「進捗はいかがですか」「だいたい8割くらいです」
このやりとりを何度も繰り返しているうちに、報告する側も聞く側も、だんだん気持ちが乗らなくなっていく。プロジェクトでよく見かける光景ではないでしょうか。
問題は、報告する人の意識の低さではありません。「だいたい8割」という言葉には、進んだ実感も、近づいている手応えも含まれていないことのほうです。
ゲームの面白さをプロジェクト運営に応用する「ゲーミフィケーション」において、最初の一歩は仕掛けを増やすことではなく、はかることにあります。
ポイントが貯まると嬉しくなる理由
私たちの身の回りは、ポイントであふれています。買い物のポイント、航空会社のマイル、アプリの連続ログイン記録。
「あと少しで1,000ポイントだから、もう一品買っておこう」「今日はポイントが5倍だから、あの店に行こう」。そんな衝動に駆られたことのある方は少なくないはずです。
ここで注目したいのは、動機がキャッシュバックだけではないことです。
ポイントの多くは、還元率にすれば数パーセント程度にすぎません。それでも人が集めたくなるのは、「50ポイントが付きました」「次はゴールド会員です」とアナウンスされるうちに、ポイントを貯めること自体が目的化していくからです。
得をするから集めるのではなく、増えていくのが見えるから集めたくなる。この「数値に一喜一憂する心の働き」こそが、ゲームの面白さの出発点です。
はかるだけで、ものごとはゲームになる

数値を競うというのは、最もシンプルなゲームのかたちです。
陸上競技はその典型でしょう。100メートル走も走り幅跳びも、突き詰めれば時間や距離という数値を比べているにすぎません。それでも人は0.1秒を削るために何年も練習を重ね、自己ベストを更新した瞬間の高揚を忘れられなくなります。
時間や距離をはかる。それだけで、ものごとはゲームになり、面白さが生まれます。
なぜでしょうか。はかることで、次の2つが同時に手に入るからです。
- 現在地 — 自分がいまどこにいるのか
- 差 — ゴールまであとどれくらいか
ゲームの3要素にあてはめるなら、これはフィードバックシステムそのものです。現在地とゴールの差が見えるからこそ、次の一手を選べる。逆に言えば、測られていない仕事は、進んでいるかどうかを本人すら確かめられない状態にあります。
「だいたい8割」に手応えがないのは、それが現在地でも差でもなく、感覚の表明にとどまっているからです。
プロジェクトでは、何をはかるとよいのか

では、プロジェクトで何をはかればよいのでしょうか。目的別に整理してみます。
- 残りの量を実感するために
バーンダウンチャート(残作業を日ごとにグラフ化したもの)は、この用途にもっとも向いています。線が下がっていく形そのものがゴールへの接近を表すため、説明がなくても状況が伝わります。 - 進み方のペースを知るために
1週間あたりのタスク消化数や、消化ポイント(ベロシティ)。数字そのものより、先週と比べてどうかを見ることに意味があります。 - 滞りを見つけるために
着手から完了までの日数(リードタイム)や、レビュー待ちの件数。これらが伸びているときは、人の頑張りではなくプロセスの詰まりを疑うサインになります。 - 品質の変化をつかむために
指摘件数や、再オープンしたチケットの数。件数の多寡を責める材料にしないことが前提ですが、傾向を追う分には有効です。
すべてを揃える必要はありません。まずは1つだけ選ぶほうが、確実に続きます。
数字は、見えるところに置いてはじめて効く
はかっていても、管理ツールの奥に眠っていては意味がありません。ポイントカードが機能しているのは、残高が常に目に入る場所にあるからです。
- 定例会議の冒頭で、必ず同じグラフを表示する
- チャットのチャンネルに、週次で自動投稿する
- オフィスがあるなら、印刷して壁に貼る
大がかりな仕組みは要りません。同じ数字を、同じ場所で、定期的に見る。それだけで、チームの中に共通の現在地が生まれます。
注意点:はかる対象を間違えると、逆に壊れる
ここは慎重にいきたいところです。測ることには副作用があります。
測りやすいものを測ると、測りやすい行動が増えます。タスクの完了件数だけを追えば、小さいタスクを選ぶ人が現れます。コード行数を追えば、冗長なコードが増えます。指標が目標になった瞬間、その指標は指標として使えなくなる、と言われるとおりです。
避けたい使い方を挙げておきます。
- 個人間の比較に使う — 担当領域が違えば数字は揃いません。助け合いを止めてしまう副作用のほうが大きくなります
- 数字を詰める材料にする — 一度そう使われると、以後は都合のよい数字しか上がってこなくなります
- 測ること自体が仕事になる — 入力に手間がかかる指標は続きません。自動で集まるものから選ぶのが無難です
測る目的は評価ではなく、チームが現在地を共有することです。この一点を外さなければ、大きな失敗にはなりません。
まずは、ひとつだけ
明日から始めるなら、手順はこれだけです。
- チームで気になっていることを1つ選ぶ(残作業、レビュー待ち、いずれでも)
- それを数えて、グラフか数字にする
- 定例の冒頭で毎回見る。数字が動いたら、それを話題にする
数字が下がった週があってもかまいません。下がったことが分かる状態になっているだけで、以前より前進しています。
モチベーションは、気合いで維持するものではなく、見える化の副産物として生まれてくるものです。まず1つ、はかるところから始めてみてください。

