夢をかなえるために必要な資質 ~『アルケミスト』のサンチャゴから考える~

2024年1月22日

パウロ・コエーリのベストセラー『アルケミスト』は夢や冒険、自己探求に関するテーマを扱っており、読者に希望や啓示をもたらすメッセージが込められています。
主人公のサンチャゴはさまざまな困難に遭いながらも、自分の夢をかなえます。

では、なぜサンチャゴは夢をかなえることができたのでしょうか?
『アルケミスト』では、サンチャゴと周囲を比較して、どのような人物が夢を実現させられるかを提示しているように思われます。

今回は、サンチャゴと周囲を比べながら、夢をかなえるために必要な資質を考えていきます。

羊との対比

『アルケミスト』では、物語の冒頭から、羊との対比を通じて、サンチャゴがどういう人物であるかを説明しています。
羊飼いであるサンチャゴは多くの羊を飼っていましたが、その羊たちは日々の食事のことを考えるだけで、人生について考えることも、自分自身の進路を考えることもありません。

一方、サンチャゴは親が決めた人生ではなく、自分自身の意思で旅に出ることを決意し、羊飼いになりました。

夢をかなえるには、自分自身の人生について考え、自分の意思で進む方向を決めなければなりません。

パン屋

エジプトのピラミッドに宝があるという夢を見たサンチャゴは、夢を解釈する老女の勧めもあって、エジプトへ旅に出たいと考えますが、すぐには決心がつきませんでした。
そんなサンチャゴは、セイラムの王と偶然出会い、さまざまなアドバイスを受けます。

セイラムの王は、近くのパン屋を例に出し、多くの人が「自分自身が何がしたいか」ではなく、「自分が周囲からどう思われるか」を判断の軸にしていることを伝えます。
一方、セイラムの王はサンチャゴが自分の運命を実現しようとする人物であると言い、それゆえに、セイラムの王自身も、周囲も協力をすると語ります。

自分の運命を実現しようとする者に、周囲は協力するというのは、本書で繰り返し語られるメッセージです。

クリスタル屋の主人

ピラミッドに行き、宝を見つけるという自分の夢を実現するために、サンチャゴはアフリカに渡ります。
そこでサンチャゴは詐欺にあい、無一文になってしまいます。
しかし、サンチャゴはくじけず、ピラミッドに向かうための資金を貯めるためにクリスタル屋で働き始めます。
サンチャゴのおかげでクリスタル屋は繁盛し、サンチャゴはさらに事業のアイデアをクリスタル屋に提案します。しかし年老いた主人は、もう新しい変化についていけるような気力はなく、お店が繁盛して幸せになるどころか、自分がもっとできると思いながら、それをやる気がないことに不幸を感じていました。

クリスタル屋の主人の姿は、先ほどのパン屋のような生き方をした一つの結果でもあります。
年齢とともに気力が衰えることは仕方がありませんが、だからこそ、若いうちに挑戦をしなければならないということかもしれません。

錬金術を研究するイギリス人

クリスタル屋でお金を貯めたサンチャゴはピラミッドに向かいます。
その道中でサンチャゴは錬金術を研究するイギリス人に出会い、錬金術の本を借ります。
イギリス人は錬金術を難しく考えていましたが、サンチャゴは錬金術を学ぶ中で、ものごとはとても単純なことであるという考えに行き着きました。

イギリス人はそんな考えに至ったサンチャゴに失望するものの、錬金術師に出会い、錬金術の奥義を体得したのはサンチャゴの方でした。

『アルケミスト』の物語では、金を作り出す一般的な錬金術はサンチャゴの師匠の錬金術師しか使わず、サンチャゴが体得した錬金術というのは、自然と世界を理解するというものです。

部族戦争の難民

さまざまな困難を乗り越え、サンチャゴはピラミッドに辿り着くものの、ピラミッドに宝はなく、そこにいた部族戦争の難民たちに襲われ、身ぐるみをはがされてしまいます。
難民の一人はサンチャゴに、自分もスペインの祭壇に宝が眠っているという不思議な夢を繰り返し見たこと、そして、そのような夢を見たからといって砂漠を横断するほど愚かではないと言い放ちます。

しかし、この難民の言葉から、サンチャゴはどこに宝が眠っているか気づきます。
宝はサンチャゴがエジプトのピラミッドの夢を見た祭壇にあったのです。
サンチャゴは祭壇に戻り、宝を見つけ出し、将来を約束した女性のもとに向かうところで物語は終わります。

このように、『アルケミスト』では物語の最後で、繰り返し見た夢のことを考え、行動に移したサンチャゴと、夢を見ながらも何も行動しなかった難民との対比がなされています。

まとめ

以上のように、『アルケミスト』では、サンチャゴと周囲を比較することで、夢を実現させるために何が必要なのかを伝えようとしています。
物語の中で「羊をあきらめて自分の運命を生きようとした勇気と、クリスタルの店で働いていた時の彼の熱心さ」がサンチャゴの一番強力な資質だという一節がありますが、夢を実現するための資質はこの言葉に端的にまとめられています。

忘れてはいけないことは、夢を実現するからと言って、何もかも放り出して生きていいわけではありません。
このことについては、下記の『幸福の秘密』の記事もご参照ください。