サイバーフィジカルシステム(CPS)とは何か?IoTとの違いも含めて解説

2023年2月24日

サイバーフィジカルシステム(CPS)とは

サイバーフィジカルシステム(CPS:Cyber-Physical System)は、現実世界(フィジカル空間)におけるセンサーネットワークが生み出す膨大な観測データなどの情報を利用し、仮想空間(サイバー空間)にてコンピューター技術を活用し定量的に分析を行うことで、経験や勘に頼っていた事象を効率化し、新産業の創出、社会システムの効率化を目的としたあらゆる産業への活用を行う取り組みです。
AI技術を始めとするIT技術(サイバー)が分析し、駆動系(フィジカル)を稼働させることが語源であり、ロボットやドローン技術についてもサイバーフィジカルシステムがベースとなっています。

サイバーフィジカルシステムを実現するためには、現実世界による物理的な情報収集と、仮想空間における高度なコンピューティング能力が必要となり、基本的には以下のサイクルで進行していきます。

  • 現実世界にてセンサーネットワークを用いて膨大なデータを収集する
  • 収集したデータをクラウド上のサイバー空間に蓄積する
  • 仮想空間にてコンピューティング能力により分析が行われる
  • 分析結果を現実空間にフィードバックする

この一連のサイクルを繰り返すことで、ビックデータやAI技術を用いた分析結果を現実世界にフィードバックし活用される仕組みとなっています。

サイバーフィジカルシステム(CPS)が注目される理由

サイバーフィジカルシステムが注目されている理由には、データを定量化しフィードバックする仕組みにより、客観的知識をベースに現実世界の様々な課題や改善に取り組める点にあります。
サイバーフィジカルシステムの考え方が注目される主な理由は以下の通りです。

組み込みシステムの複雑性の増大

近年、複雑さが急速に拡大している組み込みシステムにより、既存の設計手法では高品質なシステムを作り上げることが困難となっています。
航空分野や自動車分野など、システムの不具合によって人間の安全にも影響を及ぼす要素が大きくなってきており、現実世界と仮想空間の双方を包括できる設計手法が求められています。

社会のインフラにIT基盤が活用されている

自動車や航空機などの単体の機器制御だけでなく、社会システムのインフラとしてもIT基盤が組み込まれるようになってきています。
様々な産業においてITが活用されており、複雑な社会システムにおいて安全かつ効率的に設計、運用を行う重要性が増加しています。

サイバーフィジカルシステム(CPS)を可能とする技術の発展

サイバーフィジカルシステムは以前から存在しており、半導体の製造や化学プラントなどの分野で活用されていました。しかし、導入や維持管理コストが膨大であるため、費用対効果として他分野への活用は行われていない状態でした。
近年では、複雑なサイバーフィジカルシステムを可能とする要素技術が発展しており、センサー技術やネットワーク環境、データ解析技術の発達により、様々な分野での活用が比較的安価に行えるようになってきています。

サイバーフィジカルシステムとIoTとの違い

サイバーフィジカルシステムと類似の概念としてIoT(Internet of Things)があります。
IoTでは、コンピューターだけでなく、スマートフォンやタブレット、家電といったあらゆる製品(モノ)がセンサーを備えたデバイスとなり、膨大な情報がインターネットを介して伝達されることです。
サイバーフィジカルシステムとの違いとして、IoTがクラウドなどの仮想空間に「つながる」ことを強く意識しているのに対し、サイバーフィジカルシステムでは仮想空間上で分析、解析した結果の現実世界へのフィードバックまで含めていることです。
膨大なデータを獲得するIoT技術はサイバーフィジカルシステムには不可欠な要素であるものの、IoTだけではサイバーフィジカルシステムを実現できるものではありません。

サイバーフィジカルシステムとIoTの違い
  • IoT:仮想空間とモノがつながることを意識している
  • サイバーフィジカルシステム:仮想空間上で分析、解析した結果の現実世界へのフィードバックまで含めている

サイバーフィジカルシステム(CPS)の活用事例

ここからはサイバーフィジカルシステムの活用事例を紹介していきます。

製造業などのスマート化

市場ニーズの多様化により、製造業では設計、部品管理、在庫管理なども複雑化しています。
生産の自動化や製造ラインでのトラブル検知、コストダウンなどへの対応として、サイバーフィジカルシステムが活用されています。

工場内にある設備や機器、従業員などのモノやヒトにセンサーを取り付け、データの収集と分析を行い生産性の向上に繋げることで、問題点や作業状況の可視化だけでなく、ロボットによる生産ラインの自動化を実現します。コストダウンについては、サイバーフィジカルシステムによるエネルギーの可視化による省エネ意識の向上や生産ライン設計の高度化、効率化を実現できます。

農業分野での活用

トラクターなどの農作業機の自動運転やハウスの湿度、天候監視システムなど、農業分野におけるシステム化が増加しています。圃場に設置したセンサーから情報を収集し、蓄積したデータを分析した結果を元に必要な農作業を作業者に伝えるシステムもあり、これまでの熟練者の勘や独自の技術で行われてきた農作業を、客観的なデータを元としたノウハウとして新規就農者に伝えることを可能とします。

デジタル・トリプレットへの応用

デジタル・トリプレットの概念図の画像
デジタル・トリプレットの概念図

今回はサイバーフィジカルシステムについて解説してきました。
IoT技術が注目される昨今ですが、サイバーフィジカルシステムはさらに歩みを進め、現実世界へのフィードバックまで想定しています。

日本では「日本版インダストリー4.0」と呼ばれるデジタル・トリプレットの研究が進められています。
デジタル・トリプレットもサイバーフィジカルシステムの研究の上に成り立っているため、下記の記事もぜひご覧ください。

参考