デザインの認識のズレによるトラブルの対処法と発注前に気を付けたいこと
トラブルの絶えないデザインに関するプロジェクト
プロジェクトのトラブルで最も件数が多いのは、デザインに関するものではないでしょうか。
私がLancersでプロジェクトに関するアンケート[1]【全10問・所要時間5分程度】プロジェクトマネジメントやディレクションでのトラブルに関するアンケートの仕事・依頼・料金 | … Continue readingをとったところ、そのデザインのトラブルの中でも、「デザインの認識のズレ」が原因のトラブルが多く発生しているように思われます。
では、このようなデザインの認識のズレに関するトラブルを防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。
今回は「デザインの認識のズレ」に関するトラブルの対処法と発注前の事前確認について考えていきます。
「デザインの認識のズレ」によるトラブルの事例
まずはアンケート結果から、「デザインの認識のズレ」によりどのようなトラブルが発生したのかを見ていきましょう。
トラブルの内容を列記すると以下のようになります。
- 注文したデザインと違った
- 初期打ち合わせの思い込みから発生した、注文時に決定していたデザイン案の変更があった
- クライアントと制作側のデザインイメージの相違によるトラブルが発生した
- 提出されたWebデザインが自社のイメージとかけ離れていた
- 発注前の準備不足により、デザインや仕様が意図したとおりできず、更に納期の遅延が発生した
このようにトラブルの内容を見ていくと、デザインの認識のズレによるトラブルの原因は以下の3つの種類に分けられそうです(話をわかりやすくするために、デザインを依頼する人・会社・組織を「発注側」、発注側からデザインを依頼された人・会社・組織を「制作側」と呼んで話を進めていきます)。
- 発注側と制作側の情報共有不足
- 制作側のスキル不足
- 発注側の準備不足
ここからは、これら3つの種類を踏まえて、認識のズレによるトラブルの対処法や発注前の確認事項を考えていきましょう。
トラブルの対処法
認識のズレをなくすために打ち合わせを開く
デザインのプロジェクトのトラブルの原因として最も多いのは、発注側と制作側の認識のズレです。
この問題への対処ができるだけで、トラブルを早期に鎮めることができます。
多くの場合、発注側と制作側の認識のズレは発注側の依頼の不十分さと制作側のヒアリング不足に起因します。
これを解消するためには、クラウドソーシングの依頼画面にあるような、デザイン作成の質問シートを使ってみるといいかもしれません。
例えばLancersの依頼画面ではデザインイメージを以下の質問でつかもうとしています。
- シンプル ― 複雑
- 単色 ― カラフル
- 暗い ― 明るい
- 日常 ― 高級
- 遊び心 ― 厳粛
- 未来的 ― 伝統的
- 女性的 ― 男性的
トラブルがおこった際には、こうした項目に従って、お互いの認識にズレがないかをあらためて確認していきます。
最終的なデザインの決定者を確認する
デザインの認識のズレによるトラブルが発生したら、発注側の「誰」と認識がズレているのかを確認する必要があります。
なぜなら、発注側の担当者は制作されたデザインをよいと思っていても、制作側のステークホルダー、例えば社長や部長が首を横にふっている場合があるからです。
認識のズレをなくす打ち合わせをしたとしても、最終的な意思決定者との認識が合わせられなければ意味がありません。
そのため、発注側・制作側で協力し、最終的な意思決定者がいる中での打ち合わせを実施し、今回のプロジェクトの目的やデザインの意図の認識合わせをするとよいでしょう。
デザイン会社・事務所を変更するタイミング
先ほどのデザインイメージを共有しても、制作側のスキル不足によって意図したデザインができあがらないことがあります。
例えば「明るい」イメージを依頼しているのに、黒っぽいデザインが送られて来たりした場合は、思い切ってデザイン会社やデザイン事務所を変えてしまったほうがよいかもしれません。
プロジェクトの途中でデザイン会社やデザイン事務所を変える場合、新しい依頼先の見るべきところは過去の実績です。
「あなたが過去にデザインした○○のようにしてくれ」というのが一番簡単で誤りが少なく、時間効率のよい方法になります。
発注前に気を付けたいこと
RFPを作成する
ここまではデザインの認識のズレによるトラブルがおこった時の対処法を考えてきましたが、ここからはそもそもトラブルがおこらないように発注側が事前に何をすべきかを考えていきます。つまり、発注側の準備不足によるトラブルの予防です。
発注側の準備不足によるトラブルを防ぐ最大の方法は、RFPを作成することです。
RFPとは業務委託を行うにあたり、発注先候補の事業者に具体的な提案を依頼する文書のことで、平たく言えば「これからデザインしてもらうものがあるから、提案してね」という文書をまとめたものです。
このRFPを告知し、デザイン会社やデザイン事務所からの提案を受けることで、目的に沿ったデザインを取得する可能性が上がります。
それだけでなく、RFPを作成する過程で発注側の認識も整理され、発注側の中で認識がズレたままプロジェクトが開始されるということもなくなります。
ビジネスの目標を盛り込む
RFPに盛り込む内容は、すでにご紹介したデザインイメージに加え、ビジネスの目標を記述しておいたほうがよいでしょう。
例えば、以下の項目をRFPに記載していきます。
- デザイン物の内容
- 目標
- 主なユーザー
- デザインイメージ
- イメージしている他社のデザイン物
とくに「目標」と「主なユーザー」は重要です。
例えば、同じ「ロゴを制作する」というプロジェクトであっても、目標が「ブランドイメージの確立」なのか、「認知度のアップ」なのかでデザインされるものは変わってきます。
また、ターゲットとするユーザーが異なれば、それもデザインの方向性に影響していきます。
こうした情報が発注側でしっかりとまとめられ、制作側に共有されていなければ、「デザインはいいんだけど、なんか会社の方向性にあってないんだよな~」という結果になってしまいます。
このようなトラブルを防ぐため、目標とユーザーを明確にし、デザインの検討も、この2つの軸を中心に進めていくとよいでしょう。
目標・ユーザーを定めることで、他のトラブルも防ぐことができる
デザインの目標・ユーザーを明確にすることで、もめごとの多いデザインのプロジェクトから様々なトラブルを取り除くことができます。
デザインのプロジェクトでもめる原因となるのが「パーキンソンの(凡俗)法則」です。パーキンソンの法則によると、人間は理解が難しい議題にはあまり口を出しませんが、わかりやすい話の議論には熱を入れます。
デザインというのは見た目で判断できるため、誰もが口を出しやすいトピックです。そのため、パーキンソンの法則が働き、内容の割には口をはさむ人が多く、方針が定まらないということになりがちです。
しかし、こうしたトラブルも目標やユーザーを定めることによって解消可能です。つまり、「私たちは何が好きか?」を会議で議論するのではなく、「私たちの目標は何か?」そして「ユーザーが求めているものは何か?」を軸に議論を進めることが大切です。
「目標を達成するためにどのようなデザインが必要か」というのはデザイン理論を体得したデザイナーでないと話しづらい内容ですし、「ユーザーが何を求めているか」はデータの裏付けがなければ話になりません。
こうして会話のレベルを上げることは、安っぽい議論の発生を抑制し、ひいてはプロジェクトの成功確率を上げることにもつながります。
さいごに
今回はデザインの認識のズレに関して対処法と発注前の注意事項を考えていきました。
今回の内容をまとめると以下のようになります。
- デザインの認識のズレがおこる原因
- 発注側と制作側の情報共有不足
- 制作側の技術力不足
- 発注側の準備不足
- トラブル発生時の対処法
- 質問シート(ヒアリングシート)を使って再度打ち合わせ
- 意思決定者を確認し、会議に出てもらう
- どうしても制作側の変更が必要なら、過去の実績で判断する
- 発注前の注意点
- RFPを作成する
- ビジネスの目標を明確にする
- 目標・ユーザーを明らかにすることは会話の質をあげ、プロジェクトの成功確率を上げる
デザインのプロジェクトというのは、数あるプロジェクトの中でもトラブルの多い部類に入ります。
今後もトラブルの対処法や予防法があれば投稿していきます。