アリババとはどのような会社か?成長の原動力であるスマートビジネスを解説

2021年10月15日

アリババとは?

アリババは中国のIT企業で、現在アジア最大の企業と言われています。
しかし、日本になじみがないことから、アリババについてはあまり全容がわかりません。
アリババはどのような企業で、何故大きくなったのでしょうか?
今回は『アリババ 世界最強のスマートビジネス』から、アリババ急成長の理由をざっくりと解説していきます。

創業者ジャック・マーと著者ミン・ゾン

まずは創業者のジャック・マーとこの本の著者であるミン・ゾンについてご紹介します。
アリババの創業者であるジャック・マーは大学卒業後、英語教師として働いていましたが、通訳としてアメリカに渡ってWeb技術に触れたことをきっかけに、帰国後1999年にeコマースを運営する「アリババ」を設立しました。
2003年には中国版Amazonとも呼ばれる「タオバオ」を設立し、その後多角的に事業を展開していき、アリババグループを形成していきます。

ジャック・マーの写真

そんなジャック・マーが経営戦略のアドバイザーとして声をかけたのが、著者のミン・ゾンでした。
ミン・ゾンはもともと経営学の研究者で、1998年イリノイ大学で国際経営戦略の博士号を取得した後、ヨーロッパのビジネススクール・INSEDで準教授として勤めはじめます。
ミン・ゾンは2002年に中国初の民間ビジネススクール・長江商学院の初代教授に選ばれたことをきっかけに、中国に戻ってきます。
そして2006年にジャック・マーからアリババで働かないかという電話を受け、アリババに入ることになります。

アリババの「総参謀長」と呼ばれたミン・ゾンはアリババの経営戦略を策定していきますが、この『アリババ 世界最強のスマートビジネス』では、どのような経営戦略のもとにアリババが事業を拡大していったかが描かれています。
自らの経営戦略を、経営学者であるミン・ゾン自身が解説しているという大変面白い内容になっており、単なる回顧録に終わっておらず、洞察に富んでいます。

アリババの目標とビジネス

本の中でミン・ゾンは、「アリババが目指すのは、機械学習からモバイル・インターネットやクラウドコンピューティングまで、最先端のテクノロジーを活用してビジネスのあり方に根本的変革をもたらすことだ」と述べています[1]ミン・ゾン(著)、土方奈美(訳)『アリババ 世界最強のスマートビジネス』文藝春秋、2019年、20頁。
この目標のためにアリババがどのようなビジネスをしているかというと、ミン・ゾンは「小売業にかかわるすべての機能を果たすために、出店者、マーケティング会社、サービスプロバイダー、配送会社、メーカーから成るオンライン上の大規模でデータドリブンなネットワークを調整(コーディネーション)する会社だ」と述べています[2]同書、20頁。
しかし、ミン・ゾンはアリババは多くの人にビジネスを誤解されているとも本の中にたびたび記しています。
アリババは「中国版Amazon」と紹介されることがよくありますが、これは正確な表現ではなく、アリババの展開するサービスは小売業をしているのではなく、小売業を含めたさまざまなユーザーが出会う場所を提供しています。
ここがアリババの特徴です。

アリババビジネスの肝

ミン・ゾンはアリババが展開するビジネスの肝は「スマートビジネス」だとし、以下のように定義しています[3]同書、38頁。

  • ネットワーク・コーディネーション + データインテリジェンス = スマートビジネス

ここからは、「ネットワーク・コーディネーション」「データインテリジェンス」そして「スマートビジネス」について詳しく見ていきましょう。

ネットワーク・コーディネーション

まずはネットワーク・コーディネーションから見ていきましょう。ネットワーク・コーディネーションとは、複雑な事業活動を分解し、複数の人や企業で分担して効率的に行うことです。
これは世界最大のオークションサイト・ebayとアリババのサービスの1つワンワンを比べると、ネットワーク・コーディネーションが何なのかがわかってきます。
ebayは買い手と売り手はebayを介してのみコミュニケーションがとれ、お互いの情報は隠されたままです。
しかし、ワンワンはebayと同じように売り手と買い手をつなげるオンラインサービスであるものの、売り手と買い手は自己責任に基づく直接取引を行います[4]同書、69頁。
つまり、ワンワンは売り手と買い手がつながれる場を提供しているということです。
これがスマートビジネスの一翼であるネットワーク・コーディネーションです。
なぜアリババがこのネットワーク・コーディネーションを進めたかというと、それは会社として必要な機能のすべてを用意するための時間も能力も資金もなかったためだとミン・ゾンは語ります[5]同書、52~53頁。
ここに新しくサービスを立ち上げたGAFAのようなIT企業と、既存の産業を再編成したアリババとの違いがあります。

データインテリジェンス

さきほどのネットワーク・コーディネーションを支える機能として、ミン・ゾンはデータインテリジェンスを挙げています。「データの知性」と訳せるこの機能は、その名の通りあふれるデータを解析し、意思決定を自動化するものです。
データインテリジェンスはビッグデータや機械学習を用いて実現します。

スマートビジネス

産業を再編するネットワーク・コーディネーションとそのネットワークを支えるデータインテリジェンスによってアリババはスマートビジネスを実現しました。
本の中ではさらにスマートビジネスについて詳しく説明がなされており、スマートビジネスを駆使するスマート企業になるための第一歩は意思決定の自動化だとしています。
そして、意思決定の自動化には、以下のような5つのステップを経て実現するとしています[6]同書、104頁。

ステップ主なアクション
物理的世界をデータ化する設備や資産をオンライン化する
事業をソフトウェア化する意思決定プロセスを符号化する
データフローを確保するデータの接続を確保するため、APIを定める
データを完全に記録する「ライブデータ」を完全に記録する
機械学習アルゴリズムを投入する調整し、最適化する

アリババを見習い、新たなビジネスを始めようとする時は、この意思決定の自動化の5つのステップを踏むように、ビジネスモデルを設計していきたいですね。

1ミン・ゾン(著)、土方奈美(訳)『アリババ 世界最強のスマートビジネス』文藝春秋、2019年、20頁。
2同書、20頁。
3同書、38頁。
4同書、69頁。
5同書、52~53頁。
6同書、104頁。