任務戦術とは何か?アメリカ海兵隊で用いられている手法を解説

2022年4月13日

任務戦術の概要

任務戦術(mission tactics)とはアメリカの海兵隊で取り入れられている戦術の1つです。
組織の最下位に位置する兵隊であっても、戦場で必要と判断した場合、より上位の指揮官が下すような判断を行う権限が与えられるというものです。
「戦術」という言葉を使っていますが、戦い方というよりも、部隊の管理方法と言えるでしょう。

今回は野中郁次郎先生の『知的機動力の本質 – アメリカ海兵隊の組織論的研究』から、アメリカ海兵隊で用いられている任務戦術を解説いたします。

任務戦術が誕生した経緯

軍隊というものは多数の階層によって組織が成り立っています。
アメリカ海兵隊もその例に漏れず、多数の階層が積み重なっています。ここでアメリカ海兵隊の組織の構造を見ていきましょう。

組織指揮官
師団(division)中将
連隊(regiment)少将
大隊(battalion)大佐
中隊(company)大尉
小隊(platoon)少尉
分隊(squad)軍曹
班(Team)伍長

海兵隊には「三階層のルール」というものがあり、3人の二等兵を伍長が班としてまとめ、3つの班を軍曹が分隊としてまとめるという組織管理の手法を採っています。
最後の師団をまとめるのが師団長ですが、組織の最下位にいる二等兵から師団長までにはいくつもの層が積みあがっています。
しかし、実際の戦いの現場を知っているのは二等兵や彼らをまとめている伍長であり、現場の判断を師団長に任せていては班はたちまち壊滅してしまいます。
戦場につきものの不確実性、それに対応する早さを実現するために生み出されたのが「現場で判断できる権限を与える」という任務戦術でした。

任務戦術を会社に取り入れる方法

状況が千変万化し、素早い対応が求められるのは戦場だけにとどまりません。
例えばビジネスの現場においても、任務戦術のアイデアは有効です。
これからはあなたの会社やお店、事務所で任務戦術を取り入れる方法をご紹介していきます。

権限の委譲

任務戦術を取り入れる上で何よりも大切なことは「権限の委譲」を行うということです。
自分の部下や、組織階層の下位にいるスタッフ(例えばアルバイトのスタッフなど)に権限を与えるというのは組織としては勇気のいる決断です。
しかし、そこで足を止めてしまえば組織はいつまでたっても動きが遅くなってしまいます。

「目的」と「理由」を伝え、「方法」は任せる

権限を委譲したとしても、何から何まで任せるというわけではありません。
会社の経営戦略を台無しにするような行動を各自が採るようでは本末転倒です。
こうした事態を避けるために、任務戦術を取り入れる上で重要なのが、上司が部下に「目的」「理由」を十分に伝えることです。
つまり「何をするのか」「どうしてそれをするのか」ということを上司が部下に伝えることで、組織全体の目標の中で、部下がどのような立場にいて、どのような役割を期待されているのかを明確にしていきます。
その中で「どうしていくのか」を任せることで、組織に機動力を持たせつつ、目標から逸脱した行動をしないように抑制します。

失敗は学習と考える

階層の下位に位置するスタッフは、一般的に彼らの上司よりも経験的にも知識的にも劣っていることがほとんどです。そんな彼らが下す判断は軽率な行動や蛮勇とも言える無謀な行いにつながることも少なくないでしょう。
上司は彼らの行動が上手くいくようにサポートしなければなりませんが、より大切なことは、仕事を任せたスタッフが失敗してしまった時であっても「学習の機会を得た」と寛大に考え、決して処罰しないことです。
失敗をしたのであれば、そこから得た知見を次に活かし、彼らの判断力を磨いていきます。
失敗した人を処罰したり、失敗について罰則規定を設けたりしてしまうと、自らの判断で果敢に挑戦するスタッフはいなくなってしまい、組織の機動性は失われてしまいます。

任務戦術のメリット

任務戦術はもともと組織に機動力を持たせるための手法ですが、機動力以外にも様々なメリットがあると考えられます。
最後に任務戦術がもたらすメリットを考えていきましょう。

機動力

任務戦術の何よりのメリットは機動力です。
どんなスタッフでも現場の判断が行えることで、状況に応じた対策を講じることができます。

モチベーションの向上

次にスタッフのモチベーションの向上が予想されます。
ハーズバーグの2要因理論にあるように、スタッフのモチベーションを高める動機づけの方法として「職務充実」という手法があります。
責任や権限の範囲を拡大させることで、「仕事のやりがい」「達成感」をもたらし、モチベーションを高めるというものです。
任務戦術も職務充実と同様に、スタッフに「仕事のやりがい」や「達成感」を感じさせるものになるでしょう。

職務充実について詳しくはこちらのブログ記事もご覧ください。

スタッフの育成

任務戦術はスタッフの育成にもつながります。
スタッフが自ら考えて行動することで、判断力が育成されます。また、失敗しても罰しないという風土を作ることにより、失敗が経験として蓄積されます。

参考文献

  • 野中郁次郎『知的機動力の本質 – アメリカ海兵隊の組織論的研究』中央公論新社、2017年