝心です。

新しい発見が得られる

ロールプレイングのメリットとして最後に挙げるのは、新しい発見が得られることです。

どのような業務マニュアルであっても、それを読んで実践するだけで完璧な仕事ができるようなものはありません。マニュアルに記載されていない不測の事態はいつだって起こる可能性はあります。
この不測の事態はロールプレイングでも再現することができます。ロールプレイングを行う際に、様々なシチュエーションを設定することで、訓練しているスタッフの応用力を試すことができます。
「通常あまり来店しない海外からのお客様が来たらどうするか?」など、設定を変えることで状況は千変万化し、様々な知見を得ることができます。

ロールプレイング中に新しい発見を得られることもあれば、実際の業務の中での疑問点を再現することでも今まで考え付かなかった知見を得られることもあります。
「この前、目の不自由なお客様が友人のプレゼントを買いに来られたけど、上手く対応できなかった」
ということがあれば、スタッフ間で共有し、ロールプレイングで試してみることで、有効な手立てが発見できるかもしれません。

どのようなテーマがロールプレイングに望ましいか

ロールプレイングをする場合はどのようなテーマを選べばよいのでしょうか。ここでは『教育の現場におけるロール・プレイングの手引き』をヒントに、適切なテーマの選び方を考えていきます[1]千葉ロール・プレイング研究会『教育の現場におけるロール・プレイングの手引』誠信書房、1981年、42~44頁。

スタッフの関心が高いもの

ロールプレイングのテーマに不可欠な要素としてまず挙げられるのは「関心の高さ」です。
ロールプレイングを行うスタッフが「このテーマは自分の業務に関係あるな」と思ってくれるようなものでなくてはなりません。

スタッフ間で共通の体験があるもの

せっかく練習するのですから、ロールプレイングのテーマも実践で役に立つようなものであることが望ましいです。スタッフ間で共通の体験があるものの方が、テーマの効果がすぐに現れ、ロールプレイングに取り組むスタッフの関心を高めることができます。

表現が容易なもの

これは上述の「共通性」にも通じることですが、表現が容易であることが大切です。
誰も体験したことがないようなシチュエーションはロールプレイングも難しく、何が有効な対応なのかも判断ができません。
そもそもこのロールプレイングが実際に役立つことが想像できなければスタッフの関心も低くなり、ロールプレイングによる訓練も実を結ばないでしょう。

習熟度・レベルにあわせたもの

業務の習熟度や、スタッフのレベルにあわせたテーマを選ぶ必要があります。
たとえば新人に対してはマニュアルがしっかりと身についているか確認するようなシチュエーションを想定したものが好ましいですし、ベテランスタッフに対しては応用を問われるテーマがよいでしょう。

まとめ

今回は教育や研修でロールプレイングの手法を用いる方法について見てきました。
これまで見てきたように、ロールプレイングは社員教育にとっても有効な手法だと言えます。
そのまま業務の内容を演じてみるだけでも面白いのですが、さらにゲーム性を高めるのであれば最近注目されているテーブルトークアールピージー(TRPG)なども参考になるかもしれません。

業務の目的から逸脱してはいけませんが、「今の営業トークでどれだけの売上になるか」「その接客は何点つけられるか」を考え、楽しみながらスタッフが訓練できるのがベストな姿と言えるでしょう。

1千葉ロール・プレイング研究会『教育の現場におけるロール・プレイングの手引』誠信書房、1981年、42~44頁。