【入門】SF思考とは?「未来の物語」でイノベーションを起こす思考法と企業の活用事例を解説
SF思考とは、SF的な思考法を駆使して、自分だけの「未来ストーリー」を生み出し、それをそれぞれのビジネスに接続していく考え方です[1]藤本敦也、宮本道人、関根秀真『SF思考 ビジネスと自分の未来を考えるスキル』ダイヤモンド社、2021年、ⅶ頁。以下、『SF思考』と略記。。
今回は、このSF思考について解説していきます。
コアとなる「3×5のSF思考」
SF思考を進める手掛かりになるのが、SF思考の提唱者の一人である宮本道人先生が考えた「3×5のSF思考」のSF思考です。
「3×5」は、「SF作家の思考法」、「SF編集者の思考法」、「SF読者の思考法」という3つの思考法と、各思考法の5つの要素に由来します。
ここからは、この「3×5のSF思考」の各思考法の要素を紹介していきます[2]前掲『SF思考』56頁。
SF作家の思考法
- その1: ちょっとおかしな「未来の言葉」をつくる
- その2: ある技術がとてつもなく進歩した世界をイメージする
- その3: いまと価値観やライフスタイルの違うキャラクターを生み出す
- その4: 多様な人間の視点から未来社会の仕組みを考察する
- その5: 世界に現れる新たな課題と、構造的に生まれるトラブルを検討する
SF作家の思考法は、SF思考をスタートさせる手がかりです。
藤子・F・不二雄先生の「ドラえもん」に出てきそうな「未来の言葉」を考え、その技術がある世界を考えていきます。
SF編集者の思考法
- その1: 人のこだわりに潜む専門知を拾い上げて、未来を考えるきっかけをつくる
- その2: 身近な悩みを未来社会につなぎ、共感を生む
- その3: 未来予測のためではなく、発想の飛躍のために知識を集める
- その4: これまでにない顧客の獲得のために、価値観をアップデートする
- その5: 物語の完成を目標にせず、その後の拡張や展開を事前に計画する
SF編集者の思考法は、SF作家の思考法で生まれたアイデアを膨らませていく思考法です。
作家と編集者がタッグを組んでよい作品を生み出すように、SF編集者の思考法を使って、でてきたアイデアをブラッシュアップしていきます。
SF読者の思考法
- その1: 主人公になったつもりで、未来の細部を自分ごととして考える
- その2: 架空の科学技術やガジェットに、知識を総動員してツッコミを入れる
- その3: 意外な未来社会像に対し、その過去や背景を妄想して理解を試みる
- その4: 虚構世界について友人と真剣に議論し、場合によっては作者と交流する
- その5: フィクションとして描かれた未来ビジョンでも、それを実現しようとする
作家と編集者がいくら「よい作品ができた!」と思っても、読者にとって面白いものでなければ意味がありません。
作家や編集者とは違う視点を提供し、さらに考えた未来像の詳細を詰めていくのがSF読者の思考法です。

このように、「SF作家の思考法」、「SF編集者の思考法」、「SF読者の思考法」のそれぞれの要素をかけ合わせながら、SF思考では未来像を考えていきます。
ワークショップの進め方
ここからは、『SF思考』で紹介されているワークショップの進め方を紹介していきます[3]前掲『SF思考』97頁。。
①発散フェーズ
- STEP1 「未来の言葉」で斜め上へジャンプする
- STEP2 「未来のガジェット」をデザインする
- STEP3 未来のキャラクターを動かす
②収束フェーズ
- STEP4 未来のガジェットが起こす変化を考える
- STEP5 未来のトラブルと解決法を考える
このワークショップも、先ほどの「3×5のSF思考」に基づいていることがわかります。
まずは、おかしな「未来の言葉」を考えたり、ドラえもんの道具のようなガジェットを考え、キャラクターを動かしていきます。
そして、ビジネスなどの実際の問題につなげていくために、その未来のガジェットがあるが故に起こる変化やトラブルを話し合い、その解決法を考えていきます。
なぜSF思考が必要か?
ここまでSF思考の発想法やワークショップの流れを紹介してきました。
では、このSF思考はなぜ必要なのでしょうか?
ここからは『SF思考』の記述をもとに、SF思考が現代において必要になる場面を紹介していきます。
VUCAの時代を生き抜くために
SF思考は、VUCAと呼ばれるリスクが多く、先行きの見えない時代に最適な発想法です。
なぜなら、SFというのは、常にリスクを考えてきたジャンルだからです。
新型コロナウイルスがまん延した時、感染経路や発生するパニックが似ているということで「感染列島」という映画が注目されました。
また、南海トラフ巨大地震の話題になると、小松左京の「日本沈没」がたびたび話題にあがります。
「感染列島」や「日本沈没」のように、SFというのは「もし未知のウイルスがまん延したら」「未曾有の巨大地震が発生したら?」というリスクを考えて物語を進めていきます。
こうしたSFの考え方は、リスクの多い時代に役立つでしょう。
VUCAについて詳しくは下記の記事もご参照ください。
組織のパーパスづくり
企業など、組織のパーパスを考え直す上でも、SF思考は大切です。
パーパスとは「目的」という意味ですが、ひいては「なぜ組織がなぜ存在しなければならないのか?」という問題にもつながり、昨今の企業はこのパーパスを定めることが多くなってきました。
自社のパーパスを考える際、古い価値観に縛られていては、将来に対して存在意義を失くしてしまいます。
そのため、SF思考で未来を考え、「その未来に私たちが何ができるか?」を問うことで、新しい価値観のパーパスを策定することができます。
イノベーションのアイデアを呼ぶ
SF的な考え方をすることは、イノベーションのアイデアを呼び込むことにもつながります。
テスラの創業者のイーロン・マスクを始め、イノベーターにはSF愛好家や、SF作品に影響を与えられた人が多くいます。
現実から少し飛躍した未来を考えるSF的な考え方は、新しいイノベーションを生むアイデアに繋がります。
SF思考の事例
日本の先進企業は、SF思考をR&D(研究開発)部門の人材育成、新規事業のアイデア創出、あるいは企業の未来ビジョンの策定・発信といった多様な目的に活用しています。
ここで、公開されているSF思考の事例を紹介していきましょう。
NECソリューションイノベータ(人材育成・R&D)
NECソリューションイノベータは、研究開発部門のイノベーション推進本部を対象に、SFプロトタイピングの手法を社内研修として導入しました[4]https://loftwork.com/jp/project/nes_sf-prototyping 2025年11月26日確認。
この4日間のオンラインワークショップの特筆すべき点は、プロの作家に執筆を依頼する一般的なSF思考のワークショップとは異なり、「社員自らがSF小説の執筆に挑戦」したことです。
これは、手法を単に「活用」するレベルを超え、未来を自由かつ鮮明に描く「SF思考」そのものを「体得」すること、すなわち組織能力(ケイパビリティ)の獲得を目的とした、より高度な取り組みだと言えます。
日産自動車(ビジョン発信・マーケティング)
日産自動車は、「自動運転社会の未来」をテーマにしたショートストーリー企画「日産未来文庫」を展開しました[5]https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2212/28/news050.html 2025年11月26日確認。
このプロジェクトでは、7名の著名な作家が参加し、自動運転が普及した未来の社会や生活を描く19話の物語を制作・公開しました。
これは、SF思考を社内のアイデア創出に用いるだけでなく、社会全体(消費者、ステークホルダー、規制当局)に向けて、自社が構想する未来のビジョンを共有し、未来に向けた議論を喚起するためのパブリック・リレーションズ戦略として活用した先進的な例だと言えます。
清水建設、リコー、三菱総研(未来ビジョンの共同構築)
ほかにも、清水建設は「建設的な未来」と題し、自社の先端技術(テクノロジー)と日本SF作家クラブの想像力を融合させ、未来像をテキストで描き出すコラボレーション企画を実施しました[6]https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2212/28/news050.html 2025年11月26日確認。
リコーは「西暦2036年を想像してみた」というWeb企画を立ち上げ、同社の研究者とSFクリエイターが「2036年のワークスタイル」について8つのジャンルで考察し、公開しています。
また、メソッドの提供側である三菱総研も、「カーボンニュートラルな未来」といった具体的な社会課題をテーマにしたSF思考ワークショップを主催し、ソリューションの創出に本手法を適用しています[7]https://icf.mri.co.jp/activities/activities-13590/ 2025年11月26日確認。
まとめ:未来は予測するものではなく、創るもの
今回は、ビジネスの新たな武器となる「SF思考」について解説しました。
- SF思考とは: SF的な発想で「未来の物語」を描き、そこからバックキャスティングして現在のビジネスや課題解決に繋げる手法。
- 3つの視点: 作家(発想)、編集者(洗練)、読者(共感)の視点を掛け合わせる「3×5のSF思考」が基本。
- なぜ必要か: VUCA時代の不確実性を乗り越え、既存の枠にとらわれないイノベーションやパーパスを創出するため。
SF思考は、単なる絵空事ではありません。 「こんな未来があったらいいな」という個人の妄想を、多くの人を巻き込む「物語」へと昇華させ、現実を変えていく力を持っています。 まずは身近な「もしも」を考えることから、あなただけの未来ストーリーを描き始めてみませんか?
注
| ↑1 | 藤本敦也、宮本道人、関根秀真『SF思考 ビジネスと自分の未来を考えるスキル』ダイヤモンド社、2021年、ⅶ頁。以下、『SF思考』と略記。 |
|---|---|
| ↑2 | 前掲『SF思考』56頁 |
| ↑3 | 前掲『SF思考』97頁。 |
| ↑4 | https://loftwork.com/jp/project/nes_sf-prototyping 2025年11月26日確認 |
| ↑5, ↑6 | https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2212/28/news050.html 2025年11月26日確認 |
| ↑7 | https://icf.mri.co.jp/activities/activities-13590/ 2025年11月26日確認 |


