論理学、レトリック、科学、哲学の論理と思考法の違い ~渡邉雅子『論理的思考とは何か』より~

2024年11月13日

学校でもビジネスの場でも、論理的に考えることが求められる場面は多いです。
しかし、所属している分野によって「論理的である」ことに意味の違いがあることをご存知でしょうか。

今回は渡邉雅子『論理的思考とは何か』から、論理学、レトリック、科学、哲学の4つの専門分野の思考法の違いをまとめていきます[1]渡邉雅子『論理的思考とは何か』岩波書店、2024年。

4つの専門分野での思考法の違い

はじめに『論理的思考とは何か』にまとめられている、論理学、レトリック、科学、哲学の4つの専門分野の思考法の比較を紹介します[2]前掲『論理的思考とは何か』4~5頁。

論理学レトリック科学哲学
目的演繹的操作による真理の証明一般大衆の説得物理的真理の探究形而上学的真理の探究
手段=推論の型演繹的推論蓋然的推論アブダクション
(遡及的推論)
弁証法
論理形式の論理日常の論理法則探究の論理本質探究の論理
議論の形態証明説得・論証仮説の検証対話・討論
適切な証拠形式の正しさ一般常識と過去の事例数式/計算、実験の結果共有された概念
評価の観点推論が真か偽か議論が弱いか強いか推論が拡張的か否か問の答えが本質的な否か
〈論理的〉であるための必要条件正しい結論を導く文と文の関係の「形式」の規則の適用場の目的に合致した「常識」と「具体例」の効果的な適用原因と結果と説明の整合性及び経験(物理現象)との整合性文法的に正しい言葉の使用と演繹的推論の適切な使用

ここからは各分野の思考法について、解説を加えていきます。

論理学

真理の証明を目的とする

論理学とは、演繹的操作により、真理を証明することを目的としています。
「演繹」は、特定の前提から論理的な結論を導き出す推論の形式です。
これは、一般的な原理や法則に基づいて特定のケースや事例に適用する方法です。
演繹については下記の記事もご参照ください。

論理学における「論理的」

この論理学においては、正しい結論を導く文と文の関係の「形式」の規則の適用がなされていることが大切です。
つまり、演繹的操作のルールに従っているか否かが論理学で論理的であるための条件になります。

一般的な「論理的」との違い

「論理的に考えろ」と言われると、この論理学のルールに則らなければならないのかと思う人もいるかもしれません。
しかし、日々の生活で論理学で導き出されるように「確実に○○だ」と言えて、真偽がはっきりしていることは多くありません。
そのため、日常で「論理的に考えろ」と言われた時に求められているのは、論理学の思考法ではなく、この他の思考法を意味していることがほとんどです。

レトリック

一般大衆の説得で用いられるレトリック

社会人生活の中で「論理的に考える」という場合、用いられる「論理的」とはレトリックの方法を用いられることがほとんどです。
一般大衆の説得を目的とする思考法であるレトリックは、政治的主張やビジネスのプレゼンテーションなどで効果を発揮します。

レトリックで用いられる蓋然的推論

レトリックでは蓋然(がいぜん)的推論が用いられます。
先ほどの論理学で使われる演繹的推論は、前提が真実である限り、結論は必ず真実になります。
一方でレトリックの蓋然的推論は、「多くの場合に正しい」と言えることを展開していきます。

レトリックにおける「論理的」

レトリックでは一般常識や過去の事例を材料にしながら、聴き手の同意を引き出します。
この時に重視されるのが、場の目的に合致した「常識」と「具体例」が効果的に適用されているかどうかです。

つまり、聴き手がもっている常識にあわない話や、具体例がイメージできない話は効果的ではなく、そのレトリックは論理的ではないと判断されてしまいます。

科学

科学と仮説思考

科学の分野では「仮説思考」「アブダクション」「遡及的推論」と呼ばれる思考法が用いられます。
この思考法については下記の記事もご参照ください。

科学における「論理的」

科学では、数式や計算、実験の結果をもとに、推論が正しいかどうか、あるいは拡張的かどうかを考えていきます。
そして、原因と結果、説明の整合性及び経験との整合性がとれているかどうかを判断します。

哲学

形而上学的真理の探究

哲学では、形而上学的真理の探究のための思考法が用いられます。
「形而上」とは「形の上にはないもの」「形を超えたもの」という意味です。
たとえば目に見える物体は言葉で言い表すことができますが、「善」「楽しさ」のような形にならないものを言い表すことは容易ではありません。
この哲学の探究に用いられるのが弁証法です。

ヘーゲルの弁証法

哲学では弁証法が用いられます。
弁証法にもいくつか種類がありますが、今日「弁証法」という場合はドイツの哲学者であるヘーゲルの弁証法を指します。

ヘーゲルの弁証法は、物事の発展や変化の法則を説明する哲学的な方法で、「正・反・合」の三段階の過程で進むとされます。
まず「正(テーゼ)」としてある主張や状態があり、それに対する矛盾や対立するものとして「反(アンチテーゼ)」が現れます。
この対立から新たな統合的な段階である「合(ジンテーゼ)」が生まれ、以前よりも高次の理解や状態が達成される、という流れです。

哲学の「論理的」

哲学では文法的に正しい言葉の使用と演繹的推論の適切な使用がなされているか否かが論理的かどうかの判断基準になります。
つまり、「言葉の定義は正しいか」「その言葉の意味から導き出されたものは正しいか」が重視されます。

まとめ

以上のように、「論理的」といっても分野によって話の展開方法は異なり、該当分野に合った論理展開をしなければ、「論理的ではない」と判断されてしまいます。

1渡邉雅子『論理的思考とは何か』岩波書店、2024年。
2前掲『論理的思考とは何か』4~5頁。