ステークホルダー・マネジメントの7つのプロセス|「メテオフォール型開発」を防ぐPMBOK第8版の実務

少し前に「日本のプロジェクトマネジメントはメテオフォール型だ」という投稿がインターネット上で話題になったことがあります。

メテオフォール型開発とは、開発現場の上空に「神」が存在し、その気まぐれな一言(=隕石/メテオ)によって、実装も設計も要件定義も一瞬で吹き飛ばされる、という風刺です。順調に進んでいたはずのプロジェクトが、社長や役員のちゃぶ台返しで一夜にして白紙に戻る——笑い話として広まりましたが、心当たりのある方も多いのではないでしょうか。

私はこの状態を、ステークホルダー・マネジメントがうまく機能していないことの分かりやすい症状だと考えています。今回はPMBOK第8版が定義するステークホルダー領域の7つのプロセスを見ながら、こうした事態をどう防ぐかを考えていきます[1]Project Management Institute, Inc., The Standard for Project Management and A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, 第2部 セクション2.5.2 … Continue reading

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山脇 弘成(SSAITS(サイツ)代表)

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7つのプロセスの全体像

ステークホルダーマネジメントの7つのプロセスの全体像

まず全体像です。この領域には、プロジェクトの立ち上げから監視、クローズまでを通じて機能する7つのプロセスが定義されています。

#プロセス段階
1ステークホルダーの特定特定
2ステークホルダー・エンゲージメントの計画計画
3コミュニケーション・マネジメントの計画計画
4ステークホルダー・エンゲージメントのマネジメント実行
5コミュニケーションのマネジメント実行
6ステークホルダー・エンゲージメントの監視監視
7コミュニケーションの監視監視

「エンゲージメント系」と「コミュニケーション系」が、計画・実行・監視の各段階で対になっているのが分かると思います。この対応関係を頭に入れておくと、7つを丸暗記しなくても構造で理解できます。

ステークホルダーの特定(Identify Stakeholders)

ステークホルダーの特定(Identify Stakeholders)
「ステークホルダーの特定」の定義と主な利点

定義:プロジェクトのステークホルダーを定期的かつ継続的に特定し、彼らの関心、関与度、相互依存関係、影響力、プロジェクト成功への潜在的な影響を分析・文書化するプロセス。

主な利点:各ステークホルダー(またはグループ)との関与において、適切な焦点を定められるようになります。

ここで押さえておきたいのは、「定期的かつ継続的に」という表現です。PMBOKは、プロジェクトの進行や環境の変化に伴ってステークホルダーを特定し続けることが、環境の変化に適応するためのリスク管理戦略としても機能する、と位置づけています。

冒頭のメテオフォールの話に戻ると、隕石を落としてくる「神」は、多くの場合プロジェクト開始時点から存在しています。存在しない人が突然現れるわけではなく、関係者として認識されていなかっただけです。

だからこそ、社長のような最終決裁者はもちろん、プロジェクトに影響を与えそうな人物をできる限り洗い出し、ステークホルダー登録簿などに対策とともにまとめておくことが大切だと思います。

そのためのヒントは、実は日々の会議の中にあります。

  • 「これって営業部の○○さん、どう思うかな」
  • 「技術部には確認が必要なんだっけ?」

こうした何気ない会話は、まだ特定できていないステークホルダーの存在を教えてくれるサインです。聞き流さずに拾い上げ、不安材料をひとつずつ潰しておくことをおすすめします。

ステークホルダー・エンゲージメントの計画(Plan Stakeholder Engagement)

「ステークホルダー・エンゲージメントの計画」の定義と主な利点

定義:特定されたステークホルダーのニーズ、期待、関心、要求事項、潜在的な影響力に基づいて、効果的に関わるための戦略を策定するプロセス。

主な利点:ステークホルダーと効果的に相互作用するための、実行可能で具体的な計画(ステークホルダー・エンゲージメント計画書)が手に入ります。

ここでのポイントは、相手を一律に扱わないことです。
プロジェクトに対して支持的(Supportive)なのか、中立(Neutral)なのか、抵抗的(Resistant)なのか。そのエンゲージメントレベルに応じて、支持を高めてもらうための個別の対話戦略を考えます。

この計画は作りっぱなしにせず、フェーズの移行といった節目で定期的にレビューし、更新していきます。

コミュニケーション・マネジメントの計画(Plan Communications Management)

コミュニケーション管理の計画(Plan Communications Management)
「コミュニケーション管理の計画」の定義と主な利点

定義:チーム内部および外部のステークホルダーと、どのように、いつ、誰によってコミュニケーションを行うかを計画するプロセス。

主な利点:コミュニケーション戦略の一貫性が確保され、ステークホルダーの期待値との整合が取りやすくなります。

このプロセスは、ステークホルダーの特定・分析・優先順位付けと動的に重なり合っており、エンゲージメント計画と密接に連動します。切り離して考えるものではない、ということです。

実務上の基礎になるのが、扱う情報のカテゴリ分析です。

  • 内部向けか、外部向けか(Internal / External)
  • 極秘か、公開してよいか(Sensitive / Public)
  • 大枠でよいか、詳細が必要か(General / Detailed)

この整理をしておくと、「誰に何をどこまで伝えるか」で迷う場面がぐっと減ります。

ステークホルダー・エンゲージメントの管理(Manage Stakeholder Engagement)

「ステークホルダー・エンゲージメントの管理」の定義と主な利点

定義:計画した戦略に沿って、ステークホルダーと継続的に対話・協働するプロセス。

主な利点:ステークホルダーからの支持を最大限に高め、抵抗を最小限に抑えることができます。

PMBOKがここで明示しているのは、チームメンバーとのやり取りだけでなく、プロジェクトスポンサーとも積極的に連携すべきだという点です。スポンサーのニーズや期待を満たし、課題に対処し、適切な関与を維持・促進していきます。

もし社長の確認が必要なプロジェクトなのであれば、定期的に報告の場を設け、確認すべきことをその都度確認しておく。これはまさにこのプロセスの実践であり、隕石が落ちてくる前に軌道を変えておく作業だと言えます。

コミュニケーションのマネジメント(Manage Communications)

「コミュニケーションのマネジメント」の定義と主な利点

定義:プロジェクト情報の適時かつ適切な収集、作成、配布、保管、検索、管理、監視、そして最終的な破棄(Disposition)を確実に行うプロセス。

主な利点:プロジェクトチームとステークホルダーの間で、効率的かつ効果的な情報の流れが実現します。

スポンサー、顧客、エンドユーザー、外部ベンダーなど、宛先はさまざまです。それぞれに応じて、最適な手段を選びます。PMBOKでは伝達の方法として、双方向(Interactive)、プッシュ型(Push)、プル型(Pull)といった区分が示されています。会議のように相互にやり取りするのか、メールで一方的に送るのか、共有フォルダに置いて必要な人に取りに来てもらうのか、という違いです。

そして、プロジェクトやステークホルダーのニーズは変化します。手段や技術を柔軟に切り替えられることが求められます。

ステークホルダー・エンゲージメントの監視(Monitor Stakeholder Engagement)

「ステークホルダー・エンゲージメントの監視」の定義と主な利点

定義:ステークホルダーとの関係性を継続的に評価し、関与の有効性を測定して、必要に応じて戦略や計画を修正・微調整するプロセス。

主な利点:プロジェクトの進展や環境の変化に合わせて、エンゲージメント活動の効率性と有効性を高い水準で維持できます。

実務では、現在の関与レベルと、プロジェクト成功に必要な「あるべき関与レベル」のギャップをマトリクスなどで分析し、その差を埋めるための行動が機能しているかを見ていきます。

「報告はしているのに、いつも上の空だ」という相手がいるなら、それは関与レベルにギャップがあるサインかもしれません。

コミュニケーションの監視(Monitor Communications)

「コミュニケーションの監視」の定義と主な利点

定義:プロジェクトおよびステークホルダーの情報ニーズが、適切かつ確実に満たされているかを確認・監督するプロセス。

主な利点:コミュニケーション・マネジメント計画書やエンゲージメント計画書で定義したとおりの、最適な情報の流れを維持できます。

ここで評価するのは、送ったかどうかではありません。計画した情報が必要な人に届いているか、正しく理解されているか、そして期待した意思決定やリスク管理につながっているかまでを継続的に見ていきます。

「報告書は毎週出していたのに、決裁者は読んでいなかった」という事態は、このプロセスが機能していないときに起こります。

メテオフォールは防ぐことができる!

7つのプロセスを見てきましたが、冒頭のメテオフォール型開発に立ち返ると、隕石が落ちてくる状況には、たいてい次のいずれかが起きています。

メテオフォールになる状況
  • そもそも「神」がステークホルダーとして特定されていなかった(プロセス1)
  • 特定はされていたが、関わり方の戦略がなかった(プロセス2・4)
  • 報告はしていたが、相手に届く形になっていなかった(プロセス3・5・7)
  • 関与が薄れていることに気づけなかった(プロセス6)

つまり、ちゃぶ台返しは突発的な事故というより、管理と監視が抜けていたことの結果として現れます。

もちろん、どれだけ丁寧にやっても防ぎきれない場面はあります。それでも、影響力のある人物を早い段階で洗い出し、その人に届く形とタイミングで情報を渡し、関与が薄れていないかを見続けることで、被害の大きさはかなり変えられるはずです。

まとめ

ステークホルダー領域の7つのプロセスは、「エンゲージメント」と「コミュニケーション」の2系統が、計画・実行・監視という段階でそれぞれ対になった構造をしています。

そして起点になるのは、プロセス1の「特定」です。ここが一度きりの作業で終わっていないか、会議で出てきた名前を拾えているか。この地味な積み重ねが、後半の混乱を減らしてくれます。

1 Project Management Institute, Inc., The Standard for Project Management and A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, 第2部 セクション2.5.2 および 2.5.2.1〜2.5.2.7(70-74頁)より要約・翻訳。以下、PMBOK第8版(英語版)と略記。
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