供給者の選定方法について –システム導入するときに考えること–
慣習であるからといって、これをなすという人は、何らの選択をも行わない人である。
―ジョン・スチュアート・ミル
開発か市販製品・サービスの購入か
プロジェクトの企画書を作成する前後で、導入を検討しているシステムを独自に開発するか、市販の製品やサービスを購入するかを検討する必要があります。
システム導入の選択肢として、以下の5種類の方法が挙げられます [1]共通フレーム、92頁の内容をもとに、一部表現を変更。 。
- 要件を満たす市販のシステム製品やサービスを購入する
- 内部的に製品を開発するか、サービスを得る
- 契約して製品を開発するか、サービスを得る
- 上記1~3の選択肢を組み合わせる
- 既存の製品か、サービスを強化する
市販品の購入を第一優先
出典元の共通フレームであっても、 JIS X 0160:2012であっても、上記の選択肢の優先順位は付けられていませんが、基本的には1~4の順番に検討するほうがよいでしょう。
ソフトウェアエンジニアリングの名著『人月の神話』でも語られていることですが、もし市販のシステム・ソフトウェア製品でニーズが満たされるのであれば、それを導入するにこしたことはないです[2]フレデリック・P・ブルックス Jr.、滝沢徹 (訳) 、牧野祐子 (訳) 、宮澤昇 … Continue reading。
一見市販のシステム・ソフトウェア製品の仕組みが簡単なように見えても、自前で開発するとその労力だけでなく、テストやセキュリティの問題まで気にしなくてはならなくなり、多くの時間と費用を必要としてしまいます。
もし組織のニーズに完全に合致する市販の製品がなくとも、運用の方法で対処できるのであれば、積極的に市販の製品の導入を検討すべきです。
市販品購入の条件の確認
もし市販の製品・サービスが利用できそうである場合は、以下の条件を確認し、本当にその製品・サービスを購入しても問題ないかどうかを確認していきます[3]共通フレーム、93頁。。
- そのシステム製品やサービスに対する要件が満たされている
- 必要な文書が入手できる
- 専有権、使用権、所有権、保証及びライセンス付与権が満たされている
- その製品やサービスに対する今後の支援が計画されている
市販の製品・サービスの購入を検討する際は、要件を満たしていることだけでなく、必要に応じて仕様書などの文書が入手可能かどうか、権利関係がどのようになっているのかまで確認しておく必要があります。
また、今後の支援が計画されていない製品を導入してしまうと、不具合が発生した際の対応が遅れ、大きな問題につながってしまうことがあります。
この他、近年では環境負荷を考慮したグリーン調達を行うこともあります[4]共通フレーム、95頁。。
ニーズに応えられる市販の製品・サービスがなければ
ニーズに応えてくれるような市販製品がないことが分かった後に、製品開発を検討していきますが、製品開発であっても組織内で行えるのであれば、外部に依頼するより優先すべきです。
内部的な開発のほうがコミュニケーションなどの観点からプロジェクトの負担は外部の供給者、つまりシステム開発会社に依頼するよりも少なくて済みます。
とはいえ、内部で開発できるようなプログラマーを擁している組織は少なく、上述したシステム導入方法の内、 実際多くの場合選択肢に残るのは3の「契約して製品を開発するか、サービスを得る。」が選択されることがほとんどです。
取得計画の策定とRFPの作成
取得計画の策定
目的とするシステム製品を市販のもので賄うにせよ開発するにせよ、依頼主である取得者は 以下8つの内容を踏まえて取得計画を策定し、文書化した後に、その内容を実行していくことが望ましいとされています[5]共通フレーム、93頁。。
- システムに対する要件
- システムの利用計画
- 使用される契約の形態
- 関係する組織の責任
- 取得者の作業と予定
- 供給者との共同作業
- 考慮されたリスクのほかにそのリスクを管理する方法
市販の製品・サービスを導入する際は、供給者との共同作業を検討する必要はないですが、その他の項目について取得の方法によらずにまとめておくとよいでしょう。
RFPの作成
こうした取得計画をもとに、提案依頼書(Request For Proposal:RFP)を作成し、システム会社に送ることで、これから開発しようとするシステムに対して広く提案を募ることができます。
また、このRFPの作成とともに提案評価基準を作成しておくことで、評価基準が取得者側・供給者側で明らかになり、より公平な選定を行うことができます。
RFPについては、下記の記事もご参照ください。
供給者の決定
供給者への通知
供給者となるシステム会社が決定したら、その会社にシステム開発やサービス提供の依頼を出します。
契約の締結
供給者への通知を行い、供給者も開発やサービスの提供を了承した場合は、契約の締結に入ります。
この契約締結の際、改めて以下の点を確認し、当初の提案通りの内容で問題がないか確認するとよいでしょう[6]共通フレーム2013、96頁。。
- 費用
- スケジュール
- 取得要件
- ライセンス等の権利
- 責任分担
以上の内容に問題がなければ、取得者と供給者は契約を締結し、プロジェクト開始となります。