希少性の原理とは何か?希少性を利用したマーケティング方法を紹介(『影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか』より)
希少性の原理とは
希少性の原理とは、あるものが手に入りにくいとわかると、それまでよりもその対象物を欲しくなる現象のことです。
もともと対象物にあまり興味がなかったとしても、需要が高まるなど手に入りにくい状況になることで、人々は対象物の価値を高く評価するようになります。
この希少性の原理は、日常のあらゆるタイミングで働きます。
本来なら価値が下がるようなものであっても、「手に入りにくい」という理由だけで、高価なものになる場合もあります。たとえば、印刷ミスのある切手がこれにあたります。上下が逆さに印刷された切手などは、本来であれば発行前に除かれてしまうため、流通することはありません。だからこそ、手に入る可能性が極めて低く、収集家の間では価値あるものとして高値で取引されるのです。
希少性を利用したマーケティング方法 4選
マーケティングでは、希少性は非常によく用いられます。次からもっともよく使われる手法4つを見ていきましょう。
数量限定
商品やサービスの数量を制限し、限られた数しか存在しないことを強調することで、顧客に希少性と独自性を感じさせます。これにより、需要を喚起し、購買意欲を高められます。
この手法では、さらに先着順にすることで、「早めに購入しなければ」と思わせることもできます。後ほど詳しく説明する「競争意識」を持たせることができるので、効果的です。
期間限定
次に、時間を制限する方法です。期間を区切ることで、「今しか買えない!」という希少性を感じさせます。これにはバリエーションがあり、この商品が安く買えるのは「何日の何時まで」などと期限を設定して、それ以降になるとこの金額では手に入らなくなると伝えるものもあります。テレフォンショッピングでも、この手法はよく使われています。「今買わないと損だ」と思わせて、すぐに購入の決断をさせる方法です。
限定デザイン
通常の商品とは異なる特別な色や、特別なデザインをつくり、限定品として売り出します。たとえば、限定の特別なカラーのスニーカーや、限定のパッケージデザインといった商品展開をして、通常とは異なることを強調することで、購買意欲をかきたてる手法です。また、ブランドイメージや認知度の向上も見込めます。
情報のコントロール
イメージしにくいかもしれませんが、情報も同じです。
「この情報は非公開です」と言われると、人はその情報を前よりも知りたくなります。検閲など情報への制限がかかると、その情報に価値があると感じられ、さらにその情報の内容を詳しく受け取っていないのにも関わらず、信用してしまうことがあります。
たとえば、ノース・キャロライナ大学では、キャンパス内で「女子学生寮建設に反対する演説が禁じられるかもしれない」という情報を知った人々が、女子学生寮の建設に反対するようになりました。それまでどちら側でもなかった人が、演説の内容を聞いたわけでもないのに、情報に検閲が入るかもしれないと思うことによって、演説に賛同する側になりました。
「会員限定コンテンツ」などは、この情報のコントロールを利用したマーケティング手法です。会員限定は、逆に言えば会員以外は、「その情報を受け取れない」ということです。情報制限をすることで、顧客の関心を得て、入会や限定コンテンツの購入を決断させます。
希少性を利用するポイント「競わせる」
ビジネスやマーケティングにおいて、希少性を利用するには「競わせる」ことがもっとも効果を発揮します。
クッキーの実験
希少性の原理が効果を発揮する条件に関して、社会心理学者のステファン・ウォーチェルらの実験があります。
このクッキーの実験については、下記の記事で詳しく解説していますので、こちらをご覧ください。
「競わせる」具体例
スーパーや百貨店でのタイムセールやバーゲン
セールやバーゲンでは、人々がワゴンに群がっている光景がよく見られます。これは少ないものを求めて、競争しているという感覚を持たせます。
不動産屋の口上
「別のお客さんが来て契約を考えているようなので、あなたのために押さえておけるのは今日までですよ」などと言って、他の客にとられるかもしれないと思わせて、契約を決断させるのも競わせるマーケティング手法のひとつです。
希少性の活用効果
ここまで見てきたように、マーケティング戦略としても、希少性の原理はよく用いられます。その効果を以下にまとめます。
売上の増加
数量限定セールや期間限定キャンペーンは、消費者の購買意欲を高めます。
需要の創出
もともと興味がない人にも希少性をアピールすることで、関心が生まれ、需要が高まります。
ブランドイメージの向上
限定商品や限定イベントといった希少性を活用することで、ブランドのイメージや認知度を向上させられます。
付加価値の創造
限定品や限定イベントに参加することで、特別な体験ができたと感じられ、それによって、商品やサービスにより魅力を感じるようになります。
心理的な反応
希少性の原理に密接に関わる心の反応が「心理的リアクタンス」です。これがあることで、人は「数少ないもの」を欲しくなります。
心理的リアクタンスとは
心理的リアクタンスとは、自由に行動する権利や選択肢が制限されると、その制限に対して抵抗や反発の感情を抱く現象のことを言います。自由が制限されると、自由を回復したいと感じて、以前よりも自由を求めるようになります。
たとえば、親に「勉強しなさい」と言われて、今やろうと思っていたのにやる気がなくなって結局やらなかったといったことは、多くの人が経験しているでしょう。これも心理的リアクタンスの一例です。
ロミオとジュリエット効果
これは、シェイクスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』に由来しています。2人は敵対する家の間で恋に落ち、困難な状況に直面しますが、それによって彼らの愛情が深まっていきます。恋愛をしている2人に、両家の確執や親の干渉といった障壁が生まれることにより、心理的リアクタンスが生まれ、恋愛感情が余計に高まってしまったと考えることができます。
希少性の高いものが欲しくなるメカニズム
ある品物が手に入りにくくなると、人はそれをより欲するようになります。それには、心理的リアクタンスが影響していますが、それが原因だとは誰も認識していません。
希少性の原理と心理的リアクタンスが、私たちの心理に与える影響をまとめると以下のようになります。
あるものが手に入りにくい
↓
強い切望
↓
その理由を理解しようとして、気持ちを正当化
↓
対象にプラス評価を与える
つまり、もの自体はなにも変わっていないのに、手に入りにくくなったというだけで、そのものには価値があるに違いないと感じます。このように、希少性は私たちの心理に訴えかけてきて、思い込みを与えます。
まとめ
マーケティングにおいて「希少性」は非常に重要な要素のひとつです。商品やサービスを買ってもらうために、いかに独自性や特別感を演出できるかは大きなポイントとなるでしょう。反対に、いつも限定商品を買って散財してしまうという人は、心の動きを知ることによって、散財を防げるかもしれません。限定商品だからとすぐに飛びつかず、この話を思い出してみてください。
参考
- ロバート・B・チャルディーニ(著)、社会行動研究会(翻訳)『影響力の武器[第三版]―なぜ、人は動かされるのか』誠信書房、2014年