クラッシングとは何か?プロジェクトの期間を短縮し、スケジュール遅延を防ぐ
クラッシングとは
クラッシングとはプロジェクトのクリティカルパス上の工程に追加の資源(ヒト、モノ、カネ)を投入して、予定していたスケジュールより短い工期で完了させる手法です。
簡単に言えば、プロジェクトを進める上で最もスケジュールに影響している工程に対してスタッフを増員したり、予算を増やしたりして、スケジュールを短縮させようというものです。
なぜクラッシングが必要なのか?
システム開発だけでなく、プロジェクトマネジメントをしていると「どうしても1カ月早く終わらせないといけなくなった!」という状況に出くわすことは少なからずあります。
「テレビの放送にあわせてWebサイトを公開したい」「新卒入社が予想以上に多かったので、早めにシステムを開発して教育したい」など理由はさまざまですが、プロジェクト期間の短縮は容易なことではなく、プロジェクトリーダーの悩みの種になってしまいます。
こんなスケジュール短縮で悩んだ時に使えるのがクラッシングです。
クラッシングのためのクリティカルパス法
クラッシングを用いるにはクリティカルパス法の知識が必須
上述の通り、クラッシングとはプロジェクトのクリティカルパスに対して、資源を投入し、スケジュールを短縮する方法です。
そのため、「クリティカルパスって何だ?」という状態ではクラッシングを用いることができません。
ここでクラッシングを使うために、クリティカルパス法についても触れておきましょう。
クリティカルパス法の概要
クリティカルパス法(critical path method)とは1950年代に大手化学品メーカーであったデュポン社で考案されたと言われています。
同様のアイデアとしては同時期にジェネラル・ダイナミクス社と海軍が考案したPERT(Program Evaluation and Review Technique)があります。
クリティカルパス法では「プロジェクトを完了させるまでに必要な全ての活動の一覧」、「各活動にかかる時間」、「活動間の依存関係」の3つの事項に焦点を当てて、プロジェクト完了までにかかる最長の経路を明らかにし、プロジェクト完了を延期せずにそれぞれの活動をスケジュールした場合の開始と終了の最も早い時期と最も遅い時期を求めていきます。
この「プロジェクト完了までにかかる最長の経路」こそがクリティカルパスです。
多くの場合、アローダイアグラムという図を用いて情報をまとめ、視覚的にもどこがクリティカルパスかが把握できるようにします。
クリティカルパス法を使ったクラッシングの例
ここからはクリティカルパス法を使ったクラッシングの例を簡単に見ていきましょう。
例えば身近なプロジェクトとして、友人同士でバーベキュー会を開くことを考えてみましょう。
STARTのAの時点から、どこに行くのかを考えるWの作業を1日かけて行い、Bの時点からお肉などの食材を買いに行くXの作業が1日、食材を買ったCの時点から仕込みを行うZの作業が2日発生するとします。また、Bの時点でバーベキューに必要な器材をネットでレンタルする(Zの作業をする)と、5日後に器材が到着するとします。
器材が揃い、食材の仕込みが完了した時点でバーベキューができるとすると、「バーベキューに行こう!」となってから何日後にバーベキュー会は開催できるでしょうか。
答えは6日後です。
Bの時点で友人と食材を取り扱うX・Zの作業と、Yの作業を分担しても、X・Zが合計して3日で終わるのに対し、Yの作業、つまり器材の到着まで5日もかかってしまいます。そのため、どこに行くのかを決めるWの作業と合計して、6日の時間がかかってしまいます。
このように、A・B・Dの流れが「バーベキュー会を開く」というプロジェクトの中で、最もプロジェクトのスケジュールに影響を与えています。これがクリティカルパスです。
では、「もっと早くバーベキュー会を開催したい」と友人が言い始めたらどうしたらいいでしょうか?
もしバーベキューの器材のレンタル会社が追加費用で器材の到着日数を3日にまで短縮してくれるのであれば、最初のWの作業と合わせても4日しかかかりません。
このようにクリティカルパス上の作業を短縮することによって、全体のスケジュールも短縮させるのがクラッシングです。
クラッシング以外のスケジュール短縮法
クラッシングはPMBOKでも紹介されるくらいポピュラーなスケジュール短縮技法の1つです。
このクラッシングと双璧をなしているのが、「ファスト・トラッキング」です。
クラッシングがクリティカルパス上でネックとなっている作業に充てる人数を増やすことによってスケジュール短縮を行おうとする一方で、ファスト・トラッキングは作業やアクティビティを並行実施することでスケジュール短縮を目指します。
このファスト・トラッキングについては、以下のページもご参照ください。
クラッシングを行う際は費用と必ず相談すること
以上、クラッシングはクリティカルパスに対して資源を投入し、スケジュールを短縮させる方法であることを見てきました。
クラッシングは突然のスケジュールの短縮要請に対し、一つの解決法を提示してくれます。
しかしクラッシングを行う際は、必ず費用対効果というものも念頭に置いておかなければなりません。
さきほどのバーベキュー会を開くという例で見てきたように、作業工程を短縮するために資源を投入すると多くの場合、追加料金などの費用が発生します。
クライアントからスケジュール調整を依頼され、このようなクラッシングを用いようという場合は、クライアントと相談し、追加料金の相談をするとよいでしょう。
どうしても追加料金が捻出できないという場合は、作業を同時並行させる「ファスト・トラッキング」の手法を用いてもよいかもしれません。この手法については、また別の機会に紹介したいと思います。