社会心理学者のステファン・ウォーチェルらのクッキーの実験(『影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか』より)
希少性の原理
希少性の原理とは、あるものが手に入りにくいとわかると、それまでよりもその対象物を欲しくなる現象のことです。
もともと対象物にあまり興味がなかったとしても、需要が高まるなど手に入りにくい状況になることで、人々は対象物の価値を高く評価するようになります。
今回は『影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか』から、この希少性の原理が確認されたクッキーの実験を紹介していきます。
クッキーの実験
どちらの瓶のクッキーを選ぶか?
希少性の原理が効果を発揮する条件に関して、社会心理学者のステファン・ウォーチェルらの実験があります。
彼らの実験は、瓶に入ったクッキーを味見してもらい、その質を評価してもらうという内容でした。
被験者の半数(Aグループ)は、瓶に10枚のクッキーが入っていました。しかし、もう半分(Bグループ)の被験者の瓶には、2枚しか入っていませんでした。
この時、クッキーの評価(商品の魅力・価値)は、Bグループの方が高く評価しました。希少性の原理によって、たくさんあるうちの1つよりも、2つのうち1つの方が良いと判断されたためです。
最初から少ないより、少なくなった方が価値が高い
この実験には、さらに続きがあります。Bグループの被験者たちの中には、先に10枚クッキーが入っている瓶を出されてから、2枚しか入っていない瓶に変えられた被験者がいました。
食べる前にたくさんあったクッキーが減ってしまうのを見ていた彼らは、最初から2枚しか入っていない瓶を与えられた人より、クッキーを高く評価しました。
このことから、もともとある希少性よりも、後から条件が変わって希少となる場合の方が、大きな影響を与えると言えます。
競争が生まれると価値はさらに高まる
この実験では、10枚入りの瓶が途中で2枚入りの瓶に取り替えられましたが、この時、ある被験者は「別の被験者が思いのほか、たくさんクッキーを食べてしまったため」という理由が伝えられ、またある被験者には「研究者側のミスで誤った瓶を渡してしまったため」と伝えられました。
その結果、前者の需要によってクッキーの枚数が少なくなったと伝えられた人の方が、後者のミスによる取り替えと伝えられた人よりも、クッキーを好意的に評価しました。
これにより、人は数が少ないものが欲しくなり、さらにそのものを手に入れるための「競争」が生まれた時に最もその対象が欲しくなることがわかります。
参考
- ロバート・B・チャルディーニ(著)、社会行動研究会(翻訳)『影響力の武器[第三版]―なぜ、人は動かされるのか』誠信書房、2014年