【LeanとDevOpsの科学】バーンアウトを防ぐには?精神論ではなく「仕組み」で心を守る方法

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SSAITS代表・山脇弘成

山脇 弘成(SSAITS(サイツ)代表)

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大手メディアや官公庁のWebプロジェクト実績多数。
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「ブラックな働き方」は日本特有の問題ではない?

「バーンアウト」と聞くと、いわゆる「燃え尽き症候群」として、完璧主義の人が突然やる気を失ってしまうような個人のメンタルの問題を想像するかもしれません。
しかし、IT業界の文脈において、バーンアウトとは過酷な労働環境や過度なストレスによる「心身の深刻な不調」を指します。

長時間労働や、休日の呼び出しに怯えるようなブラックな働き方は、長らく日本特有の企業風土の問題だと思っていました。しかし、名著『LeanとDevOpsの科学』を読むと、海外のIT先進企業においてもこのバーンアウトによるエンジニアの病気、離職、生産性の低下が非常に深刻な問題として捉えられていることがわかります。

今回は、本書のデータをもとに、バーンアウトの正体と、場当たり的なモチベーション管理に頼らない「根本的な解決策」について解説します[1] … Continue reading。

LeanとDevOpsの科学

バーンアウトの「3つの症状」

本書の調査では、エンジニアがバーンアウトに陥っているかどうかを測定するために、以下の3つの症状を指標としています。

  1. 疲労困憊(ひろうこんぱい): 身体的にも精神的にもエネルギーが完全に枯渇し、朝起きるのすら辛い状態。
  2. 仕事に対する無関心・冷笑感・無力感: 「自分はもう役に立たない」「どうせ自分が何を言っても何も変わらない」と、仕事に対して投げやりになる状態(シニシズム)。
  3. 私生活への悪影響: 仕事のストレスや、休日の突発的な障害対応(オンコール)の恐怖が、家庭やプライベートの時間にまで侵食し、リラックスできない状態。

もしあなたのチームに、「最近、急に投げやりな発言が増えた」「休日にしっかり休めていないようだ」というメンバーがいるなら、それはバーンアウトの危険信号かもしれません。

バーンアウトを引き起こす「6つの危険因子」

では、なぜ人はバーンアウトしてしまうのでしょうか。
本書では、社会心理学者クリスティーナ・マスラック氏らの研究を引用し、職場環境における「6つの危険因子」を挙げています。

  1. 過重労働: 作業量が、人間の限界を超えている。
  2. 自律性の欠如: 自分の仕事の進め方に対して、発言権や主導権がない。
  3. 不十分な報酬: 経済的な見返りだけでなく、社会的な承認や「よくやった」という労いが得られない。
  4. 人間関係の断絶: 職場で精神的な支えや、困ったときの助け合いが得られない。
  5. 公平性の欠如: 評価や意思決定のプロセスが不透明で、「なぜあいつが評価されるのか」という不公平感がある。
  6. 価値観のズレ: 個人が大切にしている価値観と、組織の「本音」が一致していない。

解決策:精神論ではなく「仕組み」を変える

解決策:精神論ではなく「仕組み」を変える

さて、ここからが本書の最も面白いところです。

従来の日本のマネジメントでは、メンバーが不調を訴えたりモチベーションが下がったりすると、「飲みニケーションで愚痴を聞く」「面談で励ます」「ストレス耐性をつけるための研修に行かせる」といった、個人の心にアプローチする場当たり的な対応が横行しがちでした。

しかし、マスラック氏の研究も本書の結論も、「個人のストレス耐性を鍛えるのではなく、作業環境(組織側の仕組み)を是正するほうが、はるかに成功確率が高い」と明確に指摘しています。

技術的プラクティスが心を救う

その最たる例が、以前の記事でも紹介した「継続的デリバリ」などの技術的な仕組みの導入です。

手作業による不確実なリリース(公開作業)を自動化し、作業を小分けにし、安全にデプロイできる環境を整える。これにより、金曜夜の徹夜作業や休日出勤がなくなり、デプロイ関連の過度なプレッシャーが消滅します。
本書の統計分析では、これらの技術的プラクティスを実践することで、バーンアウトの症状が劇的に緩和することが科学的に立証されています。

「技術的な仕組み(デプロイの自動化など)を改善することが、結果的にエンジニアの心を救う」というアプローチは、精神論に頼りがちな私たちに大きなハッとさせられる気づきを与えてくれます。

管理者に求められる「支援的な環境」づくり

もちろん、技術的な仕組みの導入と並行して、チーム内の空気を良くする(人間関係の断絶や公平性の欠如を防ぐ)ためのマネジメントも不可欠です。
本書では、管理者が取り組むべき支援的な環境づくりとして、以下を挙げています。

  • 失敗した担当者を責めるのではなく、「失敗からの学び」を重視する。
  • 作業の妨げとなっている障害やボトルネックを現場から聞き出し、取り除く。
  • 実験や学習、技術的負債を返済するための「時間とリソース」を確保する。

これらは、チーム内に「心理的安全性」を構築するアプローチそのものです。心理的安全性の具体的な作り方については、以下の記事でも詳しく解説していますので、ぜひあわせて参考にしてみてください。

まとめ:仕組みへの投資は、人間への投資

バーンアウトは、個人の弱さが原因ではありません。過酷な労働環境、裁量のなさ、そして古くて負担の大きい開発プロセスが引き起こす「組織の病」です。

メンバーのモチベーションが下がったとき、言葉で励ますことも大切ですが、それ以上に「彼らを苦しめている無駄な手作業や、心理的プレッシャーを生むプロセスを、どうすれば仕組みで解決できるか?」を考えることこそが、プロジェクトマネージャーの真の役割です。

優れた技術やツールへの投資は、単にシステムを良くするだけでなく、共に働く仲間たちの心と人生を守るための「極めて強力な人道的投資」である。この事実を、ぜひプロジェクト運営の羅針盤にしてみてください。

注

注
↑1 ニコル・フォズグレン、ジェズ・ハンブル、ジーン・キム(著)、武舎広幸、武舎るみ(訳)『LeanとDevOpsの科学』インプレス、2018年、108頁、114頁~119頁より
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