ベンチマークとは何か?ロバート・C・キャンプ提唱の手順を解説

2020年6月10日

ベンチマークとは

ベンチマークとは、基準とする品質や性能、時間やコストなどの値を意味します。
今日ベンチマークは経営戦略や財務分析など様々な分野で使用されているアイデアですが、IT業界で「ベンチマーク」といった場合は、もっぱらコンピュータに搭載されたハードウェアやソフトウェアの性能を評価するテストを意味します。
ベンチマークは各コンピュータを同じ条件でテストして、相対的な比較を行う際に使用されます。
「競合他社と比較すると自社製品は性能が良い」「自社製品は高解像度が自慢です」と聞いたことがあるかもしれませんが、その事実を示すために行われるテストです。
テスト結果で出たスコアは「ベンチマークスコア」と呼ばれます。

ベンチマークの語源・由来

ベンチマークという言葉は、参考画像1のような、もともと測量技師が測量を行う場所の石に彫ったベンチ型のマークから始まっています[1]Benchmark (surveying) – Wikipedia
こうしたベンチマークが今日の「基準」を意味するようになったのは、19世紀後半からのようです。
武器が弓矢から銃に本格的にとってかわるようになり、その工業化がすすめられる中で、銃の性能を評価する方法が講じられるようになっていきました。
銃の性能を評価する中で、銃を取り扱う人間の性能が均一でないことが問題となっていきました。例えば「照準の精度」を確認するために、同じ目標に対して銃を撃っても、人間の射撃の腕によって射撃の精度は変わってしまいます。
そのため、人間という性能が変わってしまう要素を廃し、ベンチに銃を固定し、同じ目標に弾を撃つことによって銃の性能を評価するようになったようです[2]Benchmarking – Wikipedia
これが「基準」としての意味でのベンチマークのはじまりとされています。

参考画像1:Wikiより

代表的なベンチマーク

代表的なベンチマークには「SPEC」「TPC」があります

SPECプロセッサの性能を評価するテスト。
整数演算の性能を評価するSPECintと小数点演算能力を評価するSPECfpがある。
TPCオンライントランザクション処理システムの性能を評価するテスト。

スマートフォンやパソコンのベンチマークのテストは、専用のテストプログラムやWeb上のツールを活用して行われます。

ベンチマークの必要性

次に、コンピュータのハードウェアやソフトウェアの性能を評価するベンチマークは、なぜ必要なのかを確認していきましょう。

競合他社の製品と比較できる

ベンチマークを行えば、競合他社の製品より優れている点と劣っている点を客観的に把握することができます。
例えばパソコン売り場では「処理速度が1.5倍速い」と性能の高さを謳っているのを見かけたこともあるかもしれませんが、あの情報はベンチマーク上で評価されたものです。
このように、ベンチマークを使えば、他社製品と比較して自社製品の強みを大々的に打ち出すことができます。
一方で、他社製品が自社製品よりも優れているパフォーマンスも把握できるため、自社の弱点を知ることもできます。
ビジネスでは想定している競合他社を指して「我々はあの企業をベンチマークしています」という風に言いますが、目標と掲げる企業との差を的確に把握すれば、その差を埋めていくことにも役立てていくことができます。

自社製品を客観的に評価できる

ベンチマークを行えば、企業の核となる能力やノウハウ、技術などコア・コンピタンス(企業の核となる強み)が客観的に把握できます
自社製品の強みや弱みを客観的に把握することができれば、経営資源の戦略的な最適配分が行えます。

変革しなければいけない点を把握できる

世界中の同業の競合他社と業績、経営方法、プロセス、製品の違いを比較することによって、競合に優位に立つための方策が検討できます。例えば、開発プロセスは競合に勝っているが、生産力が弱い場合は、生産力の強化に向けた戦略を考えなければいけません。
また、変革しなければいけない点を社内で共有することもできます。社内で共有することで、新しい目標を立てやすくなるというメリットもあります。

ベンチマークの作成手順

ロバート・C・キャンプ提唱のベンチマーク手順

ベンチマークによる経営戦略の策定を提唱したのは、経営コンサルタントのロバート・C・キャンプです。
ここからは『ビジネス・プロセス・ベンチマーキング―ベスト・プラクティスの導入と実践』で紹介されている、ロバートの手法を紹介していきます。

  1. どこを比較対象企業にするか定めるために「課題」を選択する
  2. プロセスを定義する
  3. 同業の競合他社となる比較対象を検討する
  4. データの情報源を確認する
  5. 自社製品と他社製品のデータを収集する
  6. 収集したデータ結果から、自社製品と他社製品の差を見つける
  7. 他社製品と自社製品の特徴を洗い出して、特徴の違いを見出す
  8. 今後の目標を決定する
  9. 社内でベンチマーク結果を共有する
  10. 最終目標を最終調整する
  11. 定めた目標に向けて実践する

ロバートはアメリカのゼロックス社が業績不振に陥っていたときに、この手法を用いて経営指導し、再生を成功させています。
比較対象の競合他社のデータを収集するのは、他社への視察が必要です。そのため、時間的・経済的なコストが発生するかもしれませんが、近頃は、オンライン上のリソースを活用できるので、コストは抑えやすくなっています。

性能テストとしてのベンチマークの作成手順

ロバートの手法は、経営戦略のためのベンチマークの利用法ですが、ハードウェアやソフトウェアのためのベンチマークであっても共通している部分が多々あります。
性能テストのためのベンチマークの作成方法をロバートのベンチマークの作成手法から抜き出すと、以下のようになります。

  1. 課題の選択
  2. 計測のプロセスの定義
  3. データの情報源の確認
  4. データの収集
  5. 結果の確認

ベンチマークは何を計測するのかという「課題の選択」から始まります。
そして「計測のプロセスの定義」「データの情報源の確認」を行います。ベンチマークを行う上で最も重要な作業であり、これらはベンチマークのことはじめである銃の性能評価のベンチに銃を固定する作業に該当します。
計測のプロセスの定義とは、どのような工程で計測を行うかを定めることです。
テストを行うにしても、毎回テストの工程が変わっていたら、評価があがったとしても、もしかすると計測の方法が違っていることが結果に影響しているだけかもしれません。
同様に、データの情報源の確認をしていないと、テストの結果に影響がでてしまうことがあります。例えばソフトウェアの操作性を評価するテストを小学生に100人に行ってもらうのか、60代以上のシルバー世代にしてもらうかでは結果に影響がでてきてしまいます。
これらの問題を排除するために、計測のプロセスを定義し、データの情報源を確認し、「同一の計測プロセスで、同一の情報源でテストを行った結果、製品Aより製品Bのほうが性能がよかった」と言えるようにしていきます。
「計測のプロセスの定義」と「データの情報源の確認」が終われば、あとはデータの収集を行い、結果の確認をするだけです。

参考

書籍

  • 『ビジネス・プロセス・ベンチマーキング―ベスト・プラクティスの導入と実践』生産性出版、1996年

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