【LeanとDevOpsの科学】eNPSとは?職場の健全性を測る「究極の1問」と踏み絵の罠

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山脇 弘成(SSAITS(サイツ)代表)

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職場の環境を測る「究極の1問」

「あなたは自分の職場(またはチーム)を、友人や知人に働く場所としてお薦めしたいですか?」

もし今、あなたがこんなアンケートを渡されたら、素直にどう答えるでしょうか。
実はこのたった一つの問いに、その組織の環境やチームの空気がすべて詰まっています。自分が所属している組織が本当に素晴らしいと感じていれば、迷わず大切な友人にも勧めたいと思うでしょうし、不満や疲弊感を抱えていれば「絶対に来ない方がいい」と止めるはずです。

名著『LeanとDevOpsの科学』では、この問いを用いた「eNPS(従業員ネットプロモータースコア)」という指標が、組織が持続的に高いパフォーマンスを出し続けられるかを占う、極めて強力な先行指標であると科学的に証明しています[1] … Continue reading

今回は、eNPSの基本概念とその驚くべき効果、そして実務でこの指標を扱う際にプロジェクトマネージャーが絶対に気をつけるべき「踏み絵の罠」について解説します。

LeanとDevOpsの科学

eNPS(従業員ネットプロモータースコア)とは?

eNPS(Employee Net Promoter Score)とは、もともとマーケティングの分野で「顧客がその商品やサービスを他人に薦めたいか(顧客ロイヤルティ)」を測るために使われていた「NPS」という指標を、従業員向けに応用したものです。

前述した「自分の職場をお薦めしたいか?」という質問に対し、0〜10点の11段階などで評価してもらい、その数値を集計して組織の健全性や従業員の帰属意識を測定します。

ハイパフォーマー組織における「圧倒的な高さ」

『LeanとDevOpsの科学』の統計分析では、ハイパフォーマー(高い業績を出す)組織の従業員が、自分の組織を「すばらしい職場」として他人に推奨する確率は、ローパフォーマー組織の2.2倍にのぼりました。チーム単体で見ても、推奨する確率は1.8倍高くなっています。

eNPSが高い組織ほど、ソフトウェアデリバリの成果(スピードや安定性)が良いだけでなく、収益性、生産性、市場占有率といった組織全体のパフォーマンスも明確に高くなることが実証されています。

eNPSを劇的に高める「4つの要因」

では、どうすれば従業員が「誇りを持って自社をお薦めできる状態」になるのでしょうか。本書では、以下の要素が強く関係していると指摘しています。

  1. 変革型リーダーシップ: リーダーが明確なビジョンを示し、メンバーを知的に刺激し、支援・評価していること。
  2. 全体プロセスの可視化: アイデア出しから顧客へ価値が届くまでの全工程(業務フロー)を、チーム全体が俯瞰して把握できていること。
  3. 組織の価値観への共感と貢献意識: 会社の目指すゴールに共感し、「自分の仕事が確実に組織の成功に貢献している」と実感できていること。
  4. 継続的デリバリ(CD)の実践: デプロイの自動化などにより、無駄な手作業や休日の障害対応といった「過度な負荷(バーンアウトの原因)」が軽減されていること。

「踏み絵」になっていないか?という現場のリアル

「踏み絵」になっていないか?という現場のリアル

さて、ここまでeNPSの理論的な素晴らしさを見てきましたが、現場で実際にこのアンケートを実施するとなると、私にはある一つの危惧があります。

それは、日本の企業文化において、「この質問が『踏み絵(忠誠心を測るテスト)』として使われかねない」という懸念です。

「低い点数をつけたら、人事に目をつけられるのではないか」
「チームの評価を下げるわけにはいかないから、本心とは違うけれど高い点数をつけておこう」

もし従業員がこのように忖度し、防衛本能から嘘の回答をしてしまうとしたら、eNPSのデータはまったく無価値になります。

まとめ:素直に「低い点数」をつけられる組織の強さ

「自分の職場を友人に勧めたいか?」という極めてセンシティブで核心を突く質問に対して、従業員が「いいえ(勧められません)」と恐れることなく素直に回答できるかどうか。
実はこの「素直に答えられる」ということ自体が、その組織の心理的安全性の高さを証明しています。

不満や問題点があるときに、それを隠さずに声を上げられる環境(心理的安全性)があって初めて、私たちは根本的なプロセスの改善や仕組みの是正に取り組むことができます。

eNPSは、単なる「社員のご機嫌取りのアンケート」ではありません。
もしあなたのチームでこの手のアンケートを実施するなら、点数の高低に一喜一憂するのではなく、まずは「メンバーが本音で答えられる空気(心理的安全性)が作れているか?」を自問自答してみてください。
点数が低かったとしても、それを責めずに「どうすれば良くなるか」をチーム全員で話し合える土壌こそが、ハイパフォーマー組織への第一歩なのです。

1 ニコル・フォズグレン、ジェズ・ハンブル、ジーン・キム(著)、武舎広幸、武舎るみ(訳)『LeanとDevOpsの科学』インプレス、2018年、121頁~125頁、252頁より
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