プロジェクトマネジメントの教科書(PMBOK)を読んでいると、「ステークホルダー登録簿」という少し堅苦しい言葉が出てきます。
漢字ばかりで難しそうに見えますが、ゲームに例えるならこれは「プロジェクトの登場人物図鑑(あるいは人物相関図)」のようなものです。
今回は、このステークホルダー登録簿に何を書くのか、どうやって作るのか、そしてなぜこれがないとプロジェクトが失敗するのかを、やさしく解説していきます。
ステークホルダー登録簿とは何か?

ステークホルダー登録簿とは、「このプロジェクトにはどんな人物(組織)が関わっていて、誰が味方で、誰がどれくらいの影響力を持っているのか」をリストアップしたプロジェクト文書のことです。
プロジェクトを始めるとき、「誰に話を通せばいいのか」「誰を怒らせてはいけないのか」を把握せずに進めるのは、目隠しをしてジャングルを探検するようなものです。
後になって「そんな話は聞いていない!」と強力なステークホルダー(例えば他部署の部長など)から横槍が入り、プロジェクトが炎上するのを防ぐために、早い段階でこのリストを作成します。
登録簿には何を書くのか?(構成項目)

ステークホルダー登録簿には、主に以下の3つの情報をまとめます。
1. 基本プロフィール(誰なのか?)
PMBOKでは「識別情報」と呼ばれます。その人を特定するための基本情報です。
- 名前
- 部署名、役職(組織内での立場)
- プロジェクト内での役割(決裁者なのか、作業者なのか、利用者なのか)
- 連絡先(メールアドレスなど)
2. 影響力と期待(どれくらい力があるか?何を求めているか?)
PMBOKでは「評価情報」と呼ばれます。
- 影響度: プロジェクトを止めるほどの権力があるか?
- 期待事項: プロジェクトに何を望んでいるか?(コスト削減、納期厳守、新機能など)
3. プロジェクトへのスタンス(味方か?敵か?)
PMBOKでは「ステークホルダー分類」と呼ばれます。
- 現在の姿勢: このプロジェクトを支持しているか、中立か、それとも抵抗(反対)しているか。
💡 ステークホルダー登録簿の具体例
(※平成30年度春期 プロジェクトマネージャ試験の問題をベースに簡略化)
| 名前 | 部門・役職 | プロジェクトでの役割 | 影響度(権力) | プロジェクトへのスタンス |
|---|---|---|---|---|
| P社社長 | 経営陣 | 最終意思決定者 | 高 | 支持している |
| Q部長 | 総務部 | プロジェクト統括 | 高 | 支持している |
| S部長 | 営業部 | 利用部門の責任者 | 高 | 抵抗している(不満あり) |
| T氏 | 営業部 | 利用部門の現場担当 | 低 | 中立(関心なし) |
このようにリスト化すると、「S部長は影響力が高いのにプロジェクトに抵抗しているから、優先的に説得(コミュニケーション)に行かなければマズいぞ」ということが一目でわかります。
どうやって情報を集めて作るのか?
ステークホルダー登録簿を作るための情報集め(インプット)は、どのように行えばよいでしょうか。大きく3つの切り口があります。
1. 最初の企画書や合意書を読み解く
まずは、プロジェクトの立ち上げ時に作られた「プロジェクト憲章」や「企画書」「契約書」などの資料を読み込みます。そこには「誰が承認したのか」「誰の課題を解決するプロジェクトなのか」というヒントがたくさん隠されています。
2. 周りの環境や「政治」をリサーチする
資料に載っていない人物を見つけ出すことも重要です。「このシステムが変わることで、割を食う(業務が増える)部署はないか?」「システムを使わないけれど、法律やコンプライアンスの観点から口を出してくる部門(法務部など)はないか?」と、プロジェクトを取り巻く環境を広く見渡します。
3. 過去の「失敗の記録」から学ぶ
社内の過去のプロジェクト資料(組織のプロセス資産)が残っていれば確認しましょう。「似たような過去のプロジェクトでは、○○部門の存在を見落としていて大トラブルになった」という教訓があれば、それを今回のリスト作りに活かします。
【超重要】ステークホルダー登録簿は「極秘資料」である
ステークホルダー登録簿を作る上で、絶対に忘れてはならない注意点があります。
それは、「このリストは、プロジェクトマネージャーなどのごく一部の人間だけが見られる『極秘資料』として扱う」ということです。
考えてみてください。もしこのリストが関係者全員に共有され、S部長が自分の欄に「抵抗勢力」「不満あり・要注意人物」と書かれているのを見つけたらどうなるでしょうか?
間違いなく激怒し、プロジェクトは最悪の結末を迎えます。
ステークホルダー登録簿は、プロマネが頭の中を整理し、戦略を練るための「裏の相関図」です。取り扱いには十分注意しましょう。
まとめ:作って終わりではなく「戦略」に使う
ステークホルダーを特定し、リストを作って満足してはいけません。
登録簿ができたら、次は「権力はあるが関心が低い人をどう振り向かせるか」「抵抗している人をどうやって味方につけるか」という、コミュニケーションの戦略(ステークホルダー・エンゲージメントの計画)を立てるフェーズに入ります。
リストの人物たちをさらに細かく分析したい場合は、以下の「グリッド分析」の記事もあわせて参考にしてください。


