プロスペクト理論とは何か?その種類と特徴、ビジネスでの使用例を解説

2023年3月13日

プロスペクト理論とは

プロスペクト理論とは、不確実な状況下の選択の結果によって得られる利益や損失が、どのように意思決定されるかをモデル化したものです。
プロスペクト理論は人間の行動経済学において非常に重要な理論であり、意思決定は客観的事実だけでなく、置かれた状況によって行われていることを示しています。

たとえば、興味はあるものの、価格が高く、普段では購入に踏み切れない状態の商品があるとします。
その商品が期間限定で割引キャンペーンが行われていることを知り、思わず購入してしまうということがあります。
このように、置かれた状況下において事実と異なる認識の歪みが作用するといった意思決定モデルを表した理論が「プロスペクト理論」です。

プロスペクト理論の種類

プロスペクト理論では「リスクの回避型」と「損失の回避型」の2つのタイプに分けられます。

リスクの回避型

人の行動理論としてリスクを回避した行動を行うことが多いと言われています。
たとえば、以下の2つの選択肢がある場合、どちらの選択肢が選ばれることが多いでしょうか。

  • A:必ず10万円が貰える選択
  • B:コインを投げて表がでたら30万円が貰えるが、裏がでたら貰えない選択

「B」の選択肢では2分の1の確率で30万円が貰えるため、獲得金額の期待値は15万円です。
そのため、「A」の選択肢と比べて5万円高い利益を得られる可能性があります。

しかし、多くの人は確実に利益を得られる「A」を選択するはずです。
合理的な判断をするなら利益の高い「B」を選択するべきですが、1円も貰えないリスクを避ける「リスクの回避型」と呼ばれる行動です。

損失の回避型

損失を回避する場合の行動理論はリスクの回避型と逆になる傾向があります。

  • A:確実に10万円を失う選択
  • B:コインを投げて表がでたら30万円を失うが、裏がでたら失わない選択

この場合は、多くの人が「B」を選択するようです。
確率的には「B」の選択肢の方が損失の期待値が高くなるため、「A」を選択する方が合理的です。

損失の期待値では、「A」が10万円、「B」は2分の1の確率で30万円を失うため15万円となり「B」を選択すると損失が大きくなる可能性があります。

しかし、人は確実に損失が発生するという状況を回避しがちです。これが「損失の回避型」と呼ばれる行動です。

プロスペクト理論の特徴

ここからはプロスペクト理論の特徴を解説していきます[1]ダニエル・カーネマン(著)、村井章子(翻訳)『ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか?』早川書房、2014年、97~98頁。

評価は中立な参照点に対して行われる

プロスペクト理論では、評価は中立な参照点(順応点とも呼ばれる)に対して行われます。
たとえば、冷水、室温程度の水、熱湯がそれぞれ入ったボウルがあったとします。
冷水のボウルに手を入れてから室温の水に手をつければ、温かく感じますし、熱湯に手を入れてから室温の水に手を入れたら冷たく感じます。

同様に、人間は損得を考える際、自分の参照点と比べて、損か得かを判断するというのが、プロスペクト理論の特徴です。

金額が大きくなるほど価値を小さく感じる ―感応度逓減性―

プロスペクト理論では、損得どちらとも金額が大きくなればなるほど価値を感じにくくなる傾向があります。この特徴は「感応度逓減性」と呼ばれます。

たとえば、同じ1万円の差でも「9万~10万」と「99万~100万」の違いでは、「9万~10万」の差額の方を重要視してしまいます。

有利な場合は安定志向で、不利な場合はリスク志向になる ―損失回避性―

プロスペクト理論では、人は得をするよりも損を避けることを優先する傾向があるとしています。この特徴は「損失回避性」と呼ばれます。

たとえば、株式投資で利益がでているとします。
この時、「まだ利益が上がるかもしれないから株を所有しておこう」という選択と、「暴落して損をしてしまうかもしれないから、今のうちに売っておこう」という選択があります。
多くの人は「損をしたくない」という思いの方が強く働くため、売却して利益を確定させようとする傾向が強くなります。

一方で、所有している株の価値が下がっている場合は、「損を取り返さないといけない」という考えが強くなります。そのため、多くの人が株を売却せずに所有し、株価が上がるのを待つようになります。

このように、利益がある場合は安定することを望み、損失がでているときにはリスクを冒してでも損失分を取り戻そうとします。

損失が大きくなるリスクを取ることは一見矛盾した考え方に見えますが、成功確率を客観的事実よりも高く見てしまい、損失回避を期待する認知バイアスが働くため、リスクを取る行動をとりやすくなります。

プロスペクト理論のビジネスでの活用例

プロスペクト理論を応用したマーケティングは、多くの企業が利用している身近な手法です。
販売方法の工夫やキャンペーンの実施も、消費者の意思決定に働きかけるプロスペクト理論が活用されています。

マーケティングにプロスペクト理論が使われる場合は、プロスペクト理論の損失回避性の特徴が主に利用され、顧客が損失を意識する気持ちをコントロールしていきます。

また、感応度遁減性を利用して、高い買い物に付加価値を付けることもあります。

ここからは、プロスペクト理論のビジネスでの活用例を紹介していきます。

返金キャンペーン

「商品にご満足いただけない場合は返金します」という文言をテレビや広告などで見かけることがあります。
この返金キャンペーンは、プロスペクト理論の損失回避性の特徴を利用しています。

つまり、気になっている商品について試してみたいが購入に踏み切れない消費者に対して「もし気に入らなければ返金してくれる」という提案をすることで、損失への不安を失くし、購入に誘導しています。

数量限定・期間限定キャンペーン

「先着100名様限定」といった手法も、損失回避性の特徴を利用しています。
つまり、「今購入しないと損をする(購入機会を失う)」と感じさせることで、消費者の損失を煽り、消費行動を促進させています。

同様に、期間限定キャンペーンを行うことも効果的です。
ある商品に対して期間限定で「今だけ半額」「今ならポイント2倍」といったタイムセールを行っていたりすると消費者は魅力を感じて購入します。限定品と類似の効果で「今購入しないと損をする(特典が失われる)」という心理が消費行動を促進します。

ポイントサービスの期限を通知する

買い物や食事によって付与されるポイントサービスは、様々な店舗で多く見られます。
欲しい商品、サービスを受けられた上にポイントも付くとなると、消費者は得をした気分になります。
一方で、取得したポイントに使用期限があると、ただで獲得したポイントであっても、消費者は失効によってポイントが無くなることを嫌がります。
その結果、消費者は取得したポイントを失うことを避けるために、ポイントを利用しようと、再度買い物や食事を行うため、消費を促進させることが可能となります。

不動産や車などの高額商品

不動産や車などの高額商品は、プロスペクト理論の感応度遁減性が関係しています。

たとえば、4,000万円や5,000万円のマイホームを購入しようとしているのに、「1万円値引きしますから、買ってください」と言われても、なかなか購入には至りません。
いつもの買い物であれば、1万円の値引きは大きいものの、物件そのものの価格が大きいため、値引きの影響が小さくなってしまいます。
このように、高価な商品のマーケティングは、少々の利益では、感応度遁減性が邪魔をして効果がでません。
そのため、先ほどの「全額返金キャンペーン」のように、損失回避性を利用したマーケティングの方が、高額商品には適しているといえます。

一方で、高額商品は、少々のオプションを付けても、消費者が気にしないことがあります。
たとえば、新築戸建てを購入しようとしている顧客に「せっかくなので50万円でソーラーパネルをつけましょう」「5万円追加でカードキーにしましょう」と提案しても、大きな買い物と認識されないことがあります。
これは感応度遁減性を利用した販売方法で、高額商品の場合は、もともとの金額が高いため、オプションとして提案したものの価格が相対的に低く認識され、購入につなげることができます。

参考

書籍

  • ダニエル・カーネマン(著)、村井章子(翻訳)『ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか?』早川書房、2014年

Webページ

1ダニエル・カーネマン(著)、村井章子(翻訳)『ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか?』早川書房、2014年、97~98頁。