PMBOK第8版のガバナンス・パフォーマンス領域を読み解くシリーズ。今回は、7つ目のプロセスである「2.1.6.7 プロジェクト・パフォーマンスの監視・コントロール(Monitor and Control Project Performance)」について解説します[1]Project Management Institute, Inc., The Standard for Project Management and A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, 第2部 … Continue reading。
計画を作り(統合と整合)、それを実行に移した後は、それが「本当にうまく進んでいるのか?」「計画通りに価値を生み出しているのか?」を追跡し、必要に応じて軌道修正を行う必要があります。このプロセスは、まさにその役割を担っています。
「監視」と「コントロール」の明確な違い
このプロセスの主な目的は、プロジェクト全体の進捗状況を追跡、レビューし、ステークホルダーに報告して「現在の状態」と「将来の予測」を可視化することです。
PMBOKでは、「監視」と「コントロール」を以下のように明確に定義しています。
- 監視(Monitoring): プロジェクトの健全性を維持し、問題が起きそうな領域を特定するために、データや傾向を継続的に収集・測定・評価すること。(現状把握)
- コントロール(Controlling): 監視で見つけたパフォーマンスの問題を解決するために、是正措置や予防措置を決定し、再計画を行い、アクションをフォローアップすること。(軌道修正)
監視・コントロールにおける具体的な活動内容
このプロセスでは、単に数値を眺めるだけでなく、具体的に以下のような多角的な活動を通じてプロジェクトを適切な軌道に保ちます。
- パフォーマンスの比較評価: 計画と実際のパフォーマンス(進捗や品質など)を比較する。
- 資源と予算の追跡: リソースの利用状況、完了した作業量、消費した予算をトラッキングする。
- アカウンタビリティ(説明責任)の提示: 誰が何に責任を持っているのかを明確にし、報告する。
- ステークホルダーへの情報提供: 現在の状況や将来の予測をタイムリーに共有する。
- ベネフィットの評価: 成果物が、当初計画された「ベネフィット(価値)」をもたらす軌道に乗っているかを確認する。
- 対話の実施: トレードオフ(何かを優先して何かを犠牲にする判断)、脅威や機会、選択肢に関する対話を行う。
- リスクの評価と対応: 現在のリスクを評価し、新たなリスクを特定し、対応状況を監視する。
- 受け入れ基準の確認: 成果物が顧客の要件(受け入れ基準)を満たしているかを確認する。
- ソーシング戦略の更新: プロジェクトの目標や制約をより良く満たすために、必要に応じて外部調達(ソーシング)の戦略を見直す。
第8版の目玉:「測定の落とし穴」に気をつけろ

この「監視・コントロール」という概念自体は、プロジェクトマネジメントにおいて昔から存在しています。しかし、第8版の非常に面白いところは、「ただ単純に数値を追うだけではダメだ」と明言し、認知バイアスや統計の罠にまで踏み込んでいる点です。
監視には「測定(Measurement)」が不可欠ですが、PMBOK第8版では「測定の落とし穴(Measurement Pitfalls)」として、注意すべき6つのリスクを具体的に警告しています。
- ホーソン効果(Hawthorne effect):
「測定されている」という事実そのものが、人の行動を変えてしまう現象です。例えば、成果物の「量」だけをKPIにすると、チームは品質や顧客満足度を無視して、ただ大量の成果物を作ることに集中してしまいます。 - 虚栄の指標(Vanity metric):
データとしては見栄えが良いものの、実際の意思決定には役立たない指標です。(例:売上やコンバージョン率ではなく、単なるウェブサイトのPV数ばかりを追うなど)。 - 士気の低下(Demoralization):
達成不可能な目標や厳しすぎる指標を設定し続けると、チームは常に「失敗」を突きつけられることになり、モチベーションが著しく低下します。 - 指標の悪用(Misusing the metrics):
短期的な数値を良く見せるために長期的な目標を犠牲にしたり、「簡単にこなせるタスク」だけを優先して見かけのパフォーマンスを上げようとするなど、データを意図的に歪めることです。 - 確証バイアス(Confirmation bias):
人は「自分の先入観を裏付ける情報(都合の良いデータ)」ばかりを探し、「都合の悪いデータ」を無視してしまう傾向があるため、誤った解釈につながる危険性があります。 - 相関関係と因果関係の混同(Correlation vs. causation):
「AとBが同時に起きている(相関)」というだけで、「AがBの原因だ(因果)」と勘違いしてしまうことです。
例えば「スケジュールが遅延」かつ「予算が超過」している時、「遅れたからお金がかかった」と推測しがちですが、実際には「そもそもの見積もりスキルが不足していた」という別の根本原因が両方を引き起こしている可能性があります。
【SSAITSの視点】プロマネは数値の裏の「心理」を読め
これまで、「プロジェクト・マネージャー」という職種に対して、どこか「ガントチャートやExcelの数字と睨めっこし、書類だけでプロジェクトを管理する人」というイメージを持っていた方も多いのではないでしょうか。
しかし、この「測定の落とし穴」が示している通り、これからのプロマネは一般的なマネージャーと同じく、数値の裏側を考え、人間の心理にも精通する必要があります。
「この数値を目標にすると、メンバーはどんな心理になり、どう行動を変えてしまうだろうか(ホーソン効果)」「自分は今、見たいデータだけを見ていないか(確証バイアス)」といった視点を持つことが不可欠です。
もちろん、PM一人にすべての能力を求めるのではなく、プロジェクト・チーム全体として、この「統計的なリテラシー」と「人の気持ちを汲むスキル」を備えることが理想です。
数字に振り回されるのではなく、数字の意味を正しく読み解き、真の価値提供に向けてチームを統治(ガバナンス)していくこと。それが現代の監視・コントロールの真髄です。
認知バイアスや統計の見方ついては、下記の記事もご参照ください。
注
| ↑1 | Project Management Institute, Inc., The Standard for Project Management and A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, 第2部 セクション2.1.6.7(26-28頁)より筆者要約・翻訳。以下、PMBOK第8版(英語版)と略記。 |
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