刑法が適用されるセキュリティ事件 ~「不正指令電磁的記録作成等」と「電子計算機損壊等業務妨害」の紹介と最近の事例~
コンピュータを使った犯罪の中には、刑法によって罰則が規定されているものがあります。
その代表的なものが「不正指令電磁的記録作成等」と「電子計算機損壊等業務妨害」です。
「不正指令電磁的記録作成等」に関する罪
平成23年の刑法の一部改正により「不正指令電磁的記録に関する罪」が設けられました。
「いわゆるコンピュータ・ウイルスに関する罪」とも呼ばれるようにコンピュータ・ウイルスの被害を防止することを目的としています。
条文の解説
不正指令電磁的記録作成等罪は刑法第168条の2第1項と第2項に規定される一連の罪です。
- 第1項:不正指令電磁的記録作成罪
- 第2項:不正指令電磁的記録供用罪
刑法第168条の2第1項
刑法第168条の2第1項が対象としているのは、正当な理由なくユーザーの意図に沿うべき動作をさせない、またはユーザーの意図に反する動作をさせるコンピュータ・ウイルスを作成・提供することです。
「提供」とは、提供される側がコンピュータ・ウイルスのプログラムだと知っている、または知らされた状態で引き渡すことを意味します。
刑法第168条の2第2項
一方で、刑法第168条の2第2項の「供用」とは、ユーザーがコンピュータ・ウイルスを実行する意思がないにもかかわらず、そのユーザーのコンピュータで実行できる状態にすることです。
第1項ではコンピュータ・ウイルスそのものだけでなく、そのプログラムのソースコードを記録した媒体や書類も該当しますが、第2項ではコンピュータ・ウイルスそのもののみが対象です。
刑事罰は3年以下の懲役または50万円以下の罰金で、未遂も罰せられます。
本規定に続く第168条の3には、不正指令電磁的記録取得等罪が規定されています。
不正指令電磁的記録取得等罪では、正当な理由がなく作成・提供されたコンピュータ・ウイルスを取得または保管する行為も刑事罰として科されます。
該当するケースの例
- オンライン端末の不正操作
- ホームページの改ざん・消去
- 他人のアカウントを乗っ取って個人情報を変更
具体的な事件
平成24年の横浜地裁の事例では不正指令電磁的記録供用罪が成立しています。
キー入力の履歴を記録して特定のサイトに送信するプログラムを元交際相手のパソコンに無断でインストールした事例です。
使用者の意図に反する不正なプログラムを知らぬ間にインストールしたとして、不正指令電磁的記録供用罪が成立しています。
「電子計算機損壊等業務妨害」に関する罪
「電子計算機損壊等業務妨害」に関する罪は、昭和62年の刑法の一部改正により設けられました。
条文の解説
条文は刑法第234条の2です。
電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせない、または使用目的に反する動作をさせることで、人の業務を妨害すると刑事罰の対象になります。
以下は業務妨害となる加害行為です。
- 電子計算機または電磁的記録を損壊する
- 電子計算機に虚偽の情報または不正な指令を与える
- その他の方法
刑事罰は5年以下の懲役または100万円以下の罰金で、未遂も罰せられます。
該当するケースの例
- ゲーム運営会社の規約に違反したチート機能の開発・販売
- サーバーに対するDoS攻撃
具体的な事件
令和元年の高松地裁の事例は、電子計算機損壊等業務妨害罪が成立するかどうかが問題となった事件です。
輸入雑貨販売業者の社内エンジニアが発送業務プログラムのソースコードを書き換えて動作しなくなったタイミングで退職したため、会社から業務妨害が疑われて電子計算機損壊等業務妨害罪で起訴されました。
裁判により、ソースコードの書き換えは保守目的であり業務妨害を目的としていないと判断され、無罪が言い渡されています。
参考
- https://www.yokohama-roadlaw.com/glossary/cat/post_390.html(2023年4月4日確認)
- https://www.yokohama-roadlaw.com/glossary/cat/post_391.html(2023年4月4日確認)
- https://www.mc-law.jp/keiji/26739/(2023年4月4日確認)
- https://www.yokohama-roadlaw.com/glossary/cat/post_535.html(2023年4月4日確認)
- https://itlaw.hatenablog.com/entry/2021/05/08/153846(2023年4月4日確認)