「論理的」とはどのような意味なのか?「推論」と「推測(推理)」の違いを『入門!論理学』をもとに解説

2023年9月12日

今回の内容は動画でも解説していますので、ぜひご覧ください。

「論理的ではない」とは何か?

仕事をしていると「あの人の話は論理的だ」「そのプレゼン内容は論理的ではない」という言葉を耳にします。
しかし、この「論理的」というのはどのような意味なのでしょうか?
今回は『入門!論理学』の内容をもとに、「論理的」の意味を解説していきます。

非論理的 = 思いつき?

思いつきでものを話していると、「非論理的な会話」だと言われることがあります。
ではなぜ、思いつきで話をしていると「非論理的」と言われてしまうのでしょうか?
それは、思いつきの話は、それまでの内容と関連なく話されるからです。
たとえば、今日の天気の話から、これから食べる夕飯の話になり、来月の休暇の話をしたとします。
これらの内容は、相互に関連のある話とは言い難いものです。

「論理的」とは?

では、「論理的」とはどのような状態なのでしょうか?
先ほどの思いつきの話とは逆に、論理的な話はそれまでの発言ときっちり関連づけて次の発言をするということです[1]野矢茂樹『入門!論理学』中公新書、2006年、6~7頁。
別の表現をすると、「論理的」というのは、言葉が持つ意味のネットワークを踏み外さず、正確に行き来できることを指します。

たとえば、今日の天気の話をした後、天気と関連して「今日は傘を持って出かけるかどうか?」という話をするのは論理的です。

また、今日の天気の話から、急に夕飯の話になるのは非論理的な会話だと言われてしまいますが、今日の天気の話から、天気に左右される夕飯の買い物の話になり、そこから夕飯の話に移れば、論理的な会話に見えます。
非論理的な会話と、論理的な会話で「今日の天気」から「夕飯」の話になるのは同じですが、この話の関連ができているかどうかが、論理的であるかどうかのポイントになります。

推測と推論

ここまでは、「論理的」の意味を考えてきました。
この論理的な話から導き出された結論には、2つの種類があります。一つは「推測」、もう一つは「推論」です。
似たような言葉ですが、推測か推論かで、導き出された話の信頼性は大きく異なります。

推測(推理)

推測(推理)というのは、言葉と言葉が論理的につながってはいるものの、常識や経験から判断して「おそらくそう言えるだろう」と導き出された結論のことです。

たとえば、「Aさんは大学の先生だ」という話を聞いて「じゃあ、本が好きなんだね」という会話をするのは推測です。
「本が好きなんだね」という結論は、「大学で先生をしている人は本が好きな人が多い」というそれまで経験から導き出されたものです。
しかし、これは確実に言える結論ではありません。大学の先生であっても、本が好きではない人はいるでしょう。

推論

では、「Aさんは大学の先生だ」ということから、確実に言えることは何でしょうか?
この情報だけだと、確実に言えることはあまりありません。Aさんが大学の先生であれば、大学で教えているということぐらいです。
そして、この確実に言える関係から導き出された結論が推論です。推論は「演繹」「演繹的推論」とも呼ばれます。

広義の意味で「論理的」という場合は推測も含まれますが、論理学の場など、狭義の意味で「論理的」という場合は推論だけを指します。

例題

ここで『入門!論理学』から、例題を出してみましょう。

花子はいつもA店かB店で買い物をし、そのさい、商品Pを買うときには必ず商品Qも一緒に買う。
ある日花子は商品Pを買って帰ってきたが、A店には行かなかったという。
このことから、この日花子はB店で商品Qを買ったと判断できる。

『入門!論理学』14頁より

この文章の最後の「このことから、この日花子はB店で商品Qを買ったと判断できる」という結論は推測でしょうか、それとも推論でしょうか?

答えは「推論」です。

先ほどの話を整理すると、以下のようになります。

例題1
  • 前提1:花子はいつもA店かB店で買い物をする
  • 前提2:商品Pを買うときには必ず商品Qも一緒に買う
  • 前提3:ある日花子は商品Pを買った
  • 前提4:この日、花子はA店には行かなかった
  • 結論:この日花子はB店で商品Qを買った

この話には、前置きとなる条件「前提」が4つあります。
前提1と前提4から、花子はこの日A店に行ってなかったのであれば、B店に行ったことがわかります。
また、前提2と前提3から、商品Pを買ったということから、この日花子は商品Qも買ったということがわかります。
ここから、結論である「この日花子はB店で商品Qを買った」ということができます。

その推論は正しいのか?

しかし、さきほどの「この日花子はB店で商品Qを買った」という例題1の結論は正しいのでしょうか?
推論で導き出された結論の正しさを考える際は、前提から結論を導き出す「導出」の過程の正しさと、前提の正しさも含めた「論証」に注目する必要があります。

導出の正しさとは、論理的に話が展開していくかということです。例題1の場合、前提が正しければ、「この日花子はB店で商品Qを買った」という結論は正しいものになります。

しかし、前提1の「花子はいつもA店かB店で買い物をする」が誤っていたとしたらどうでしょうか?
実際は花子はA店、B店だけではなく、C店でも買い物をしていたら「この日花子はB店で商品Qを買った」と確実にいうことはできません。
これは論証が誤っていることになります。

たとえば問題解決の場で推論によって結論を出した場合は、その導出、論証に注目することで問題の切り分けができます。
導出は正しいのに、導き出された結論にならない場合は前提を見直す必要があります。

小説やドラマでも使われる論理

推理小説や推理ドラマでも、論理はしばしばトリックに使われます。
たとえば『容疑者Xの献身』では、犯人に協力する数学教師が「論理的思考」で警察を欺こうとします。
この話でも、導出と論証の違いがポイントになっていました。

推理小説で、部屋にいながら推理だけで事件を解決する探偵を「安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)」と呼びますが、『入門!論理学』の著者である野矢茂樹先生は「論理は究極のアームチェア・ワークです」と言っています[2]前掲『入門!論理学』20~21頁。
話づくりにも、論理は役に立ちそうです。

参考

書籍

  • 野矢茂樹『入門!論理学』中公新書、2006年

Webページ

  • https://en.wikipedia.org/wiki/Armchair_detective(2023年9月8日確認)

1野矢茂樹『入門!論理学』中公新書、2006年、6~7頁。
2前掲『入門!論理学』20~21頁。