「イシュー度」「解の質」から取り組む生産性の高い問題解決の方法 ~安宅和人『イシューからはじめよ』から学ぶ~
問題や課題を解決しても状況が良くならないのは何故か?
問題や課題を解決しても解決しても、状況が一向に良くならないということはないでしょうか?
それは「イシュー度」の低い問題・課題にばかり取り組んでいるからかもしれません。
今回は『イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」』を参考に、生産性の高い問題解決・課題解決の方法を解説していきます[1]安宅和人『イシューからはじめよ ― 知的生産の「シンプルな本質」』英治出版株式会社、Kindle 版。以下『イシューからはじめよ』と略記。。
問題解決の中で、「問題」「課題」という用語が頻出しますが、これらの違いは何なのでしょうか。
問題とはありたい姿と現状とのギャップや起きている現象のことを指します。
他方、課題とは、問題を解決するために、個人・組織が主体的に解決することを意思表明したテーマ・仕事を指します。
詳しくは下記の記事もご参照ください。
生産性を高めるために、バリューを考える
生産性が低い状況
問題や課題を解決しても、状況が変わらないのであれば、それはかけた時間に対して得られる効果が小さい、とても生産性が低い状況であると言えます。
そのような状況になっているのは、取り扱っている問題や課題が悪いからかもしれません。
『イシューからはじめよ』で「世の中で『問題かもしれない』と言われていることの総数を100とすれば、今、この局面で本当に白黒をはっきりさせるべき問題はせいぜい2つか3つくらいだ」と書かれているように[2]『イシューからはじめよ』(Kindle版、位置No.276-277)、取り組むべき問題や課題は限られています。
バリューのマトリクス
取り組むべき問題や課題を考える際に『イシューからはじめよ』で紹介されているのが、バリューのマトリクスです。
バリューのマトリクスは「イシュー度」と「解の質」の2軸で、構成されています。「イシュー度」はその問題や課題に取り組むべき必要性、「解の質」は取り組む問題や課題に「どれだけ明確に答えを出せるか?」という度合を意味します。
この両者が高い問題や課題こそ、解決しやすく、得られる効果(バリュー)の高い、すなわち生産性の高い問題・課題です。
取り組む順番
人間はどうしても易きに流れてしまうため、問題や課題に取り組む時でも対応に自信のあるもの、つまり「解の質」が高いものを優先しがちです。
しかし、取り組みやすいからといってイシュー度の低い問題や課題をいくら解決しても効果を上げられません。
そのため、イシュー度の高い問題や課題、すなわち問題の根本原因となっている「イシュー」を探し、優先して対応することが大切です。
よいイシューの3条件
では、どのようなイシューに対応すればよいのでしょうか?
『イシューからはじめよ』では、解決した時に得られる効果の高い、取り組むべきイシューを「よいイシュー」と呼び、3つの条件を挙げています。
ここからはその条件を解説していきます。
条件1:本質的な選択肢である
「本質的な選択肢である」とは、イシューについての答えが出ると、その先の方向性が大きく変わる選択肢であることを意味します。
『イシューからはじめよ』では、コンビニエンスストアの例を出して、具体的に説明しています。
あるコンビニエンスストアチェーンにおいて、「全体の売上が下がっている」という場合、最初のイシューのひとつは「〈店舗数が減っている〉のか〈1店舗あたりの売上が下がっている〉のか」というものになるだろう。前者であれば店舗開拓スピードや店舗の退店・フランチャイズ離脱率が課題になり、後者であれば店舗のつくりや運営方法が問題になる。
『イシューからはじめよ』 (Kindle版、位置No.562-565)
このように、その先の方向性が決まるイシューがよいイシューです。
条件2:深い仮説がある
深い仮説とは常識を否定するものであるとされています。
『イシューからはじめよ』では、ここでもビジネスにおける具体的な例を示しています。
『イシューからはじめよ』 (Kindle版、位置No.634-638)
- 「拡大していると思われている市場が、先行指標では大きく縮小している」
- 「より大きいと思われているセグメントAに対し、収益の視点ではセグメントBのほうが大きい」
- 「販売数中心で競争している市場だが、実は販売数のシェアが伸びるほど利益が減る」
- 「コア市場のシェアは拡大しているが、成長市場のシェアは縮小している」
このように常識を否定するような仮説を立てなければなりません。
なぜなら、一般的に考えられていることが覆るような仮説は、立証した時に高い効果が期待されます。
そのため、深い仮説があるイシューに優先的に取り組むことが大切です。
条件3:答えを出せる
仮説を立てたとしても、答えが出ないものはよいイシューにはなりません。先ほども述べたとおり、答えの出せる可能性が低い問題に取り組んでいても、時間の無駄になってしまいます。
そのため答えが出せるイシューを探す必要があるでしょう。
よいイシューを見つけるために情報収集をする
仮説を立てるために情報を集める
仮説を立て答えを導き出せるのが、よいイシューの条件でした。
仮説を立てるためには、仮説の元となる材料が必要です。具体的な材料がなければ、仮説として相手を説得することもできません。
具体的に必要な材料とは情報です。ではどのように情報を集めればいいのでしょうか。
情報収集のコツ
安宅氏は情報収集のコツとして「一次情報に触れる」「基本情報をスキャンする」「集め過ぎない・知り過ぎない」の3つを挙げています。
一次情報に触れる
一次情報とは加工されていない情報のことで、主に政府やマスメディアなどが発表している情報です。たとえば雇用統計や経営者のインタビューが一次情報として挙げられます。
これをもとに情報を加工し、作成された「若者の失業率」や「経営書」などの出版物が二次情報の代表例です。
二次情報から仮説を立てにいく人は多いですが、そもそも二次情報は間違っている可能性があります。
参考になりそうな二次情報が見つかった場合には、必ず参照している一次情報を確認して、材料として活用しなければなりません。
一次情報は仮説を作る材料としてだけでなく、今まで気づかなかったことを理解するきっかけになる場合もあります。一次情報を見ているだけで、新たなイシューを発見することも多いです。
基本情報をスキャンする
「基本情報をスキャンする」とは、世の中の常識や基本的なことを調べてまとめておくことです。ビジネスであれば業界内の常識や基本情報をまとめておくことが必要でしょう。「集め過ぎない・知り過ぎない」は、情報を集めればよいというものではないことを示しています。
集め過ぎない・知り過ぎない
情報があることで、反対に選べないことも多々あるのです。また知り過ぎたことにより、情報に縛られてしまい、よい仮説が立てられないこともあります。集め過ぎや知り過ぎには十分注意しましょう。
ストーリーラインの作成と分析
「解の質」を高める
よいイシューを見つけた後は、「解の質」を高めていきます。
上述のとおり、「解の質」とは、「どれだけ明確に答えを出せるか?」という度合を意味しています。そのため、「解の質」が高くなければ、イシューを十分に解決することができません。
『イシューからはじめよ』では、「解の質」を高めるためにストーリーラインと絵コンテが重要だと書かれています。
ここからはストーリーラインと絵コンテの作成について解説していきます。
ストーリーラインの作成
ストーリーラインを作るためには、イシューを小さな課題に分解して、それぞれの課題に対してストーリーを組み立てることが必要になります。
あまりにも課題が大きすぎて、なかなか解決できない場合は、その課題を分解しそれぞれに対して仮説を立て、ストーリーラインを組み立てなければなりません。
『イシューからはじめよ』では、ストーリーラインを組み立てる方法として、「WHYの並び立て」か「空・雨・傘」の2つを挙げています。
「WHYの並び立て」は最終的に言いたいことに対して、その理由と具体的な方法をならべるやり方です。
一方、「空・雨・傘」は課題の確認をして深掘りし、結論につなげていくというやり方です。たとえば「空が晴れていれば、雨が降らないだろうと考え、傘は持っていかない」という流れになります。
絵コンテの作成
これら2つの方法を使って作ったストーリーに対して、絵コンテを作成します。絵コンテは分解した課題のストーリーラインに沿って、そのイメージをならべていくものです。つまりストーリーラインの仮説を検証するためのデータを示していく作業になります。
そして最終的に仮説の検証をしていくことで課題解決につながるのです。また最終的にはその結果を相手に伝える必要があるため、人に伝わる形で書かなければなりません。
イシューは常に生まれ続ける
今回は生産性の高い問題・課題の取り組み方を紹介してきました。
問題解決や課題解決の生産性を高めるには、よいイシューを見つけ、ストーリーラインや絵コンテを作成して取り組んでいきます。
このように問題や課題を解決していっても、問題・課題は常に生まれ続けるものです。
しかし今回紹介したように、今答えを出さなくてもいい問題・課題も多くあります。
そのため新しい問題や課題が出てきても、そもそも今取り組むべきなのかどうか、また課題として適切なのかどうかの「イシューの見極め」が必要になってきます。
ここでまとめた「イシューの見極め」と仮説の立て方を参考に、よいイシューを見つけて解決に取り組んでいってください。